J2第22節 アルビレックス新潟vsヴァンフォーレ甲府
前節磐田と引き分け、3試合連続のドローとなった甲府。
今節はアウェイでの新潟戦となる。
5連戦の3戦目、中2日であることから大きくメンバーが変わることが予想される。
一方の新潟も甲府と同じく3試合勝ち無し。
前節愛媛と引き分けたが、その前2試合は徳島、北九州と昇格争いのライバルに敗戦。
夏場に大型補強を行い、後半戦注目のチームの1つであったがここまでは結果としては出ていない。
今節から後半戦となるが、前半戦は甲府ホームで3対3の打ち合いの末ドロー。
新潟ホームでは通算成績では新潟が11勝6分6敗だが、甲府が2連勝中となっている。
ここ5年ではアウェイ新潟では1度しか負けておらず、近年は得意な相手の1つとも言える。
川中島ダービー第2ラウンドは昇格戦線生き残りのための1戦となる。
1.ハイライン
スタメンはこちら。
甲府は前節より8人変更。
また、前回対戦時からも8人の変更となった。
注目は須貝英大。
来シーズン明治大学からの加入が内定している中央市出身の選手。
複数チームから興味を持たれていたが、地元の甲府を選んでくれた選手である。
サイドを本職としている選手で明治大学では、左サイドで起用されているが今節は右サイドでの出場となる。
同じく特別指定選手の関口選手が水戸戦、琉球戦とインパクトを残しただけに須貝はどうなるか。
「ナイスガイ須貝」の活躍に期待したい!
一方の新潟は前節より5人変更。
前回対戦時からは8人の変更となった。
注目は本間至恩。
J2屈指のドリブラーでありながら、今シーズン5ゴールを挙げているアタッカーである。
前回対戦時は途中出場から3点目をアシストした。
本間に自由を与えてはいけない。
お互い前回対戦から8人入れ替わっており、やり方も変わっているため前回対戦は参考にならないかもしれない。
お互いに幅を取ることを意識し、相手DFラインを広げたい狙いを持つ。
甲府はサイドで幅を取るのは太田と荒木が基本であり、右は太田と須貝がローテーションしながらポジションを取る。
狙うのはその右サイドの背後のスペース。
一方の新潟はまずサイドで幅を取るのは大本と本間。
左は本間のポジションに合わせ荻原がサイドに張る形も見られた。
立ち上がりからハイラインを敷き、コンパクトさを保つ甲府。
特にクリアやバックパスに対してDFラインを上げるタイミングが速く、全体が一体となって上げられていた。
9分のシーンは相手のスローインの場面だが1度相手が下げたボールに対し、ラインを上げる。
そこから相手がクロスを上げるのに合わせラインを下げる。
細かなラインコントロールの中で放り込まれたクロスに対し、太田がクリア。
そこから一気に30m近く上がる。
相手選手4人をオフサイドラインに置き去りにした。
その際最前線ラファエルから最後方の新井まで10mほどしかないまでコンパクトさを保っていた。
ハイライン、ハイプレスが失点が少なくなってきた要因である。
ただ、今節の甲府はハイプレスのところは上手く使い分けていた。
ハイプレスを剥がされ、本間にスペースを与えることは大変危険である。
前から激しくいく時間とブロックを敷く時間を上手く使い分ける。
以前までの甲府は引いてブロックを構えるだけのチームであったが、現在は状況に合わせ使い分けることができ攻守共に相手をコントロールできるチームとなってきた。
2.サイドの争い
お互いに武器としているのがサイド攻撃。
甲府はサイドの高い位置を起点に崩したい狙いを持ち、新潟は鄭大世やファビオといったターゲットマンを活かすためにサイドからのクロスを狙いとした。
甲府は左サイドでゲームを作り、右サイドで仕留める狙い。
中山がゲームを作り荒木がサイドを駆け上がる。
右は太田、須貝とローテーションしながら背後を狙う。
最初のチャンスは甲府。
荒木からのクロスに太田。
前節の磐田戦の得点の形と同じく左サイドからファーサイドへのクロス。
続いてのチャンスは新潟。
右の大本からのクロスが流れたところから本間が仕掛けた形。
大本はSBが本職の選手だが、サイドに張り高さのある鄭大世へクロスを送るには適任である。
本間はドリブルからゴールに直結するプレー、結果が出せる選手。
続いては甲府。
後半から右のシャドーに入ったドゥドゥが裏に抜け出しクロス。
最後は中山がシュートを放つが相手DFにブロックされた。
新潟は後半に入り、選手交代と共に立ち位置を変更する。
島田をアンカーに高木と福田がインサイドを取る形に変更。
この変更が功を奏し、新潟が左サイドから先制に成功する。
荻原、本間、高木と繋ぎ、荻原のクロスから新井のオウンゴールを誘った。
荻原は左足のキックの精度が高く、ドリブルでも運べる選手。
新潟の左サイドの荻原、本間コンビはロマンの塊であるが、お互いに守備には課題がある選手であり甲府はそこを狙っていた。
