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【無料記事】The Art of Enamelling 鮮やかな色と精緻な表現のアート[前編]

エナメル・ジュエリーの知識

鮮やかな色と艶やかな光沢がジュエリーの重要な要素であったことは、エナメル装飾の歴史の古さからも窺えます。紀元前13世紀のミケーネのゴールド・リングに施されているのが、その最古のものです。装飾の自在さ、多色性と表現の緻密さ、そして軽さにおいてエナメルはカラー・ストーンに勝ります。しかしエナメル装飾は手間と時間と高度な技術を要し、現代のジュエリーからはほとんど姿を消してしまいました。アンティークの逸品を取り上げながら、あまり知られていないエナメルの技法と代表的なジュエラーについて解説していきます。

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『野バラの花枝のブローチ』

1900年頃、アメリカ。20世紀初頭のアメリカを代表する宝石店マーカス社の作品です。ゴールドにエナメルを施した花枝に、たくさんの蕾がコンク・パールで表現されています。花はピンクのマット、小さな葉はグリーンのマット、大きな葉にはグリーンのプリカジュールと、様々なエナメルの技法を用いた逸品です。

写真提供:御木本真珠島

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『ジュニーヴァ・エナメルのブレスレット』

19世紀初期、スイス。細密画に描かれているのは異なる地方の民族衣装を身にまとった娘たち。裏面にはカウンター・エナメルが施されています。
¥2,400,000(ROBEN TALASAZAN NY)

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『ジュニーヴァ・エナメルのブレスレット:2点セット』

19世紀初頭、スイス。表にはスイス連邦の22の州のことなった民族衣装を着飾った娘たちが、裏面にはそれぞれの週の旗が細密画で描かれている。
¥7,000,000(ROBEN TALASAZAN NY)


ペインティッド・エナメルの種類に入るジュニーヴァ・エナメルですが、特徴は仕上げに透明釉をかけたその美しい光沢にあります。

描かれる絵の題材は特に決まっていませんが、スイスの美しい山並みや山小屋の風景、あるいは写真のブレスレットのようにスイス各地の民族衣装を着飾った娘などが多く見られます。

 日本では古くから「七宝」の名前がありますが、ジュエリーの世界ではフランス語で「エマイユ」、英語で「エナメル」と呼ばれます。いずれも全く同じ意味ですが、英語の場合エナメル光沢のあるもの、たとえばバッグや靴、マニキュアにもエナメルの語を充てるため誤解されやすく、日本の七宝の世界では低温で焼成する低品質のものに限ってエナメルと呼ぶため、さらに混乱に拍車がかかります。

 エナメルの基本的な定義は、天然のガラス質の粉末に油を混ぜ、金属酸化物で色付けした一緒の顔料を金属やガラス、陶磁器の下地に塗り、通常1000度以下の温度で焼成して固着させる装飾技術ということです。天然のガラス質カリとシリカで作った顔料、すなわち釉薬をエナメル釉と言い、トランスペアレント・エナメル(透明釉)、トランスルーセント・エナメル(半透明釉)、オペーク・エナメル(不透明釉)の三つに大別されますが、それぞれ溶融温度が違い、調合する乳白剤の割合によっても微妙に変化します。

 エナメル装飾とその技法は世界各地へと伝播し、日本へもすでに古墳時代には伝来しています。仁徳天皇陵の石棺の一部に使われているのが、現存する最古のものです。歴史を通じて各文化に独自のものが培われたエナメル装飾は、ルネッサンスのイタリアにおいて1つの黄金期を迎えます。この時代に、ジュエリーは建築や彫刻、絵画に比肩する芸術の生きに達しますが、エナメルがこれに大きな役割を果たしました。彫金や内田氏による装飾性豊かで彫刻的なジュエリーを創造したフロレンティン・ベンヴェヌート・チェリーニ(1502-72)は、カラー・ストーンやダイヤモンド、パールに加え、ゴールドの造形にエナメルの彩色を欠かしませんでした。このルネッサンスのゴールドスミスの栄光であるエナメルは17世紀も重要な地位を占め続け、特に時計屋ミニアチュールのケースの装飾に用いられました。さらに新しい技術の開発によって広い色相の色が使えるようになり、花束やポートレート、物語的な絵画の複製すらも可能となりました。

 その後もエナメルはジュエリーの装飾的要素として、20世紀初頭まで重要な地位を占め続けますが、リモージュやジュネーヴといった産地名からも判る通り、製作の中心はフランス語圏へと移ります。ジュエリーに限らず、エナメルの技法のほとんどがフランス語になっているのはそのためです。日本では誤って英語読みになっている場合が多く、専門用語としてイギリスでもフランス語で呼ばれているので、ここで正しい呼称とともに主な技法についても触れておきます。

■シャンルヴェ Champlevé

金属の下地装飾パターンを彫り、その彫り込みに様々な色の不透明エナメルを満たし、下地と同じ高さになるまで何度か焼成と研磨を繰り返す技法です。多色の場合は色ごとに薄い隔壁で区切るため、それがそのままデザイン・パターンとなります。ケルト人のエナメル工芸品に古くから使われている技法です。

■クロワゾネ Cloisonné

金属の下地に金属のワイヤーや帯をろう付けして線画を書き、それぞれの部分に色付きエナメルを満たして焼成する技法です。エジプトや古代ギリシャ、ローマ、ヒザンチンでも使用されており、中世のアングロサクソン・ジュエリーにも見ることができます。明の時代の中国や日本でも広く使われてきた技法です。

■バス・タイユ Basse taille

金属の下地を深さを変えて彫刻し、そこに透明または半透明の単色エナメルを施す技法です。全体に浅いが深さを変えてトーンが生まれるように彫られています。焼成後研磨するため表面は滑らかで艶があります。多色もありますが通常単色使い、特に青と緑が最も効果的とされます。13世紀末から14世紀のイタリアで生まれた技術です。


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