中毒5 犬にジャガイモはOK?【中毒】
概要:ジャガイモの塊茎の部分は基本的に犬も食べられます。芽や皮にはソラニンやチャコニン等のコリンエステラーゼ阻害物質が含まれ消化器症状を出すことがあります。加熱でも毒性は失われないので、芽が出たものや緑に変色したものは避けましょう。
ジャガイモはナス科の植物で,一部の食物アレルギー用の療法食の主原料にもなっています。基本的には毒性は低い植物ですが,皮や芽にはソラニンやチャコニンという物質が含まれており多量に摂取すると中毒を起こすことがあります。それでも一般的には予後は良好な植物です。
■原因物質
ソラニンやチャコニン等のコリンエステラーゼ阻害物質が中毒を起こす物質です。
コリンエステラーゼとは肝臓で作られる酵素で,コリンエステルなどの神経伝達物質を分解しています。コリンエステルには交感神経抑制作用があります。
■症状
理論的にはソラニンやチャコニンがあると交感神経を抑制するコリンエステルの分解が滞るため,副交感神経の作用が強くでる症状がみられます。
消化管運動亢進による腹痛や下痢のほか嘔吐や運動失調がみられる場合もあります。
■中毒量
pubmedという生命科学系の参考文献の検索エンジンで経口での毒性量に言及したものを探し出すことはできませんでした。
しかし実験ベースでは犬の体重1kgあたりソラニン6mgの投与を10分間隔で行ったところ,血中のコリンエステラーゼという酵素が阻害されたのち急激に回復したという報告がされています。この実験では血液検査で酵素の変化を観察しており,投与された犬も特に治療なく酵素の働きは回復しています。
症状についての記載はないことから少なくとも6mg/kgのソラニンの投与では重篤な中毒や致死量には及ばないと考えられます。
マウスやウサギなどでは評価がされており,マウスでのLD50 (半数致死量)は32.3mg/kg,ウサギでは20mg/kgです。人では体重50kgの人で50mg(0.05g)で症状が出る可能性があります。
■催吐
通常は積極的には催吐処置で吐かせることはしません。症状のひとつとして嘔吐がみられ,その際にじゃがいもも一緒に吐き出されると考えられるためです。
■治療
脱水などがあれば輸液したり,嘔吐があれば制吐剤の投与など対症療法が中心になります。
■注意すべきこと
農林水産省のwebサイトではソラニンやチャコニンのじゃがいも類の含有量の記載があり,100gあたりソラニンやチャコニンなどの含有量は7.5mgとされます。皮付きじゃがいも一つあたり11.25mgほどになります。またこれらの物質はじゃがいもの皮周囲に3~8割が存在するため,しっかり皮や芽を取り除くことでこれらの毒性を大幅に減らすことができると考えられます。
芽を取り除くことが重要で,芽100gには200~730mgのソラニンやチャコニンが含まれます。光が当たって緑色になったものもソラニンが多くなっているため,避けたほうがよいでしょう。ジャガイモは収穫や購入した後ははやめに食べ,長期間保存しないようにすることをおすすめします。保存する場合は芽が出ないように暗く涼しいところで保管します。
犬でコリンエステラーゼの阻害がすぐ回復するとしても血中で観察されるのは体重3kgの犬では皮つきのじゃがいもを丸々2個食べるということになり,通常はあまりそういった機会はないと思われます。
しかしソラニンやチャコニンは加熱しても分解されにくいため,煮ても揚げても毒性は変化しません。皮付きのじゃがいもを使った肉じゃがなどの料理の誤飲には注意が必要です。もっとも肉じゃがの場合は貧血を起こすタマネギの方が中毒物質としては危険なので,テーブルの上の人間の食べ物を誤食しないように気をつけましょう。
■参考
・Patil BC, Sharma RP, Salunkhe DK, Salunkhe K. Evaluation of solanine toxicity. Food Cosmet Toxicol. 1972 Jun;10(3):395-8. doi: 10.1016/s0015-6264(72)80258-x. PMID: 5045682. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S001562647280258X
・British Small Animal Veterinary Association, Veterinary Poisons Information Service. 久和茂(監訳),森川玲(訳),犬と猫の毒物ガイド,2018, 学窓社
・じゃがいもソラニン含有量 https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/solanine/ganyuu/ganyu.html 2022/12参照
・自然毒のリスクプロファイル https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082078.html 2022/12参照