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幽体離脱 V.2.2.7.9(2017/10/22投稿)

お邪魔いたします。シカゴ大学太田です。

誰でも自分の今の環境、状況が一番だ。と思いたいという欲求を常に持っていると思います。
アメリカ人はUSAがなんでも一番だと思っている。関係あるかどうかはわかりませんが、国際電話の国番号は1、DVDのregion codeも1。日本人は日本の科学技術が未だに世界一で欧米人より手先が器用であると思っている。みんなそう思うことで自分の中の何かを守りかつバランスを保っているのだと思います。でも、大概の人はそれが必ずしも正しくないということを心の中でなんとなく分かっている。

手術の経験値。
心臓外科医なら誰しもが常に渇望している事象です。このような「多くてもなんのネガティブな要素のない、というか多い方が良いに決まっている」ことですら、人はそれに自分で上限を設け自分の軌跡及び現状が「素晴らしいもの」もしくは少なくとも「悪くないもの」と思いたい。少なくとも私の中にはそのように思考し「逃げ道」さがす自分が存在し、そんな自分をかき消すのに日々苦慮しています。自己否定をしているのではありません。私のキャリアは神戸大学に始まりピッツバーグ大学、コロンビア大学、そして今シカゴ大学へと移りましたが、私はこの自分の軌跡及び各施設で受けたトレーニングに非常に満足し感謝しています。しかし世界中にいる卓越した大外科医を見聞きし、その歴然たる実力差を肌で感じて、どうしたら追いつけるのか考えてその達成の困難さに絶望する。そんな自分に逃げ道を作るという自己防衛反応を起こす自分との攻防。どこまで進んでも見えない夢の黄金の国ガンダーラへの旅路みたいなもんですね。方法が分からないのではない、ただ目の前の長い道のりにちょっと圧倒されているだけ。一歩一歩進む以外方法はないのは誰しも分かっていることですね。手術を疑似体験し自分の経験値へと変える「人の手術を見学する」ということは一番簡単に踏み出せる一歩ですね。ゆえに面白そうな症例や自分ならどうするか興味のある症例があるときは可能な限り手術室に見学に行くようにしています。以前まではどんな手術も目の前で起こることをありのまま見てそれはそれと認識し、自分の経験値の引き出しへとしまうような感覚でしたが、最近は少し自分の中で変化を感じています。「説明できるだけの理論は持ち合わせていないが、感覚的にその方法では多分うまくいかない、もしくは合併症を起こす」と確信する事例が見学症例に最近出てくるようになりました。実際に予想どうりの展開となった場合も、奢ることなく自分なりに症例及び行われた手技を分析し、貴重なnegative dataとして引き出しにしまいます。このような感覚の変化は自分の経験値がある一定のレベルを超えたために起こっているのかどうなのか気になるところです。でも確かめるすべはありません。じりじりと地道に進むのみですね。

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写真:以前も言及したと思いますが、趣味で適当にマラソンをしています。何をするにも事前の準備と研究を欠かさず、とことん追求してしまう性分の私にしては珍しく適当にやっていても後ろめたさのない、むしろ適当にやっているからこそ続いている趣味の一つだと思います。ゆえにその実力は伸びるはずもなくいつも最下層でボロボロになりながら、「歌って踊れる恰幅のよい人」のカテゴリーにいる人達と壮絶なデッドヒートを繰り広げています。客観的な実力評価法、つまり記録に関してはもちろん全く成長している気配はありません。しかし最近、自分が自分自身の体の悲鳴を的確かつ早期に検出し、悪化を最小限に抑えながらなんとか乗り切る能力がつき始めていることに気付きました。初めてのマラソンの時は膝と足首を筆頭に全身に激痛をまといながらなんとかゴールし、その後2週間はほぼ全く歩けない状態になっていましたが、最近ではマラソン2日後には階段の上り下りができるという初期には考えられない状況に自分がいることに驚いています。つまりこれはマラソン競技という事象に対し経験値のみにより成長し得る側面の一部を体現したものということになるのではないかと思っています。強靭な肉体、高い走力を持つ人たちには全く関係のない分野かも知れませんが、もし私が、マラソン競技者として順調に成長し、いわゆるマラソンの実力が卓越した領域まで行くことがあったとしたら、経験値より得たこの側面はマスクされてしまいその存在にも気づかないことなのかもしれません。そう思うと、適当にやっているがゆえに起こったこの実力と経験の解離から生まれた新しい知識・能力は貴重なもののような気がします。しかし本業の手術に照らし合わせると、私が実力を順調に伸ばし経験値的な側面がマスクされているのか?もしくは逆に本来あるべき実力との解離によって経験値の側面が漏れ出ているのか?自分の経験値の蓄積を実感するたびに気になってしょうがないです。あー、筋斗雲でビューーっとゴールしてしまいたい!
あ、例によって写真の説明が遅くなりましたが、最近行われたシカゴマラソン無事完走しました。このTシャツはわかりにくいですが、北原先生がこの日のために作ってくれた「NIKEドライフィットベースのチームWADA特別アスリートバージョン」です。NIKEのロゴと重ならないようにチームWADAが右側に、かつゼッケンの位置を確保するため少し上についている完成度の高いTシャツです。

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