観戦記⑦
7回目の今回、向かった場所はIAIスタジアム日本平。
J1清水エスパルスのホームグラウンドだが、今回観戦した試合はJリーグの試合ではなく、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグWEST 2022 第5節清水エスパルスユース対大津高校の一戦。
今シーズンよりクラブのレジェンド澤登正朗新監督を迎えた清水エスパルスユース。
安定して強さを誇っている静岡の名門クラブがレジェンドを迎えてどう変化するのか注目だ。
また、GKコーチは元ヴァンフォーレの川北裕介コーチが務めている。
一方の大津高校は県立高校ながら昨年度の高校サッカー選手権準優勝となった熊本の名門校。
日本代表の谷口彰悟選手(川崎フロンターレ)や植田直通選手(ニーム・オリンピック)の出身校でもあり、彼らに続き日本を代表する選手になる可能性を秘めた選手を今シーズンも抱えている。
1.スタメン
清水エスパルスユース
16.北村 風月【東京ヴェルディジュニアユース】3年
4.和田 晃生【WYVERN知多SC】3年 ☆21年U17日本代表
5.後藤 啓太【清水エスパルスジュニアユース】3年
6.石川 晴大【清水エスパルスジュニアユース】3年 ☆21,22年U17日本代表、20年U16日本代表、19年U15日本代表
14.渡邊 啓佳【清水エスパルスジュニアユース】3年
7.安藤 阿雄依【VITTORIAS FC】3年 ☆21,22年U17日本代表、21年U16日本代表
15.太田 成美【清水エスパルスジュニアユース】2年
20.星戸 成【清水エスパルスジュニアユース】2年 ☆20年U15日本代表
22.矢田 龍之介【1FC川越水上公園】1年 ☆21,22年U16日本代表、21年U15日本代表
9.成澤 夢行【清水エスパルスジュニアユース】3年 ☆19年U15日本代表
11.斉藤 柚樹【清水エスパルスジュニアユース】3年 ☆19年U15日本代表
ベンチ
31.鈴木 暁登【袋井市立袋井南中学校】3年
12.笹原 堅信【清水エスパルスジュニアユース】3年
18.有村 柊人【清水エスパルスジュニアユース】2年
3.浅井 寛大【清水エスパルスジュニアユース】3年
26.仲野 丈翔【清水エスパルスジュニアユース】2年
8.田中 侍賢【清水エスパルスジュニアユース】2年 ☆20,21年U16日本代表、19年U15日本代表
28.田代 寛人【清水エスパルスジュニアユース】1年
☆年代別代表経験者
大津高校
スタメン
1.西 星哉【DESAFIORA.FC】3年○
3.坂本 翼【サガン鳥栖U-15唐津】3年
12.田辺 幸久【菊陽町立菊陽中学校】2年○
22.五嶋 夏生【ブレイズ熊本】1年
8.碇 明日麻【FCK MARRY GOLD AMAKUSA U15】2年○ ☆22年U17日本代表
10.田原 瑠衣【FC NEO JUNIOR YOUTH】3年○
13.中馬 颯太【セレソン都城FC】3年
24.坂本 龍之介【FC NEO JUNIOR YOUTH】3年
28.嶋本 悠大【ブレイズ熊本】1年
9.小林 俊瑛【藤沢市立鵠沼中学校】3年○ ☆22年U19日本代表、21年U17日本代表、20年U16日本代表
18.山川 柊【FC.CONQUESTA】3年
ベンチ
16.南 太童【横浜FCジュニアユース戸塚】3年○
5.大和田 空【藤沢市立鵠沼中学校】3年○
6.浅野 力愛【レタドール熊本SC】3年○
7.岩崎 大翔【ヴィンクラッソ大分FCジュニアユース】3年
14.稲田 翼【ブレイズ熊本】2年○
17.香山 太良【ギラヴァンツ北九州U-15】3年
20.日置 陽人【ブレイズ熊本】2年○
☆年代別代表経験者
○21年度全国高校選手権準優勝メンバー
2.試合展開
雨が強く降る中での一戦は清水のキックオフで始まった。
立ち上がりにいきなり試合は動く。
清水が右サイドからクロスを入れるとGKの西選手が飛び出しキャッチに行くが雨で滑り、ボールをこぼしてしまう。
こぼれ球に矢田選手が反応し、シュートを放つとDFがブロックするが跳ね返りを成澤選手が押し込み清水が先制に成功する。
清水、大津共にボールを保持し試合を進めることを狙う中でボール保持時の陣形は似たような形で行っていく。
右サイドを起点に攻め手を作る両チームだが、共にSHの選手が幅を取りSBは中央に入っていきSHへのパスコースを空けることを意図する。
