慢性腎不全①
10歳を超えた猫の50%が患うと言われている腎不全。耳にしたことがある方も多いと思います。
今回はこの病気について、できるだけわかりやすくお話しします。
ただ大きなテーマなのでいくつかに分けて投稿させていただきます。
腎不全には2種類あります。
【急性腎不全】と【慢性腎不全】
今回は【慢性腎不全】についてです。
・慢性腎不全とは
簡単にいえば"腎臓の働きが徐々に悪くなっていく" これは想像つきやすいですね。
腎臓は小さな腎小体というものの集まりです。
腎小体では、尿を作る仕事をしています。
例えると、
腎小体(バケツ)を腎臓が体外へ捨てるべきもの(ゴミ)を尿として捨てているのですが、腎小体(バケツ)壊れてしまって効率よく捨てられず、体中に徐々に溜めこんでしまっている(ゴミ屋敷化)状態。
これが【慢性腎不全】です。
もう少し詳しくみていくと、
【正常な腎臓の場合】
食事を摂ることによりタンパク質を摂取し、その分解でできる尿素窒素(前項のゴミに相当するもの)が100出るとします。
それを便と尿で50ずつ分けて、体外へ排出します。
【慢性腎不全の場合】
途中までは同じですが、腎臓の機能が低下していて、腎臓から尿素窒素を10しか排泄できなかったとします。
そうするとその差の40分は体に蓄積することになります。
慢性腎不全は《腎臓の機能が低下している》+《尿素窒素が蓄積している状態》を指します。
・慢性腎不全の症状
・初期の症状
①多飲多尿
正しくは多尿多飲。慢性腎不全では一回の尿で尿素窒素を排出する能力が低下します。
それをできるだけ補助しようと排尿回数を多くすることで、尿素窒素を少しでも排出しようとします。
尿の回数を多くしたため、体の水分が足りなくなり、飲水量が増えます。
*目に見える変化であるため、多くの患者さんがこの症状で異変を感じて来院されることが多いです。
②脱水
①と同じ理由です。飲水量は増えますがそれ以上に尿で出ていった結果、脱水を起こします。
背中の皮膚を摘み捻って離すと、通常ならプルンと元に戻ります。脱水を起こしているとゆっくりと戻る、もしくは全く戻りません。
脱水が進むと肌にハリがなくなり、毛並みが悪く見えるようになります。
・中期以降
③嘔吐
週に2.3回以上の嘔吐を長い間繰り返している場合は要注意です。
尿素窒素が溜まりすぎた結果"尿毒症"を起こすと気持ち悪さが長期間続いたことによる嘔吐の可能性があります。
特に食事後数時間(食事が分解された頃)に多いように思います。
④食欲不振
尿毒症の気持ち悪さから、食欲の減退・廃絶が出てくることがあります。
⑤便秘
排尿回数を増やして尿素窒素を外に出そうとするため、体の水分を尿のために使います。便の水分も吸い取って排尿に使うため、便はかたくなり出にくくなるため、便秘を起こします。
⑥貧血
腎臓は排尿以外にも役割があり、赤血球を成熟させるホルモン "エリスロポエチン" を放出しています。しかし慢性腎不全の場合腎臓が機能を失っていくため、エリスロポエチンも放出されなくなり、赤血球を成熟させることができず腎性貧血を起こします。
⑦高血圧
通常は余分な塩分などを腎臓が体外に排出して血圧を一定に保っていますが、慢性腎不全ではそれができなくなるため、血圧が高くなります。
・重度
⑧痙攣
尿毒症が重度になると、毒性痙攣が起きます。
いわゆる発作のような症状です。
尿毒性痙攣は通常の発作や痙攣を止めるような注射や脳圧降下点滴などでは落ち着かない場合が多く、静脈点滴などで尿素窒素を体外へゆっくり排出して落ち着かせることが必要です。
(⑨体臭の変化)
腎不全なると口臭がアンモニア(尿の匂い)臭がすると言われますが、尿毒症が重度になると体臭が独特の匂いに変化します。
獣医師・愛玩動物看護師の中でもこの臭いはわかる人わからない人が分かれるので、判別するのに確実な方法ではありません。
ですので⑨は()をつけています。
幸い私は臭いがわかるので、この匂いがしたらほぼ間違いないなと検討をつけて血液検査等をお勧めしています。
・慢性腎不全と診断されたら
まず診断された場合に初めにしっかり理解しておかなければならないことが2つあります。
①, 治らない病気
腎臓は再生しない臓器です、それ故に腎小体が壊れていく慢性腎不全は治らない病気です。
これから先ずっと付き合っていくこととなる為、家族間の協力が必要不可欠となります。
(唯一の治療法は腎臓移植です。ですが人間はともかく動物の腎臓移植は例も少なく、実施している医療機関も少ない為、現実的な値段で行える可能性がかなり低いのが現状です。)
②, 必ず進行する
今よりも悪くならないように進行を抑える治療がメインのため、どんなに治療をしていても必ず進行していきます。
この2点は念頭に置いた上で病気に向かい合いましょう。
・検査項目や指標
腎臓の数値に関しては"血液検査"が最もわかりやすく、指標にしやすいと思います。
SDMA(対称性ジメチルアルギニン)
BUN(尿素窒素値) CRE(クレアチニン値)
これらが代表的な指標です。
他にもP(リン)K(カリウム)…などが挙げられます。
・SDMA
腎臓は2つあります。それらを合わせての能力が正常時の75%以下になると上昇します。
多くの一次診療施設(街中の動物病院)には"ほぼ"専用検査機械をおいていないため、外部の検査機関への委託となり、結果が出るまで1〜2日かかります。
・BUN
BUNは腎臓が溜め込んでいる尿素窒素(ゴミの量)を表します。
食事をとりタンパク質を分解することで必ず発生し、消化管の出血(胃が荒れているなど)の際も数値は上昇します。
溜め込みすぎると尿毒症をおこし、痙攣や嘔吐などの症状がでます。
・CRE
腎臓の機能を表します。
機能が正常時の25%以下になると上昇します。
どの病院でも計測可能で、約20分程度で結果がわかります。
正常時の 検査期間
SDMA 75%以下の時 外部検査
CRE 25%以下の時 病院内検査
SDMAは検査に時間がかかりますが、早期発見できることが魅力です。
CREは検査時間が短いのは良い点ですが、ある程度進行した慢性腎不全でないと発見できません。
・予後
生存期間は今までの経験上0.5年〜7.0年程かと思います。すごく幅広いのは、発見時期・進行速度がその子その子で全く違うため、発見時に出ている症状で生存期間も大きく異なります。
ただ間違いなく言える事は
・若齢(5歳以下)で発症ほど、
・症状が重度になってからの発見ほど
予後(その後の寿命)は良くない印象です。
次は治療に関してお伝え予定です!