ツバメの巣はなぜ頑丈?
街でもツバメ(Hirundo rustica )が巣作りしているのがみられる時期になりましたね。私のいる地域ではイワツバメ の方が少し早く見られるようになるのですが、ツバメもよくみられ、また盛んに巣作りしているのが観察できるようになりました。
ツバメは軒下に巣を作ることが多いのでよく観察できますが、垂直の壁に泥で複数のひなが耐えられる強度の巣を造形することができるなんてすごいなと毎年感じます。小さい頃はよく泥遊びをしましたが、泥だけではツバメの巣のように荷重に耐えられる構造物を作ることができません。
通常このような泥の巣は数週間ほど形成に時間がかかりますが、湿った状態から乾いた状態まで数時間で完了します。
泥を主原料とした巣が荷重に耐えられるのは鳥の唾液の中にのりとして働く物質があるためで、この接着剤の働きをするものはムチンと呼ばれるグリコプロテイン(糖とタンパク質が結合してできた多糖類)の仲間で、私たち人間の涙や鼻水などにも普通に含まれています。粘膜の表面をねばねばしたムチンで覆うことで、刺激から守る役割を果たしています。
昨年ツバメの巣を実際の巣と3Dプリンターで再現したものを用い、どれほどの荷重に耐えうるものなのか検証した論文が韓国の研究機関から出ました。この論文では、ツバメ(Hirundo rustica )の巣は巣自体の約300g(3N)約3kgの重さにも耐えたとのことです(30N、1N=0.102kgf)。実験では最終的に4.2kgの荷重(41.5N)がかかったところで壊れてしまいましたが、巣(300g)と親鳥(大人のツバメの重さ約30g未満/1羽)、雛(10g未満/1羽)を支えるには十分すぎる強度では?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし自然は厳しく、強風は大きな力を巣にかけることがあります。最大風速35m/s(かなりの強風、電柱や街灯も倒れることがある)では泥の巣に約800g(8N)の力がかかることが知られています。実験で明らかになった耐えうる荷重よりは低い負荷のように思えますが、激しい嵐により泥の巣が壊れることが報告されています。
餌となる小さな昆虫も多いですが、季節柄嵐も多い季節に巣を作るのも大変なようです。風を避けるためにも軒下などに巣を構えるのかもしれませんね。
先ほどの論文では世界に存在する9,307種類の鳥の体重を体重別に分け、さらにその中で泥の巣を作るツバメなどの鳥類の体重を比較しました。すると興味深いことに、泥の巣を作る鳥の体重は約20g前後(17.8~22.3g)であることが多かったのです。理由について詳細に考察されていませんが、食事と営巣のバランスをうまく両立することができるのが20gという体重なのかなと個人的には考えました。
丈夫な巣なら他の鳥も泥の巣を作ればいいのにと思うかもしれません。しかし、大きな泥の巣を作ろうとするとそれだけたくさんの接着剤、つまり高濃度のムチンが含まれる唾液が必要になります。高濃度のムチンが唾液に存在すると口の中でゲルのように固まってしまい今度は餌の確保に困ってしまいます。高濃度にならない程度の唾液のムチン濃度で自分と子供たちの体重、そしてある程度の風などに耐えらる強度の巣を作り出すには体重20gに約300gの巣というのが最適な比率だったのではないでしょうか。
この論文で使われるような複雑な計算式などツバメは持っていないとは思いますが、本能なのか祖先から蓄えられた経験が知らず知らずのうちに活きているのか、ツバメは素晴らしい建築家のようです。
みなさんもぜひツバメの巣を観察してみてください。
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参考文献
・Jung Y, Jung S, Lee SI, Kim W, Kim HY. Avian mud nest architecture by self-secreted saliva. Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Jan 19;118(3):e2018509118. doi: 10.1073/pnas.2018509118. PMID: 33431685; PMCID: PMC7826398.
・ウェザーニュース:【台風】風の威力に注意 風速と被害の目安は? https://weathernews.jp/s/topics/201809/030115/、2022/05/02参照