だが、崩しの形は両チームで違いを見せる。
まずは清水。
SHの安藤選手のスピードを武器に縦への突破からクロスという形でチャンスを作っていく。
一方の大津。
同じようにSHが幅を取るが清水の安藤選手とは違い、田原選手は縦への突破よりも左利きであることを活かしカットインからのクロスや中央を上がってきた坂本選手や嶋本選手とのコンビネーションからの崩しを狙っていく。
14分に清水が追加点を決める。
左サイドから石川選手のクロスに斉藤選手がDFの前に入り込み、ヘディングで合わせ清水がリードを広げる。
清水は442の3ラインが統率されており、田原選手を起点とした右サイドのコンビネーションや小林選手のポストプレーからの攻撃が機能しない大津。
40分には右サイドを抜け出した斉藤選手のクロスに成澤選手がヘディングで合わせ、清水が3点リードに広げる。
一度、判定の確認等含めてプレーが止まった時間はあったもののファールやタッチラインを割るなどでプレーがほとんど止まること無く、オンプレーが長く見ごたえのある前半となった。
後半開始から大津は3人の交代を行う。
中馬選手、嶋本選手、山川選手に代えて香山選手、浅野選手、稲田選手を投入する。
まずは1点を返したい大津だが、後半最初のチャンスも清水。
47分に安藤選手のクロスに斉藤選手がヘディングで合わせるが、惜しくも枠を外れてしまう。
49分、50分と大津が続けて交代で入った香山選手のクロスから小林選手、稲田選手がヘディングで合わせるがいずれも北村選手の正面を突いてしまう。
57分には清水が足を攣った成澤選手に代えて田中選手を投入する。
62分に清水が4点目を挙げる。
左サイドから石川選手が上げたクロスが西選手の頭上を超え、ゴールマウスに吸い込まれる。
点が欲しい大津はゴール前まで迫る回数は増やすが、清水の粘り強いディフェンスの前に決定的な形までは作れない。
83分には両チーム共に交代を行う。
清水は矢田選手に代えて仲野選手、大津は田原選手と坂本選手に代えて岩崎選手と日置選手を投入する。
89分には清水が後藤選手と太田選手に代えて浅井選手と笹原選手を投入。
このまま清水が得点を許さず勝ちきった一戦となった。
3.注目選手
清水エスパルスユース
14.渡邊 啓佳
攻撃的な右SB。
偽SBと言われるモダンなスタイルから純粋にタッチライン際の往復という旧来型のスタイル共にこなせる万能性を持つ。
組み立てに参加し、攻撃の起点となったかと思うとゴールライン際まで攻め込んでクロスを上げたりと攻撃面では何でもこなす。
一方で守備では対面の選手にクロスを上げられたり背後を突かれる場面もあり、強度含めてまだ課題はあるように感じた。
守りの課題をクリア出来れば市川大祐氏のように清水の右サイドで躍動する選手となれるかもしれない。
7.安藤 阿雄依
右サイドを主戦場とするスピードスター。
この選手の最大の特徴はとにかく速いこと。
単純に走るスピードだけでなく、ボールを持っての仕掛けも速くさながら日本代表伊東純也選手のようなイメージか。
現在トップチームには一学年上の川谷凪選手がおり、プレースタイルも被るだけに昇格の可能性は低い気もするが大学で名を馳せJリーグにやってくる可能性は充分にありそうだ。
ゴール前の落ち着きや精度が伴ってくると恐い選手となれるだろう。
22.矢田 龍之介
個人的に清水の選手で最も見たかった選手が矢田選手であった。
埼玉県の街クラブの選手が年代別代表に選ばれたことで昨年度から名前は知っており、清水に行くことも知っていたが一年から名門清水のレギュラーを務める程の実力者だったとは。
テクニシャン揃いの清水にあってトップクラスのテクニックを誇り、1年生とは思えない落ち着きや視野の広さでディフェンスと前線のハブとなるボランチ。
大津高校は2トップがボランチを消しながら守備を行っていたが、味方に見つかるポジショニングの上手さや相手の裏をかく老獪さを併せ持ちいわゆるサッカーを知っている選手だと感じた。
清水の選手では成岡輝瑠選手に近いタイプではないだろうか。
また、ビルドアップに加わっていたかと思うとチャンスとみるやゴール前まで駆け上がりシュート局面にも顔を出す。
将来的には点が取れるボランチとなっていくだろう。
15歳とは思えない完成度の高い選手でありながら伸びしろも充分ある末恐ろしい選手だ。
9.成澤 夢行
名門清水エスパルスユースのキャプテン。
相方の斉藤選手とは似たタイプながらより献身的でチームのために戦える選手である。