しかし、新潟はこのサイドの強みを活かし、後半から変えた立ち位置が上手くハマり先制に成功した。
試合後の高木選手のコメントより。
『本間至恩と僕が良い位置でボールを動かせたので、オギ(荻原拓也)をフリーにできて、良い形でクロスが上げられたので得点に結びついた。もっとああいう形を増やさないといけないと思いました。』
試合後の荻原選手のコメントより。
『あのクロスも自分の中で100点と言えるクロスではなかったので、もっと質を上げたい。今日の試合でいったら、回数を増やすことに取り組んでいきたい。』
だが、上記のコメントでは荻原は満足していないようだが、クロスの質が高かった。
ファビオに合わなかったから満足していないのだろうが守る側にとっては嫌なボールであった。
甲府もすぐにサイドからのクロスで同点に追いつく。
ハイプレスからのショートカウンター。
甲府の狙いの1つから同点に追いついた。
試合後の荒木選手のコメントより。
『新潟さんは後ろからつないでくるのが分かっていたので、前から(行きました)。自分も戻ろうかと思ったんですけど、少し残ってけん制をかけていたタイミングで、ああいう横パスが来たのでうまく狙えていました。取ってからシュートを打とうというのが第一選択だったんですけど、ドゥドゥの声が横から聞こえたので、姿を見る感じもなく感覚だけで出して、それがうまく決まって良かったなと思います。』
追いついた直後にもサイドからのクロスでチャンスを作る。
右サイド抜け出たドゥドゥから中山という後半開始直後と似たような形。
狙いとしていた新潟の左サイドの裏のスペースからチャンスを作ったが得点には結びつかなかった。
お互いサイドからチャンスを演出していく。
3.若手の成長
ターンオーバー組が出場する試合は毎試合述べているが、今節も若手の活躍が目についた。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『ここでゴールを奪う、アシストする、ゼロで抑えることは結果として大事。今年半年で若い選手が昇格争いをする新潟に臆することなくプレーができたことは財産になる。』
中塩や中村、山田のボランチコンビに太田とファーストチームに絡んでいる選手も活躍したが、現状絡めていない3人の活躍はより光った。
荒木、中山は上記のチャンスにいずれかが必ず絡んでおり、須貝は本間にほとんど仕事をさせなかった。
まずは荒木から。
上記のように相手の横パスを狙い得点に繋げた。
持ち前の運動量を活かし左サイドを活性化させた。
試合後の荒木選手のコメントより。
『決められるチャンスは何回かありましたし、強みであるセットプレーのキッカーもやっているので、そこで1本取れたら勝ちにもっていけるし、流れもこっちにぐっと寄せられると思う。そこはもっともっと精度を上げて、最後の勝負、ペナルティーエリアに入ったところとか、セットプレーのキックはもっともっと精度を上げてやっていかないといけないと思います。』
左サイドは内田、泉澤と荒木、中山と明確にコンビで使い分けている。
今節のアシストで今シーズン3アシスト目となった。
本人のコメントにはセットプレーの質を上げることとあるが決定機も演出した。
続いて中山陸。
出場するたびに成長が感じられ、楽しみな選手。
前回出場時は得意のスルーパスが出せるようになってきた。
今節は最多3本のシュートを放ち得点の匂いも感じさせた。
次は結果が出せるか。
あとは結果さえ出れば一気にブレイクする雰囲気が出てきた。
得点かアシストどちらか早く欲しい。
今最も伸びている選手だろう。
最後に須貝。
素晴らしいプロデビュー戦となった。
対面が本間といきなりJ2トップクラスの選手との対峙となったが守備面では破綻はなかった。
試合後の須貝選手のコメントより。
『90分通して、守備は自分の強みなので、そこはしっかりできたかなというのはあるんですけど、攻撃面でもう少しゴールに直結するプレーだったり、プレーの質ももう少し上げていかないといけない。プロの世界は質が高いので、自分としても結果を出す選手になりたいですし、そこは課題かなと思います。』
『緊張はしたんですけど、出させてもらう以上は自分の良さであったり、自分の特徴を出して思い切りやろうと試合前から思っていたので、そこは問題なく入れたと思います。』
本人は攻撃面の課題を挙げていたが、アタッキングサードでのパス数は両チーム通じて3番目と攻撃にもきちんと関与できていた。
同じ特別指定選手でポジションも同じの関口が推進力を発揮し、攻撃を牽引し琉球戦ではアシストを記録していただけに本人は不満があったのかもしれない。
だが、守備面では間違いなく計算できる選手であり戦術理解度が高いことを示した。
矛となる関口と盾となる須貝。
長谷川と共に来シーズン素晴らしい選手の加入が内定している。
試合後の伊藤監督のコメントより。
須貝選手の評価は?
