犬と猫の全身麻酔のリスク
今回は犬と猫の全身麻酔のリスクについて書いていきたいと思います。
やはり全身麻酔はなんとなく怖い気がするし、なんとなく危なそうだと思いますよね。
そんな”なんとなく”心配に思ってしまう全身麻酔のリスクについて、
具体的な数字を見ていくことで”なんとなく”ではなく、”はっきり”と麻酔リスクを把握してもらえるようになるのが今回の記事のテーマになります。
今回の記事は
全身麻酔をかけるべきか悩んでいる方
全身麻酔のリスクをはっきりと知っておきたい方
に向けたものとして作成しました。
<はじめに>
まず大前提として”全身麻酔なんてしなくて済むならしないほうが良い”です。
今回の記事で全身麻酔を推奨したいわけでも、過度に怖がらせたいわけでもありません。
ただ、中には麻酔のリスクよりもその病気を放置するリスクの方が圧倒的に高い場合もあるので、
しっかりと麻酔をかけるリスクと麻酔をかけないリスクを天秤にかけて考えて行けたらと考えています。
病気でなくても、避妊手術や去勢手術のように将来的に発生する可能性のある病気に対しての予防的手術で麻酔が必要になることもあります。
治療に確実な正解は無く、飼い主様によって治療の選択が違ってくるのも当たり前のことだと思いますが、
獣医に言われたことをそのまま鵜呑みにして麻酔をかけて後悔したり、はなから絶対に麻酔はかけないみたいに考えてほしくないので、今回の記事を通じて慎重に検討していただければと考えています。
<数字で見る麻酔のリスク>
では実際に数字である程度見えるところをみていきましょう。
犬と猫の麻酔リスクの評価はアメリカ麻酔学会(ASA)の分類によって考慮されることが多いです。
この分類では動物の全身状態によって1~5の5つのクラスに分けて評価し、それぞれのクラスによって危険性やリスクが違って、数字が大きくなるほど危険性が高いとされています。
☆クラス1:正常で健康な状態
・(対象)去勢・避妊・断耳など
・麻酔関連死亡リスク:犬で0.591%/猫で1.061%
☆クラス2:軽度の疾患を有する状態
・(対象)老齢動物・軽度の骨折・肥満・皮膚腫瘍・潜在精巣など
・麻酔関連死亡リスク:犬で0.726%/猫で1.111%
☆クラス3:重度な疾患を有する動物
・(対象)慢性心疾患・発熱・脱水・貧血・開放骨折・軽度肺炎など
・麻酔関連死亡リスク:犬で1.010%/猫で3.333%
☆クラス4:重度な疾患を有する状態で生命の危機にある場合
・(対象)尿毒症・膀胱破裂・脾臓破裂・横隔膜ヘルニアなど
・麻酔関連死亡リスク:犬で18.333%/猫で33.333%
☆クラス5:どんな治療をしても24時間以内に死亡する可能性のある動物
・(対象)重度のショック・重度の脱水・末期腫瘍・長時間の胃拡張捻転など
一般的に健康な若い犬・猫の避妊・去勢手術における全身麻酔はクラス1に相当します。
高齢の犬・猫でも基礎疾患がなく、全身状態が良好であればクラス2と判断されます。
実際に麻酔をかけなければいけない原因疾患以外にも、
基礎疾患や全身状態によって麻酔のリスクが変わってくるため、
しっかりと麻酔のリスクを評価するために血液検査・尿検査・レントゲン検査・超音波検査などが必要になります。
これらを見て、思っていたよりリスクが少ないと思われる方も、思っていたよりもリスクが高いと思った方もいらっしゃると思います。
どちらであっても麻酔を行うか否かの決断の助けにはなるのではないでしょうか。
<数字で見えない麻酔のリスク>
ここまでは統計的なデータから数字で麻酔のリスクを見てきましたが、これらが全ての麻酔のリスクを含んでいるかといえばそうではありません。
これらはあくまで過去のデータにおける数字でしかなく、
全身麻酔によって亡くなってしまうリスクであって、麻酔がきっかけで基礎疾患が悪化してしまったり、今まで表面化していなかった疾患が表面化してくるといったリスクもまた別に存在します。
病気は治ったはずなのに入院や手術ストレスで体調が悪くなってしまう
手術は無事に終わったけど、麻酔前に比べて腎臓病や心臓病などの基礎疾患が悪化してしまう
手術はなんとか乗り切って、一度は麻酔から目が覚めたけど、結局亡くなってしまった
こういった数字で見えないリスクに関してはその子の事がよくわかっているかかりつけの先生としっかり相談して決めていく必要があります。
<まとめ>
麻酔をかけないで済むに越したことはない
麻酔のリスクは5段階に分類される
麻酔のリスクは年齢よりも全身状態が重要
基礎疾患/全身状態の把握に必ず術前検査を行う必要がある
リスクを正確に理解した上で麻酔をかけるリスクと麻酔をかけないリスク(病気を治療しないリスク)を天秤にかけて考えよう!
小動物には数字で見えないリスクもある
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。