献身的で何でも卒なくこなせるタイプであり、どのようなタイプの選手と組んでも力を発揮するだけでなく相方を活かせる選手だが気になる点は55分程で足を攣った点。
怪我やコンディションを崩していた可能性もあるが、プレースタイルを考えると長い時間走りきりたいところ。
清水エスパルスOB岡崎慎司選手のように献身的で味方のために戦いながら点が取れる選手なだけに長い時間プレーする姿を見てみたい。
11.斉藤 柚樹
成澤キャプテンとスタイルは似た選手だが、よりストライカー色の強い選手だと感じた。
一昔前の点だけ決めれば良いと考えるタイプの選手ではなく、近代的な幅広くプレーに関わることができるストライカー。
ゼロトップ的に下がって起点となることもでき、前線で体を張ってのポストプレーやDFラインの背後への裏抜けもこなせる万能なタイプ。
特に目についた点は守備から攻撃への切り替えの速さ。
味方がボールを奪った瞬間に動き出しており、ボールを奪ったら斉藤選手を見つけることができれば一気にチャンスを作れそうな印象も受けた。
清水エスパルスで活躍した選手でイメージできた選手はいないが、他チームではコンサドーレ札幌の興梠慎三選手のようなタイプのように感じた。
大津高校
22.五嶋 夏生
1年生ながら昨年度の高校サッカー選手権準優勝校のCBを務めているだけですごいことである。
15歳で188cmというだけでロマンが溢れており、ワクワクするのは私だけでは無いだろう。
長身のCBながら足元の技術も高く、ただデカいだけの選手では無い。
だが、まだまだ遠慮が見られるように感じた。
足元の技術もあり、球出しもできる選手のように感じたが攻撃の起点となるパスを出した場面は無かった。
五嶋選手に欠けているのは自信の欠如では無いか。
持っているポテンシャルは高いものがあるように感じ、今後年代別の代表候補に名前が上がることはあるかと思う。
間違いなく世代を代表する実力は持っており、自身のポテンシャルの高さに気づいた時には名前が日本中に知れ渡るような選手となるはずだ。
8.碇 明日麻
まずCBでプレーしていることに驚いた。
FWが本職ながら昨年度はボランチでプレーしていたというのが事前に私が持っていた情報であった。
だが、CBでのプレーは本職さながらのものであった。
この試合を見て最も日本代表に近い存在は?と聞かれたら碇選手と挙げるだろう。
長身を活かしたヘディングの強さ、中盤や前線をこなせる足元の技術の高さを武器としている。
特にビルドアップでは左右両足からの散らしは効果的であった。
だが、質の高い球出しができる選手なだけにスイッチを入れる縦パスや勝負パスが出てこなかったことは残念であった。
求めるレベルが他の選手とは違うのは高い実力の証か。
大津高校OBには谷口彰悟選手や植田直通選手といった日本代表のCBがいるが、より近いタイプは谷口選手だろう。
谷口選手は筑波大学を経由して川崎フロンターレに入ったが、碇選手は直接Jリーグ入りを果たすと考えている。
ボランチとしてプレーするならばバルセロナのブスケッツ選手のような高さがありながら散らせるタイプの選手となって欲しい。
ボランチでもCBでも一流の選手となれるはずだ。
2年生ながら今年Jリーグ内定が出てもおかしくない程の選手である。
10.田原 瑠衣
右サイドを主戦場とする左利きのドリブラー。
キレキレのドリブルが最大の武器だが、ドリブラーにあらがちな独りよがりの選手ではなく味方を使える選手である。
特にSBの坂本選手との相性は良く、右サイドは大津高校の大きな武器であった。
課題を挙げるとゴール前の質とゴールへの意欲か。
クロスの精度やラストパスの精度が上がり、ゴールに絡む回数を増やせると価値は上がっていくだろう。
昨年度の活躍とプレミアリーグでプレーしていることを考えると強豪大学入りは間違いないかと思う。
得点に絡める恐い選手となれればJリーグでプレーする姿を見ることはできるはずだ。
28.嶋本 悠大
昨年度高校サッカー選手権準優勝を支えたのは森田大智選手(早稲田大学)と薬師田澪選手(法政大学)のWボランチであった。
2人の抜けた穴は大きいが、碇選手が埋めるだろうと考えていたボランチのスタメンに名があったのは1年生であった。
CBの野田翔升選手が怪我で不在で碇選手がCBに下がったことで出番を得ているようではある。
現状、坂本選手の方が安定した活躍は見込めるように感じた。