『できると思って自信を持って送り出した。本間選手対して対等にプレーができた。最後は左でシルビーニョにも対応できたことは素晴らしい。新潟と90分間戦ってこれだけできれば100%、100点だと思います。』
荒木、中山のポジションには内田、泉澤と絶対的な選手がおりこの牙城を崩すことができていない。
だが、出場すれば荒木や中山もJ2の上位チーム相手にも十分通用することを示した。
須貝はプロデビュー戦となったがチーム戦術の理解、J2屈指のアタッカー本間至恩相手にも守り切れることを示した。
甲府の未来は明るい。
4.あと一歩
内容は確実に進歩している。
しかし、勝ちきれない。
今の甲府には何が足りないのか。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『前半からアグレッシブにやる中で裏を狙いながらやれていた。後半のいい時間帯に点を取れず、点を取られた。すぐに追い付くことができたパワーは素晴らしいが、ゴールネットを1回ではなく、2回、3回と揺らせるようにしたい。すぐに次の試合があるし、厳しい連戦を選手は頑張ってくれている。次は勝ち点3を取れるゲームを頑張ってやりたい。 』
『前半はプレーアウトでパスミスがあり、失った場面もあった。最後タイミングを合わせる、決め切る、ネットを揺らす作業をしないといけない。個のクオリティとグループとして崩せるところ映像で見返して落とし込めるところはやっていきたい。』
個のクオリティの部分はドゥドゥの復帰で埋まった。
グループとして崩していく姿勢も決して悪くはないが、勝ちきるには至らない。
では何が足りないのか。
そのヒントは栃木戦の新井のコメントにあるのではないだろうか。
『栃木もやるべきことをやってきたのでウチも明確にして、そこでチャレンジしてボールを持つことができれば……ボールを持てる感覚はあったが、勇気やチャレンジすることが足りなかった。』
この時のコメントは栃木のハイプレスに対してボールを持つことが出来なかったことに対してであるが、これを前述の伊藤監督のコメントの『ゴールネットを1回ではなく、2回、3回と揺らせるようにしたい。』と合わせてみたい。
『チャレンジしてシュートを打つことができれば……チャンスを作れる感覚はあったが、勇気やチャレンジすることが足りなかった。』
ここに勝ち切るヒントがあるのではないだろうか。
いい試合はできている、いい攻撃もできている。
だが、得点が取れない。
9月に行われた7試合で見ていくと、失点は2点以上を取られた試合は無い。
すなわち勝ち点3のために必要なのは複数得点である。
シュート数で上回ったのわずかに2試合。
今節と北九州戦のみとなった。
10本以上を放った試合も北九州戦、長崎戦、磐田戦のみだがいずれも得点を挙げている。
まずは足を振る勇気が必要となる。
また、相手のDFラインの背後を突くパスが少ないのではないか。
ボールを持つ勇気やチャレンジは間違いなくついて来た。
次の段階は相手のDFラインを壊す作業。
現状は相手の背後を突くパスが出せる選手は山本、武田と中山くらいしかいない。
前線の選手は積極的に相手DFラインの背後を突く動きは見せているが、パスが出てこない。
サイドを変える大きな展開ができる選手はおり、中村や山田、野澤のボランチ勢も安定したパスワークも見せているだけにより勝負のパスが求められる。
その中で中山が出場するたびに成長を見せていることは大きい。
泉澤、松田、太田、ドゥドゥの壁は高いがシャドーのポジションにアタッカーではなくプレーメーカーの中山の出場機会が増えれば攻撃のバリエーションも多彩となる。
中山に限らず相手の急所を突くパスを出すチャレンジ精神が必要となる。
あと一歩に必要なのは勇気とチャレンジだ。
5.あとがき
2020年の川中島ダービーは2試合とも引き分けと痛み分け。
これで4試合連続の引き分けとなった。
悪くはない。
だが悪くないだけでは勝負の世界はダメである。
勝ち負けを争うだけに勝利という結果は欲しい。
しかし、間違った方向へ進んでいるわけではない。
誰が出ても質の高いサッカーを続けている。
結果だけでは判断してはいけない。
あと一歩、ちょっとしたきっかけが欲しい。
思い切り良くシュートを打つ勇気や、ドリブルやスルーパスを狙うチャレンジ精神を出したい。
北九州、長崎に連勝できるチーム力はあるだけに歯痒さは残るが、次こそは勝ち点3を取りたい。
MOM 須貝英大
初出場というのを差し引いても素晴らしい活躍を見せた。
対面の本間至恩に対してほとんど仕事はさせず、安定した守りを見せた。
攻撃面では関口のようなインパクトは無かったが、太田のポジションと被らないようにインサイドに入ったり、サイドで幅を取りながら高い位置を取ったりと戦術理解度の高さを見せた。
まだ甲府には残るようなので出場機会も訪れるだろう。
今後の活躍や来シーズン以降も期待を抱かせるプレーを見せた。