カルマンソロジーは本当に良い靴なのか?(おまけ:ZINRYU氏の妄想について)
日本製で10万超え、新進気鋭の革靴のブランド『カルマソソロジー』について、全然誰も何も言及しないから簡単にまとめておく。ググってもYouTuberのカスみたいな動画ばかりでひどすぎる。ちなみに筆者は好きでもないし嫌いでもない。ニュートラルな記述を心掛けるので、文芸要素も少ない。淡淡とその価値について批評する。
ブランドストーリー的なものは適当にどこかで読んで適当に把握して欲しい。
①「作り」はすごい?
特にすごくはない。
(参考資料:デザイナーがインタビューでステッチなど言及している)https://asm.asahi.com/article/11529704
一応、上記インタビュー記事を読んでから以下を読み進めることをお勧めする。
主に高級と言われているスペックについて以下に羅列する。
・ヒドゥンチャネル(ソールに縫い糸が出ない仕様)
・半カラス(ソールの色を塗り分ける仕様)
・つま先のスチール(つま先のスチール)
・細かいアッパーのステッチ(3cmで17~19針)
・出し縫いのステッチも細かい(3cmで12針)
一つずつ見ていく。
まずヒドゥンチャネルと半カラスは工賃が上がるくらいで技術的難易度は高いものではない。よくある。
つま先のスチールはオリジナルロゴ入りだからちょっとだけ高いだろう。でも、これもよくある。
で、ステッチの細かさについては誇張されすぎている。国産ブランドのスコッチグレインの高級ライン(4万円台)がアッパーのステッチ「3cmで16~20針」なので同じくらい。出し縫いも「3cmで12針」。つまりほとんどスコッチグレインと同スペックである。ちなみにこれよりもっと細かい出し縫いを行う既成靴も存在していて、大塚製靴には16針のモデルもある(6万円台)。
ということで別に「作り」はすごくない。
以上。
という風に終わらせても味気がないので、個人的に気になるカルマソの「高級感の無さ」についても言及する。比較対象としてウェストンの写真をもってきた。
↑カルマソソロジーのサイドゴアブーツ(11万円)
↑J.M.Weston サイドゴアブーツ #705(16万円)
横から見るとはっきりわかるが、カルマソはソールのヒール側がアッパーのお尻よりも数ミリ出ている。ウェストンは対照的で、アッパーのお尻の方が出ている。
お尻がはみ出しているか、お尻よりもソールが出っ張っているか、という違いがある。
もちろんカジュアル系とか360度グッドイヤーとかならむしろ出っ張って当然だが、ドレス系ならできるだけ詰めた方がよいだろう。こういうところこそ地味に「高難易度技術」であるし、しかも派手なソールの意匠なんかと違って「高級感」に直接的に影響を及ぼす部分である。
(あまり言及されないポイントでもあるが)
あとついでに比較するなら、ウェストンはカルマソよりもピッチは細かくない。細かければそれだけで高級、ということはない。また付言するならジョンロブは意外とピッチがデカい。アッパーは15針くらいで、出し縫いも12針程度。でも高級感は強い。
つまり、”そういうこと”なんです。
②「革」はすごい?
特にすごくはない。
日本の靴で良い革を使っているブランドはほとんどない。仮に、高級ブランドと同様のタンナーの革を使っているとしても、レベルが違うのである。日本の靴は関税に守られているくせしてダメ。不利なはずの同価格帯インポートブランド靴と比べても、劣るとも勝らない。しかしこれは別にカルマソの責ではなく、構造的問題だから特に論じるべき部分でもないだろう。
③「ブランド」はすごい?
特にすごくはない。
いわゆる高級靴ブランドは、現代だとだいたい自社工場を持ってるメーカーがほとんどだろう。逆に、自社工場を持っていない高級靴ブランドは非常に限られる。パっと思いつくブランドというと、三陽山長やロイドフットウェアくらいだろうか?
