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夕飯の魚の骨をみてみよう!骨髄は!?エリスロポエチンは!?

夕飯の焼いたホッケの骨を実態顕微鏡で観察しました。
そこで気がついたことがあります。
1つは背骨を構成する椎骨の真ん中の部分(椎体)が神経が通る空間である脊柱管に向けてV字になっていること。
そして2つめは哺乳類ならあるはずの骨髄が目だたないことです。
今日は2つめの魚の骨髄について調べてみます。

まず1つめに関して、哺乳類や魚類の脊椎を構成する骨である椎骨には脊髄神経が通るための空間があります。この空間を脊柱管といいますが、哺乳類では椎骨は脊柱管の中の神経を圧迫しないようにあまり凹凸はありません。椎間板が脊柱管の方に出て神経を圧迫することで痛みや運動障害を起こすヘルニアについてはご存知の方も多いかもしれません。動物で椎体が脊柱管に向けてV字状になっていたら大変なことですし、事実人間の整形外科の分野では椎体骨折を指す言葉として魚椎という言葉があるようです。他の魚でもそうなのかはすぐに調べられなかったので調査中です。

では本題の2つめ。ホッケの骨髄がない!?についてです。哺乳類の骨には部位により多い・少ないはありますが全ての骨の中に骨髄があります。骨髄は血液を作る部分として知られています。生まれた時には血球を作る赤色骨髄だったのが、歳をとるとともに脂肪組織に置き換わる黄色骨髄になる、というのは獣医学部に入ると最初の方に習うところです。

しかし魚類では腎臓の中に造血幹細胞があり、ここで血球が作られることが知られています。魚類(真骨魚類)には哺乳類の骨髄造血組織は存在せず、腎臓が哺乳類の骨髄にあたる造血器官であると考えられています。

酸素を運搬する重要な血球のひとつである赤血球が成熟するには様々な物質が関与しています。その一つが哺乳類では腎臓の腎間質線維芽細胞(REP)細胞から産生されるエリスロポエチンというホルモンです。エリスロポエチンは造血幹細胞が赤血球に成熟する過程の後半部分に必須なホルモンです。人間では腎機能が低下した患者さんや骨髄異形成症候群などの疾患で用いられており、猫でも慢性腎臓病などにより貧血を起こしている症例ではエリスロポエチン製剤を使うことがあります。

コイの腎臓から採取した造血細胞を培養しこのエリスロポエチンの濃さを変えて添加した時の研究成果が日本の研究室から出されています。添加したエリスロポエチン濃度が高くなるほど赤血球系の細胞集団(コロニー)の形成数が多くなったと報告されており、魚類でもエリスロポエチンが赤血球の造血に関わっていることが明らかになりました。
原著では関与する遺伝子などにも言及されているので、興味のある方はぜひ確認してみてください。

哺乳類や魚類では見た目も随分違い血液を作る部分も異なるものの、造血に関わる遺伝子群や成熟に関わるホルモンが同じというのはとても興味深いですね。
また身近な不思議を発見すべく、いろいろ顕微鏡でみてみようと思います。

参考 森友忠昭, 魚類造血機構の解明 , FishPathology,49(3),00–00,2014.9


犬や猫、ウサギの獣医師です。色々と勉強中の身ですが、少しでも私の経験や知識を飼い主さんや動物に還元していきたいと思います。