アメリカ・悩める肥満大国
「佐々木敏の栄養データはこう読む!」(佐々木敏著・女子栄養大学出版部・2015年)第3章:「introduction アメリカ 悩める肥満大国」より
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ここ30年ほどのアメリカにおける肥満者の増加はただ事ではない。
40~59歳の男性を例に挙げると、1960年代初めにおよそ13%だった肥満者(BMI30以上)の割合はその後じわじわと増え、
80年頃から急激な増加に転じ、99年には29%に、そして2003年にはついに35%に達した。
また日本人の太り過ぎの基準(BMI25以上)に当てはめてみると、何とアメリカ人の成人男性の7割、成人女性の6割が太り過ぎとなる。
こうしてみると、「肥満大国アメリカ」は意外にも最近の現象だといえ、「obesity epidemic=肥満の流行」とも呼ばれているが、この現象はさらに深刻な社会問題をはらんでいる。
99年から02年にかけて行われた調査を基に作られた全米肥満マップを見てみると、ディープサウスと呼ばれる南部地域とテキサス州が最も深刻な問題を抱えていることがわかる。
そして99年の調査結果では、家賃の収入が低い層ほど肥満者の割合が高いことが判明している。
肥満はぜいたく病ではなく、貧困層を襲っていたのである。
ところで、ここで1つ不思議な現象がある。肥満が急激に増加したこの30年間は、アメリカの代表的な生活習慣病である心筋梗塞が著しく減少した時期とほぼ一致しているのである。
これは肥満気味の方が心筋梗塞にかかりやすいことを考えると理解に苦しむ現象である。
70年代から80年代にかけて、アメリカは心筋梗塞対策に躍起になっていた。
食事面での対策の中心は、ローファット(低脂肪)とローコレステロール(低コレステロール)。
もう少し詳しく言うと、ローファット食品を勧めたのは「飽和脂肪酸」の摂取を減らすためである。
当時アメリカ人が摂っていた脂肪の半分近くが飽和脂肪酸で占められていたが、
心筋梗塞の原因が脂肪全体というより、飽和脂肪酸という特定の脂肪にあるということが既に明らかになっていた。
つまり、脂肪全体を制限すれば、ほぼ自動的に飽和脂肪酸の摂取量が減ることが期待出来たのである。
こうした経緯でアメリカの巨大なスーパーマーケットはローファット、ノーファット食品のオンパレードとなっていった。
ローファットの嵐は功を奏し、アメリカ人の飽和脂肪酸の摂取量は着実に低下していき、心筋梗塞の発症も減少した。
しかし、対照的に糖尿病が増え続け、今や心筋梗塞のかつての座を奪った感すらある。
最近の研究結果が指摘しているのは、食物繊維摂取量、特に穀物由来の食物繊維の摂取量が少ないこと。つまり高度に精製された穀物製品の過剰摂取の問題である。
そしてもう1つが、ソフトドリンクの大量摂取の問題である。これは、コーンシロップ(とうもろこしを使って砂糖よりも安価に生産出来る液体の糖)の導入と消費量の増大に象徴的に表れている。
ソフトドリンクへのコーンシロップの技術は、1966年に始まり、2000年にはアメリカ人1人当たり毎日92gを消費するまでになった。これは甘味料全体のエネルギーの4割以上にあたる。
こうしたことから、アメリカでは最近、白いパンやパスタを控えて、全粒粉や精製度の低いパンやパスタにしたり、野菜やくだものをもっと食べようという運動が盛んになってきている。
また、小学校では自動販売機からコーラを撤去して、くだものジュースに入れ替える動きも増えているようだ。
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「佐々木敏の栄養データはこう読む!」(佐々木敏著・女子栄養大学出版部・2015年)第3章:「introduction アメリカ 悩める肥満大国」より
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