Fashwaveについて
(2019年2月 追記)
最近になってなぜかこの記事だけ閲覧数が伸びているのでいくつか追記しておきます。
・検索でこのページにたどり着いた人のために書くと、世の中にはまだまだVaporwaveやSynthwaveという言葉を知らない人も多いと思うけど、そういう人の場合は別にわざわざFashwaveについて知る必要は多分ない。「元ネタのわからないパロディ」を見せられて「は?」となるのと同じ感覚を味わうだけになると思う。
・この記事を書いた当時と何か状況が変わったんだろうか?と思ってまたFashwaveをググってみたところ、当時に見たFashwaveの動画の数々はYoutubeから消えているもよう。楽曲が消えて、それに言及した記事だけが廃墟のように残っているという・・・
・いくつか残っている動画もあるが、関係ない音楽(そもそも別ジャンルのもあったり)に昔の戦争の映像を付けただけの動画とか、そんなんばっかり。あと、Youtubeから不適切コンテンツに指定されているのが多い。
・一応オリジナル曲を作っていると思われる物もある。しかし音楽だけ聴く分には普通のSynthwaveで、あんまりファシズム的な要素は無いように思われる。
・一か月ほど前に、RedditのFashwaveのsubredditが削除されていた模様。見たことないのでどんなんか分からん・・・
・Fashwaveという名前があるから、なんかそういうジャンルが確立されたかのような印象を受けるかもしれないが、実際には作った人々が「そう名乗ってみただけ」というのが実情じゃなかろうか。
・Fashwaveに言及した記事は、なぜかVaporwaveとSynthwaveを混同してる率が高い説
・実はFashwaveとは全く逆の方向性で、共産主義的なミームを使ったVaporwaveとして、「Laborwave」というジャンルがある。旧ソ連のロシア語の歌や、中国、北朝鮮などの古い音源をサンプリングしたもので、音楽的にはこちらはちゃんとVaporwaveしている。なぜみんなFashwaveの方ばかり触れて、こっちは触れないんだろうか?(かく言う私も何回か記事にしようかと思ったが、あんまり興味がわかなかったので書く気にならなかった・・・)
・VaporwaveもSynthwaveも、制作するのに割と敷居の低そうに思えるジャンルであり、素人でも最悪サンプリングの素材を継ぎはぎすれば何とかなるだろう、てなかんじでFashwaveやLaborwaveの人たちが手を出したのが実情じゃなかろうか。これらのジャンルの音楽性と、ファシズムや共産主義との接点があるかと言われると、はっきり言って無いだろう。例えばこれが10年前とか、逆に10年後だったりしたら、まったく別のジャンルが選ばれていただろう。
・たぶん「Fashwaveとムネオハウスの比較」を記事にしたほうがよほど面白い記事になる説
・この記事は、普段書いているような記事から脱線した「こぼれ話」的な記事として書いたんですが、こればっかり閲覧数が増えているので困ります・・・。ほかの記事もぜひ読んでください。
(追記終わり)
このマガジンでは、いつも「Synthwave」とか「Outrun」と呼ばれるジャンルの音楽について書いているわけですが、なんか最近「Fashwave」という言葉を見受け、どうもSynthwaveと何らかの関連があるもののようなのでちょっと調べてみました。
結論から言うと、Fashwaveというのは、Synthwaveをスタイルだけ拝借した、非常にたちの悪いおふざけのようです。
検索して見つけたのがこの記事ですが、詳しく書いています。
https://www.buzzfeed.com/reggieugwu/fashwave
英語でしかも長い記事なのできちんと把握できているかどうかわかりませんが、FashwaveとはファシズムとSynthwaveを合わせた言葉らしく、要するにアメリカでいわゆる「Alt-Right」と呼ばれている人たちが、Synthwaveの音楽的なスタイルを拝借してヒトラーやナチスドイツを称賛するような曲を作り、YoutubeやSoundcloudにアップして、盛り上がっている連中がいるという事です。炎上しているのかどうかわかりませんが、炎上してそうな事案です。
しかしまあ、「Fashwave」とか、「C Y B E R N Δ Z I」とかそういうセンスのないネーミングはもうちょっと何とかならなかったんでしょうか。
そもそも、Synthwaveという音楽ジャンルには何の政治的なメッセージもなく、むしろそういう要素と結びつくのが難しいジャンルだと思っていました。基本的にSynthwaveで表現したいものって、”80年代っぽさ”だけだと思うのです。
個人的には、「音楽に政治を絡めるな」と言う気はないけど、ジャンルに変な色を付けるのはやめてほしいです。
SynthwaveやOutrunは、はっきり言って全然知名度のない、無名の人たちがインターネットの片隅でこっそり盛り上がっているジャンルです。世の中の大多数の人々はこのジャンルの名前すら聞いたことがないわけです。そんな状況において、こういった「事案」によって、Synthwaveの事を知るより前にFashwaveの名前の方が先に人々に植え付けられてしまうと、世の中の人々はその色が付いた状態でSynthwaveを認識するようになってしまいます。それはどうしても避けないといけない。
どうせやるなら、もっと裾野の広くて人口の多いジャンルでやってもらいたいですね。メタルとかパンクとかヒップホップとか。ヒップホップは無理か。
