ロックとリフレイン ガタリの思想をもとに

リフレインという概念は、フェリックス・ガタリとジル・ドゥルーズの共著『千のプラトー』で詳細に探求されていますが、その萌芽はガタリの単独の著作にも見られます。リフレインは、音楽用語で繰り返されるフレーズや間奏曲を指しますが、ガタリとドゥルーズはこの概念を生命、芸術、社会、そして思考のリズムやパターンを理解するための鍵として用いています。

音楽におけるリフレインは、曲に構造と記憶可能性を与えます。繰り返されるメロディは、聴く人に安心感や親密さを提供し、曲の中に「家」を見つけるような感覚をもたらします。しかし、リフレインは単なる反復ではありません。それぞれの反復は、曲の進行や編曲、演奏者の解釈によって微妙に変化し、新たな意味や感情を帯びます。

ガタリは、この音楽的な現象を人間の生活や心理にも適用します。私たちの日常には、朝のルーティン、仕事のリズム、週末の過ごし方など、多くのリフレインがあります。これらのパターンは、カオスの中に領土を作り出し、安定感や自己同一性を提供します。しかし、ガタリが強調するのは、これらのリフレインが硬直化すると、創造性や変化の妨げになるということです。生命力あるリフレインは、常に変奏の可能性を秘めています。

例えば、精神療法における対話もリフレインとして捉えられます。患者と治療者の定期的な会話は、安全で予測可能な空間を作り出します。しかし、オープンダイアローグのような革新的なアプローチでは、この対話のリフレインは固定されたスクリプトではありません。むしろ、その場の状況、参加者の関係性、新たな視点の導入によって、毎回異なる変奏が生まれます。この柔軟性こそが、新たな理解と変化を可能にします。

自然界にも、リフレインは満ちています。鳥のさえずり、波の音、風の囁きは、季節や天候によって変化しながらも、基本的なパターンを保ちます。ガタリは、人間と自然のこれらのリフレインが共鳴し合う可能性を「自然主義的アニミズム」と呼びました。これは、精神的、社会的、そして生態学的な健康が相互に関連しているという、彼のエコソフィー的な視点の一部です。

芸術においては、リフレインはさらに顕著です。画家のブラシストローク、詩人の韻律、ダンサーの動きのパターンは、すべてリフレインです。しかし、偉大な芸術家たちは、これらのリフレインを単に繰り返すのではなく、変容させ、破壊し、再構築します。ジャズのインプロビゼーションや、モダンアートの実験的作品は、リフレインの創造的な力を示しています。

さらに、思考そのものもリフレインを持ちます。私たちの習慣的な思考パターン、信念、価値観は、一種のメンタル・リフレインです。これらは私たちに知的な安心感を与えますが、同時に視野狭窄の罠にもなりかねません。ガタリが推奨する「リゾーム的思考」は、これらの固定的なリフレインを攪乱し、新たな接続や視点を可能にします。

最後に、ガタリにとってリフレインは、単なる反復や構造以上のものです。それは、秩序とカオス、安定と変化、個人と環境の間の絶え間ない対話です。リフレインは、私たちに安らぎを与える「自宅」を提供しますが、同時にその「自宅」の壁に穴を開け、新たな世界へと私たちを誘います。この緊張と調和、反復と差異の中に、ガタリは生命の本質と、持続可能な変革の可能性を見出しました。

オープンダイアローグやその他の革新的な実践は、このリフレインの知恵を体現しています。それは、安定したパターンの中に変化の種を蒔き、カオスの中にも意味を見出す勇気を私たちに与えてくれます。

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