そしてカルマソはアバハウスのブランドであり、アバハウスは工場を持っていない。
アパレル企業の三陽商会がセントラル靴に作らせた靴を「三陽山長」というブランドとして売っているように、アパレル企業のアバハウスが国内複数工場に作らせた靴を「カルマソ」というブランドとして売っている。アバハウスが昔から経営している靴のブランド「アルフレッド・バニスター」の令和版だと思えばよい。
一応コスパ厨ファクトリーブランドしか認めないおじさんたちに向けて言っておくが、筆者はコスパ厨の味方をするつもりはない。ファクトリーブランド以外はコスパ悪いからクソとか言い出したら、ブルックスブラザーズ名義のオールデンとか、日本に英国靴を広めたロイドフットウェアとか、クレバリーの2つのブランドとかもアウトになるだろう。それはあまりに狭量である。工場以外の企業がプロデュースしているからこそのデザインやセンスの良さがあり、またブランド感というclassyな愉悦もあるのだから。まぁ結局はそこも値段に見合う価値があるのか?という話なわけだけど。
④総論:で、なにが良いのか?
――――特に、何もすごくはない。
Twitterで「アバハウスが打ち出す新進気鋭のファッション系靴ブランド、つまり令和のアルフレッドバニスター!」とツイートしたら幾人かのトラウマを呼び覚ましてしまったようだが、要するに"そういうこと"である。
しかし魅力がないというわけではない。物としての「スペック」を宣伝するようなやり方が間違っているのだ。実際問題、カルマソのようなデザイン性の高いグッドイヤー日本製の高級既成靴はあまり存在しない。日本の既存の靴のファクトリーブランドは遊び心のあるデザインを打ち出せるほど体力もセンスもないから、アバハウスのようなアパレル企業がデザイナーを使ってアパレル受けしそうなファッショナブル高級靴を作ることは、寿ぐべきことである。私は別に好みではないが、既存の高難易度技術ではない普通の技術でも組み合わせることでこのようなデザインの幅を持たせられる、という点はまさにデザイナーのディレクションのおかげだと思っている。どうしてもスペック厨になると、意味もわかってないのにやれベベルドウエストだとかやれスキンステッチだとか語り出すが、そういう貧乏くさい発想よりは明確にデザイン性を売りにするブランドの方が見ていていっそ快活である。
そして筆者から見る限り、コスパでもスペックでもなく、本当にアピールすべきは「デザイン性」であるはずなのだ。例えばインタビュー記事で掲載されているウイングチップは、型押しレザーを使った切り替えのセンスが良く、またダブルウェルト(技術的に全然大したことはないが)は、今時の若者が履いているオーラリーとかエルメスマルジェラ期みたいなノリのブランドが出している太いパンツとも相性が良いだろう。1LDKのディンケラッカー推しみたいなニュアンスでボリューム感がハマるはずだ。言ってみれば、ファッションとしての感度の今っぽさは抜群である。(逆に言えば靴について詳しいある程度の年齢が上の人向けではない。)
ZARAとかの4サイズ展開しかないような合皮のクソ靴ではなく、本格派と並ぶスペックで、センスが今っぽいものという選択肢ならカルマソはほとんど唯一である。先述のように「令和のバニスター」と呼んだが、バニスターだって初期は面白いものもあった。ミハラも昔はよかった。アパレル系ブランドだからといって面白い靴を作れないわけではないどころか、アパレル系だからこそむしろユニークなデザインを作ることができる。(まぁ両ブランドとも朽ちていったが)
そういう意味で言えば「日本アパレル系靴ブランド」の系譜にカルマソは名を残すだろう。
(「日本アパレル系靴ブランド」ってカテゴリで他に語るべきは一応ユッカスとか?あれはあれで別にすごい作りってこともないどころか、なんかちょっとおかしいのでレディースのマスターからグレーディングして狂ってないか?って気がしたりする)
(つまりカルマソは、ミハラヤスヒロとかアルフレッドバニスターとかフットザコーチャーとかオーセンティックシューとかto&coとかジュンハシモトとかキッズラブゲイトとかquilpとかジョンムーアとかの系譜に繫がる「アパレル靴」であり、現代だとformeやユッカスな並ぶ世代だということだ。)