実際前半で途中交代となったが、田原選手が開くことで空けたスペースを認知する力や高い技術力は充分スタメンを掴むに値し、1年生でこれだけできるなら将来的には森田選手や藥師田選手を超える選手となれるのではないかと期待を込めて名前を挙げてみた。
気は早いが来年度も碇選手、五嶋選手と共に大津のセンターラインは強固なものとなりそうだ。
9.小林 俊瑛
最も楽しみにしていた選手だが、期待していた程ではないという失望感もあった。
だが、それは単純な実力不足ではなく期待値が高いからこそ来るものである。
完成度の高い選手では無く、秘めたポテンシャルは一級品であると感じた。
大型のストライカーとして過去の高校サッカーを振り返ると平山相太氏や大迫勇也選手の名前が出てくるかと思う。
だが、現時点では冬の高校サッカー選手権で怪物と呼ばれるような活躍や半端ないと恐れられる活躍を見せるとは思えない。
それは平山氏や大迫選手に対して劣っているからではなく、圧倒的な存在感を感じないためである。
間違いなく世代を代表するストライカーではあるが、課題も多いと感じた。
特に華奢な印象はあり、191cmの長身ながらフィジカル面ではまだまだ成長の余地を感じた。
大迫選手のように体の使い方が上手く、反転や収めることも改善の余地が見られた。
また、ストライカーとしても相手が恐がるエリアに飛び込むことは多く無かったように感じる。
だが、長身の選手にありがちなヘディングが苦手な選手ではなく特にボールの落下地点の予測能力や頭に当てる能力は高く、体が出来上がれば空中戦はJリーグの舞台でも無双できるのではと感じた。
長身ながら柔らかさを感じる選手であり、技術も付いてくるとポストプレーからラストパスも出せる選手となれるかもしれない。
守備においては強度こそ高くは無いものの後方を消しながらプレスを掛けていく上手さを感じた。
守備を苦手とするタイプでは無いだろう。
これだけ名が知れている選手でありながら伸びしろが人一倍あると感じたことも含め、持っているポテンシャルはこの試合に出た選手では飛び抜けて高いのではないか。
この逸材がどのように今後育っていくのか。
育てることができるのか楽しみでならない。
4.あとがき
清水エスパルスはいい意味で予想を裏切られた。
非常に完成度の高いチームであり、トップチームが適応出来なかったモダンなスタイルのチームであった。
良くも悪くも清水にはサッカー文化が根付いており、ヨーロッパ的なサッカーを受け入れる拒否反応が強いことがクラモフスキー監督やロティーナ監督が成功出来なかった要因なのかと感じていた。
当然トップチームは結果も求められることから新たに構築する時間や我慢が足りなかったのかもしれないが、澤登監督がチャレンジできるのであれば成功を収めることは可能なのかもしれない。
外から来た外国人監督に許される時間とレジェンドに与えられる時間は間違いなく異なり、澤登監督が今後作り上げるユースだけでなくトップチームでの指揮も期待できると感じさせた。
大津高校は結果的に大敗となってしまったが、開始直後のミスからの失点が無ければ違った展開になっていた可能性もある。
大敗するようなチームでは決してなかった。
昨年度の高校サッカー選手権のような大きな成功を勝ち取ることはどのチームでも容易なことでは無いが、再びあの地に戻る可能性も充分にあるかと思う。
それだけのスケールを持った選手を複数抱えている。
必要なことは成功体験や苦しい時間帯でも我慢できるメンタル的な強さか。
下級生も多い中で明確にリーダーシップを発揮し、引っ張っていける選手が出てくれば面白そうだ。
非常にレベルが高く見応えのある試合であった。
願わくば良い条件の中での試合であれば尚良かった。
また、IAIスタジアムという素晴らしいスタジアムでユースの試合を行えることは素晴らしいことだなと感じた。
甲府もユースの試合を小瀬で行えば観戦に訪れる人も増えるはずであり、トップチームをより身近に感じることができるのではないだろうか。
高校サッカーはやはり最高だ!
この試合には将来Jリーグのピッチに立つ可能性のある選手や日本代表にまで登り詰める可能性は数多くいた。
今後の彼らの活躍にも注目していきたい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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