で、上記の記事によれば、Synthwave界を代表するレーベルであり全世界のSynthwaveファンがいつもお世話になっている我らが「NewRetroWave」の代表者は、「わしらあんなんと関係あらへんがな、一緒にせんとってくれ!」と一蹴してくれています。まあ、そらそうですよね。
これまでに同じような前例として、Pepe the Frogというアメリカのネット上で流行っていた割ときもいキャラクターがあるのですが、Synthwaveも同じ道をたどらないようにする必要があるわけです。Pepeは、もともとはただ単にインターネットの掲示板で流行っていただけの変なキャラクターですが、アメリカ大統領選の熱狂のなかで、いつの間にかトランプ支持派やAlt-Rightに関連付けられてしまい、ついにはヒラリーに名指しで攻撃されるという事態になってしまったキャラクターです。その辺りの経緯については、あまり日本では知られていない所ですが、以下の記事を読むと垣間見れるかもしれません。
Pepeも、こういう形で変な色が付いていなければもうちょっと面白おかしく楽しめたんだろうと思います。上記のRedditの記事にも出てくるイタロディスコのP.E.P.E.も、もろに直球の80年代で、VaporwaveとかFuturefunkを聴く人にとっては趣があるんじゃないでしょうか。なんとももったいない話だと思います。(ちなみに日本でもごく一部の人がAlt-Rightと関係なくPepeで盛り上がっているのですが、それについてはこの記事の主題から外れるしややこしくなるので割愛。)
ある意味SynthwaveやOutrun、それにVaporwaveというのは元々Pepeと同じようなインターネット上のミームとして扱われている部分があります。Synthwaveも、時期が悪ければヒラリーに名指しで非難されてジャンル自体がしぼんでしまっていたかもしれません。そうならないために、「本来のSynthwaveとはこういうものだ」というのを多くの人に知ってもらう必要があります。
しかしまあ、トランプ支持者とか、Alt-Rightと呼ばれる連中がどういう連中なのかということについてはある程度知っていますが、それがどうしてナチスドイツやファシズムに結びつくのかがいまいち意味が分かりません。そもそもトランプはナチスドイツを支持しないだろうと思うのですが。連中は、第二次大戦でナチスドイツはどこの国と戦争をしていたのか知らないのでしょうか。
結局、トランプの主張とナチスドイツで共通する点となると白人至上主義的な部分しかないだろうとおもうのですが、Synthwaveでよく使われている80年代のデジタルなシンセはヤマハやローランドが作ったという事を知らないのでしょうか?(ごくまれに知らない人がいるんですが、ローランドは日本の会社です)そんなパールハーバーを爆撃した民族の作った楽器の音で白人至上主義の音楽を作ってもいいんでしょうか?
とはいえC Y B E R N Δ Z Iのアップロードしている動画にはアニメのキャラを拝借しているのもあります(ちなみにPepeもいる)。日本人は名誉白人なんでしょうか?それとも枢軸側だからいいんでしょうか?
あと、KungfuryやHotline Miamiのストーリーについてこの連中はどう思っているんでしょうかね。
という風に、細かいところを突っ込んでいくときりがないんですが、この人たちは絶対そんな細かいことまで考えてないだろうと思われます。動画を見る限りはただ単に構ってほしいだけの中2病が作ったコンテンツにしか見えません。
おそらくSynthwaveのスタイルを拝借したのは、それがPepeと同じようなインターネット上のミームとして認識されていたからでしょう。ハーケンクロイツとかナチスのモチーフを使うのは、良識のある大人達がそれを忌み嫌うのを知っているからでしょう。それはある意味ヘビメタの人たちがパフォーマンスとして悪魔崇拝をやるのと似ているのかもしれない。でもそれはヘビメタの悪魔崇拝と比べて(欧米人的には)たちが悪すぎた。
欧米においてはナチスドイツがらみは徹底的にタブー視されているものですから。上のリンクのBuzzFeedの記事も、「トランプ支持者がナチスドイツ称賛の音楽を作ったぞ」って感じで、必要以上に大げさに面白おかしく書いているような気がします。(英語なので細かいところまでわかりませんが)
記事をみて「これはやばい奴ちゃうか?」と思って動画を見てみたら、なんか普通に痛い奴が作っただけの中途半端さが目について、再生回数的にもそこまで少なくはないけど多くもない感じで、反応に困ります。
まあ、Googleで「Fashwave」と検索しても、「もしかして:Flashwave」と出てくるような状況なので、かなり限定的な盛り上がりしかなかったんだろうと思います。
正直私もここ2~3年Synthwave等のジャンルを追いかけて多少なりともアンテナを張っていますが、Fashwaveというものは今日まで全然知らなかったわけで、自分の印象としては少なくともSynthwaveのメインストリームからはかなり外れた存在だったんじゃなかろうかと考えています。
Synthwaveも短いながらも数年の歴史があり、それを作っているアーティストたちは純粋に80年代のサウンドが好きでやっている人たちですし、そんなシーンをごく一部の変な奴のせいで、トランプ対ヒラリーの対立の燃料にされてしまうのはたまったもんではありません。
本来のSynthwaveとはどんな音楽なのか?というのは、このマガジン「21世紀の16ビット・サウンド」の他の記事でいろいろ書いてますので暇な人は読んでみてください。まだそれほど記事の数は多くないですが、書きたいアーティストはまだまだあるので今後も随時書いていきます。