ファッションに”批評”は存在しないが、革靴にも”批評”は存在していない。ぼんやりとしたコスパ厨スペック厨みたいな価値観しか、評価軸が存在していないのではないか?だってインタビュー記事でデザイナー本人が高級英国靴と比較してピッチがどうのこうのと語っているけれど、本人がコスパ厨スペック厨を称揚し、そのようにカルマソを見て欲しいと言ってるようなものではないか。デザイナーとして嘆かわしいことである。もっと堂々と「意外とこういう”今っぽい”やつ、なかったでしょ?」みたいなノリでやってほしい。
つまり「かっこいいから、これは良いものです」ってハッキリ言えばよい。
デザイナーでもなければオリジナリティもないが、ノリだけでレッドウィングコラボモデルを売ってる藤原ヒロシを見習うべきだ。このノリだけで答えているインタビューこそがJUST FASHIONなのである。
<Interviews:藤原ヒロシが長年の愛用ブランド Red Wing と John Smedley とのコラボレーションについて語る>https://hypebeast.com/jp/2019/11/interviews-hiroshi-fujiwara-fragment-design-red-wing-john-smedley
⑤おまけ:ZINRYU氏の妄想について
ところで、自称靴師のZINRYU氏がカルマソについてのデマ情報を拡散しているので、おまけとして批判を行う。
「作りもグッドイヤーでは素晴らしい」と語っているが、具体的に何がすごいのか?技術的難易度については先述のように、まったくすごくない。あまりにも見識不足の知ったかぶりをするので、ZINRYU氏のデマ拡散には呆れるばかりである。
ZINRYU氏のいつもの謎理論であるが、注目すべきはこの記述である。
「あのラストを成形するにはラスターで一発では決められず、結構手作業を入れる必要があり、苦労するかと。」
これはFAKE NEWSである。
では、実際に作業工程の動画を見てみよう。(10分17秒あたりから)
見ればわかる通り、普通につま先をラスター(機械)で一発でつり込み、ヒールも機械で、サイドは若干だけ手作業で留めるような工程である。このような手順はまったく高度ではない。例えばスコッチグレインも同様の手順であり、トゥラスターで一発つり込みを行ってから手で軽くまとめてリブをサイドラスターで固定して終わらせている。(2分11秒あたりから)
手作業は横から釘で止める時のわずかな工程であり、この工程を手作業で行うことは何ら「結構手作業を入れる必要があり、苦労する」というほどのことではない。もっとも、ZINRYU氏は都合よく比較対象の靴をころころと変えることで言い逃れを行う人間なので、認めないだろうが。
(参考資料:リーガルも横のつり込みは手作業)https://lastmagazine.jp/?p=4742
過去に、エドワードグリーンはダブラー(接着芯)を使っていないのに「保型力がすごい」っておかしいだろと批判したら「ケミカルな芯材の靴は比較の対象外」と言って逃げようとした。これも結局、じゃあ何と何を比較してそう言ってるの?という質問には答えなかった。また最終的には「型は崩れるが、形は崩れない」(意訳)などと意味不明な供述を行い、世間を混乱させた。こっちの頭がおかしなるわ!
スコッチグレインやリーガルなど大手の製造メーカーが普段から行っているようなつり込みの手順より手間が掛かっているわけではない工程を「結構手作業を入れる必要があり、苦労する」と表現することは誇張であり、針小棒大な”妄想”である。
なぜZINRYU氏はドラマティックな妄想で靴の評論らしきデマを拡散しようとするのだろうか?自分が靴に詳しい専門家であるかのような雰囲気作りのために、実直に靴作りを行っている人々をダシにするべきではない。たとえ褒めるような内容であっても実態と異なる褒め方を行えば当然、消費者にとっては不利益であり、顧客から巡り巡ってメーカーにとっても不利益を生じることだろう。ZINRYU氏は悪質なデマを垂れ流すことを、いい加減やめるべきだ。
(ZINRYU氏のFAKE NEWSまとめ記事は ↓ )
(写真引用元:J.M.Westonの写真を転載した元)
https://koccmusic.com/jmweston705-sidegoreboot/
(写真引用元:カルマソソロジーの写真を転載した元)
https://amanojak.shop-pro.jp/?pid=149061666
(参考ブログ:大塚製靴のステッチを計測している)
http://blog.lastyle-shoes.shop/?eid=83
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?