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犬猫の避妊手術と乳腺腫瘍の関連について
避妊手術の時期と乳腺腫瘍の発生率には関係があることをご存知ですか?
避妊手術には卵巣・子宮疾患の予防や発情行動の抑制などの目的もありますが、適切な時期に行うことで乳腺腫瘍の発生リスクを減らすこともできます。
今回は知っておきたい犬と猫の乳腺腫瘍についてと避妊手術との関係について書いていきます。
今回の記事は、
避妊手術をしようか迷っている方
避妊手術をするつもりだが、いつ頃すべきか悩んでいる方
他のペットで乳腺腫瘍に罹患した経験があり、新しく飼育した子で乳腺腫瘍の発生をなるべく予防したい方
の向けてのものになります。
実際の統計的な数字を見ていくことで、参考になれば幸いです。
<犬の乳腺腫瘍について>
一般に、雌犬の乳腺腫瘍の50%は良性、50%が悪性(癌)といわれています。
犬の乳腺腫瘍の原因として、ホルモンや肥満などいくつかの要因が指摘されていますが、最も強く関与しているのはホルモンであると考えられています。
基本的な治療は、外科手術による腫瘍の摘出で、
腫瘍の大きさ・数・良性か悪性か・転移の有無などによって切除範囲も様々で、術後に化学療法(抗がん剤)などが使用される場合もあります。
猫と違い、切除範囲があまり大きくならないことが多いです。
また、犬では『炎症性乳癌』という病気があり、赤みや腫れ・痛みなどを伴ってあたかも強い炎症を起こしているようなその見た目からその名が付いている非常に悪性度の高い腫瘍です。
炎症性乳癌は転移率も高く、余命も短いため基本的には緩和治療のみが行われるのが一般的です。
炎症性乳癌には種類がありますが、術後炎症性乳癌といって、乳腺腫瘍の摘出を行った後に生じるものもあるため注意が必要です。
<猫の乳腺腫瘍について>
猫の乳腺腫瘍は雌猫において、
皮膚腫瘍・リンパ腫に次いで3番目に多い腫瘍です。
その80~90%は悪性と言われています。
悪性腫瘍の確率が非常に高いのが犬との1番の違いです。
雌性ホルモンが発症に関与しており、98%は雌猫での発生、雄猫では2%です。
猫の乳腺癌の13~42%は多発性で、複数の乳腺腫瘍が同時多発的に見つかることも珍しくありません。
また、日本では飼われている方は少ないですが、シャム猫の発症率は他猫の2倍と言われています。
こちらも犬と同様に治療の中心は外科手術による腫瘍の摘出ですが、犬と違い、ほとんどのケースで悪性の乳腺癌であるため、手術の時には悪性腫瘍であることを前提として大きな範囲で摘出します。
両側乳腺切除術:左右全ての乳腺を1回の手術で摘出します
片側乳腺切除術:片側の乳腺を1回の手術で摘出します
一般に、両側乳腺切除術では一気に広い範囲の切除を行うため、猫への負担も大きく、合併症率も高いと言われています。
そのため、全部の乳腺を摘出しなければいけない場合でも段階的に2回の片側乳腺切除術を行う場合が多いですし、私もできるだけそうしています。
また、正確なステージングのためにリンパ節も同時に切除します。
腋窩リンパ節:わきの下の方にあるリンパ節
副腋窩リンパ節:わきの下の方にあるリンパ節
浅鼠径リンパ節(+副鼠径リンパ節):お腹の下の方にあるリンパ節
これらのリンパ節を一緒に切除することで、すでにリンパ節転移が起こってしまっているか否かを判断します。
<犬の避妊手術と乳腺腫瘍発生率>
結論から言うと、早く避妊手術すれば、乳腺腫瘍の予防効果あるので、手術をするなら早い方がおすすめです。
具体的な数字を見ていくと、
初回発情前に避妊手術した場合:乳腺腫瘍の発生率は0.5%に減少
2回目発情前に避妊手術した場合:乳腺腫瘍の発生率は8%に減少
2回目発情後に避妊手術した場合:乳腺腫瘍の発生率は26%に減少
ちなみに、これ以降の成長後の避妊手術による乳腺腫瘍の予防効果は認められないとされていましたが、
近年の報告では、すでに良性乳腺腫瘍が発生している症例に対して、乳腺腫瘍摘出とともに避妊手術を実施することで、その後の乳腺腫瘍の発生率が低下するということもわかってきています。
この報告から、早期の避妊手術出なくても、乳腺腫瘍の発生に予防効果があると考えられています。
<猫の避妊手術と乳腺腫瘍発生率>
猫でも犬と同じで、早期避妊手術による予防効果が認められています。
<6か月齢で避妊手術した場合:発症リスク91%減少
7~12か月齢で避妊手術した場合:発症リスク86%減少
13~24か月齢で避妊手術した場合:発症リスク11%減少
猫でも早く避妊手術することで乳腺腫瘍の発生リスクが低下します。
24か月齢以降の避妊手術では残念ながら有意な効果はないとされています。
一般に未避妊猫は避妊猫と比較して約7倍乳腺腫瘍の発症リスクが高いと言われています。
<乳腺腫瘍に早期に気付くために>
早期に避妊手術しても、乳腺腫瘍の発生率がゼロになるわけではありません。
そのため、普段から発生時に気付きやすくなるような習慣があるといいでしょう。
他の皮膚にできる腫瘍でも同じですが、普段からペットとのコミュニケーションをとる時に、体全体を触る癖をつけておくことをお勧めします。
ブラッシング時に見つかることもあります。
毎日撫でてて、何となく違和感を感じて、僕らでも見逃しそうな出来物を見つけてきてくれる飼い主様もいらっしゃいます。
しこりを見つけたら小さいからといって様子を見ず、動物病院へ行きましょう。
小さい=様子見ていい/良性なんてことはありません!
<まとめ>
犬も猫も乳腺腫瘍の発生には性ホルモンが関与している
犬も猫も早期の避妊手術で乳腺腫瘍の発症リスクを減らすことができる
猫の乳腺腫瘍はほとんどが悪性
早期発見のために普段から体を触るコミュニケーションを心がけよう!
乳腺腫瘍で苦しむ子たち、早く避妊手術してあげればよかったと悲しむ飼い主様が減ることを願っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。