[フィンランド]森と湖と疫学研究の国
佐々木敏の栄養データはこう読む!
第1章:フィンランド「森と湖と疫学研究の国」より
フィンランドが生活習慣病の予防に関する様々な医学研究、特に「疫学」(※)と呼ばれる分野の研究を他の国に先駆けて行い、数多くの成果を世界に発信してきたことは日本であまり知られていない。
(※)疫学:疾病や健康に関連した出来事とその要因を集団を対象に研究する学問のこと。
1960年頃、フィンランドは世界一心筋梗塞の多い国であったが、
その謎を探るべくフィンランドの他にオランダ、イタリアなど7か国をの研究者が、食事と心筋梗塞の関連を調査する疫学研究に着手した。
この研究は「7か国研究」と呼ばれ、食事と健康に関して初めて世界規模で行われた疫学研究として歴史に大きく残るものとなった。
7か国研究の最も大きな成果は、「飽和脂肪酸の過剰摂取が血清コレステロールを上昇させ心筋梗塞の原因となる」ことを、特別な実験でなくごく普通に暮らしている人々から集めたデータから明らかにした点であろう。
この結果を受けて始められた取り組みの成果もあり、普通牛乳は低脂肪乳にとって代わられ、バターとマーガリンの摂取量も逆転した。
併せて実施された減塩運動や禁煙運動の効果も相俟って、心筋梗塞の死亡率は著しく減少した。
この成果は生活習慣の改善が多くの命を救うことになる実例として世界中のお手本になった。
なお、7か国研究の他の注目すべき成果の1つに、「飽和脂肪酸だけでなく、不飽和脂肪酸のトランス脂肪酸も心筋梗塞の原因になる」ことが挙げられる。
トランス脂肪酸とは、植物油からマーガリンやショートニングを作る過程で出来る脂肪酸の一種である。
自然界にはわずかにしか存在せず、そのほとんどが人工的に作られたものである。
マーガリンの中にはトランス脂肪酸が含まれており、飽和脂肪酸に比べて相対的に摂取量が増えたため、この問題が表面化し始めたのである。
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