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『ザ・ファイブ・ブラッズ』映画レビュー(ネタバレ、感想)


原題:『 DA 5 BLOODS 』
制作年:2020年
監督:スパイク・リー

レビュアー:車田 魁(現代社会学部)

『ザ・ファイブ・ブラッズ』とはスパイク・リーが監督を務め2020年に配信されたNetflixオリジナル映画である。「Black Lives Matter」の抗議デモがアメリカを中心に起きている最中に配信されたもので、人種差別が巻き起こる社会情勢・社会問題をベトナム戦争を背景に黒人側の視点から描いている。意外にも黒人視点で描いているベトナム戦争ものはこれまでになく、目新しい作品である。

4人の黒人退役軍人(ポール・オーティス・エディ・メルヴィン)が主人公で、戦争中に同じ隊に所属していた4人は、戦死した隊長ノーマンの遺骨と地中に隠した金塊を探し出すため再びベトナムを訪れる。物語の途中でベトナム戦争当時の回想シーンが描かれ、モハメド・アリやキング牧師、マルコムⅩの映像やサイゴンでの処刑の映像など、実際の記録映像なども効果的に随所に差し込まれており、現在の旅と戦時中の回想シーンを行き来しながら話が進んでいく。
4人とポールの息子デヴィッドを加えた5人は、ガイドのヴィンにジャングル手前まで案内してもらい、5人だけでノーマンの遺骨と金塊を探すため過酷なジャングルの奥地に入っていく。かつての戦場であったジャングルを進む中で当時の悲惨な経験を思い出し、今もなお残る心の傷に悩まされる。ポールはPTSDという精神病に苦しんでいる。様々な感情を抱きながらも捜索を続けていくと、土に眠っている金塊を発見することに成功する。さらにノーマンの遺骨も発見することができた。見つけた金塊は、帰国した際に同胞(黒人)の大義のために使おうと当時提案したノーマンの意思を尊重するものと金を目の前にし自己の利益にしようと考えるものと意見が対立する。仲違いをしながらもジャングルを抜けようとするが、その道中にエディが地雷を踏んで爆死してしまう。エディだけでなくデヴィッドも地雷に足を掛けてしまうが、そこにフランス人の地雷処理を行っているボランティア集団(LAMB)が現れ何とか命は救かった。この地雷の爆破シーンで、半世紀ほど経った今でも、間接的ではあるが「戦争」は続いているのだと痛感した。
そして、なんとかガイドの待つ合流地点に辿り着く。しかし、そこに武装したベトナム人集団が現れ金塊をよこせと要求してくる。素直に渡すわけもなく、銃撃戦となる。一先ずベトナム人集団を撃退することができたが、金塊のことなど今後の方針を巡ってポールとオーティス・メルヴィンはまたも仲間割れをし、ポールは1人でジャングルの奥に消えていく。オーティスはガイドと地雷処理ボランティアにも分け前を渡し仲間に引き入れ、近くの廃寺に移動する。ポールは仲間への愚直を吐きながらジャングルを突き進んでいく。仲間への愚直だけでなく、当時のアメリカ政府やアメリカ軍に対し、枯葉剤の散布のことなどを引き合いに出し戦争で黒人が不当な扱いだったと訴えているこのシーンは圧巻だった。しかし、後から追いかけて来ていたベトナム人集団に見つかり「お前は 俺の兄弟を殺した」と言われポールは殺される。このセリフは、金塊を巡り起きた銃撃戦でのことを言っていると思うが、ベトナム人が元GIに向かって言うのだから戦争時のこととも読み取れる。ジャングルに向かう途中にも、ベトナムの現地人が「お前 人殺し」「父と母 殺した」と4人に対し言うシーンが描かれており、「アメリカがベトナムにしたことは忘れないぞ」という憎しみの感情を未だに心の奥底に抱いていることを表したシーンであると感じた。
ポール以外が一先ず避難した廃寺に再びベトナム人集団が現れる。そこには、金塊の現金化を依頼していたフランス人のデローシュの姿もあった。4人らを裏切りベトナム人集団とグルとなり金塊を横取りしようと画策していたのだ。オーティス・メルヴィンとガイドは銃で応戦するも、手榴弾から仲間を救うべくメルヴィンは覆い被さり死亡する。最後は、デローシュをポールの息子デヴィッドが撃ち殺し銃撃戦は終わった。
生き残ったオーティスとデヴィッドは、皆の取り分の金塊をノーマンの家族、地雷処理撤去団体、黒人の差別抗議デモ活動の資金などへ寄付する。それら一連のシーンが流れ、この映画は幕を閉じる。

『ザ・ファイブ・ブラッズ』を通じて、戦争によって心に傷を抱え現在でも苦しんでる人がいるように、戦争は過去の出来事として完結していないのだと改めて感じさせられた。
そして、ベトナム戦争時黒人が人権を無視され不当に扱われていたことなど現代にも続く人種差別問題に対してのメッセージが込められており、色々と感じるものが多かった。
だがやはり、この手の作品には当事者(本作の場合はアメリカ人)でなくては響かない何かがあるように思う。実際に体験したりその場で生活し目の当たりにしなければ、問題の根底までは理解できないだろう。だからといって「アメリカ人ではないから関係ない」と知ることを放棄し人種差別問題に対して無関心・無知のままでいるのはどうだろうか。現在起きている現象を知る、これまで起きてきた歴史を学ぶことだけでも必要である。新型コロナの影響もあり世界中でアジア人差別が横行しているという現実もある。当事者でも当事者でなくても我々なりに人種差別問題には真摯に向き合わなければならない。

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