この40年間で日本人はどれだけ減塩出来た?

佐々木敏の栄養データはこう読む!
第2章:「4 日本人と減塩」より

国民健康・栄養調査は、半世紀以上にわたり毎年数千人にお願いし、食事記録法によって国民の栄養素摂取量を調べ続けている、恐らく世界で唯一の調査である。
食塩摂取量は1975年から報告されており、これによると70年代にはおよそ14gもあった摂取量が、最近は10gにまで低下している。

一方で、エネルギー摂取量は75年に1日あたり2,226kcalであったのが、2012年には1,874kcalとなり、16%も減少している。
一定量のエネルギーを摂取したときの食塩量という観点では、2002年まで1,000kcal当たりほぼ6gで推移していて、その後やっと減少に転じる。
つまり、この40年間で目立った減少はみられない。

これだと、この40年間に日本人が経験した食塩摂取量の減少は、国民が積極的に減塩した結果でも、冷凍・冷蔵庫の普及や流通の進歩のおかげでもなく、
食べる量全体が減り、食塩もそれに比例して減ったからに過ぎないと解釈されてしまう。

なお、この期間に自家用車の保有率は上昇しており、労働形態も大きく変わっている。
活動量の減少がエネルギー摂取量低下の一因であると言えそうである。

また、高齢化による影響という解釈も出来る。人口構成が高齢の方にシフトすれば国民全体としてのエネルギー必要量は下がるため、それに応じてエネルギー摂取量も食塩摂取量も下がって当然である。こうなると、もはや「減塩が進んだ」との解釈は成り立たない。


国民健康・栄養調査では、食べたものの名前とその重さや容量を記録してもらう「食事記録法」を採用している。
これは参加者側としても大変な調査であり、参加協力者は年々減少傾向にある。
この種の調査の協力者は健康的な生活をしている人に偏り、参加者が少なくなるほどこの傾向が強まることが知られている。
記録する日だけ食事をわざと簡単なもので済ませたり、記録漏れをしてしまうケースも少なくないのではないかという推測もある。

摂取した食塩(塩化ナトリウム)は小腸からほぼ100%吸収され、体全体で使用された後に腎臓を経て、最終的に約86%が尿中に排泄される。
そのため、1日分の尿を全部ためて食塩量を図り、0.86で割り戻して食塩摂取量を算出する「24時間蓄尿」が最も正確な測定法と言われている。

とはいえ、指定された容器に1日分の尿をすべてためるのは、普通の生活の中では容易ではない。
24時間蓄尿を採用した調査のうち、結果の信頼度まで考慮すると参考になりそうなデータは多くないが、代表的な研究を纏めて解析したところ、
1985年以降の25年間での食塩摂取量はほぼ減っていないことが分かった。
これを踏まえても、実は食塩摂取量は減っていない可能性が示唆される。

「日本人は本当に減塩出来たか?」の問いに対する最も科学的な答えは、現時点では「減っているかどうかすらもよく分からない」となるようである。

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