Dr. Liveseyが歩きすぎる問題(YouTubeの謎ミーム #3)
今回紹介するミームはDr. Livesey。このミームは実は日本人が見ても何が面白いのかあんまり分からないかもしれない。というか外人もこれを面白いと思ってい見ているのか、それとも別の意味で面白がっているのか、その辺りはよく分からないんですが、でもまあミームとしてはなんかよく分からない勢いがあります。
Youtube上で広まったミームの形式としては、大体こんな感じです。
1988年に旧ソ連で作られたアニメ映画「Treasure Island(宝島)」に出てくる登場人物Dr. Liveseyの歩くシーンに合わせて、Ghostface Playaの"Why Not"という曲が流れるという物です。
後は、右手に酒、左手に骸骨をもって何か喋っているシーンもよく使われます。
Ghostface Playa "Why Not"の原曲の動画はこれ
このミームをもとに、多くのバリエーションが作られました。まあほとんど元ネタが分からないですが。
Treasure Islandという映画は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンによる1883年出版の小説「宝島」を原作とした作品です。この小説は私も子供のころに読んだことがありますが、どんな内容かさっぱり忘れました。結構色んな国で何度も映画化されているようで、旧ソ連でも映画化されていたというのは微妙な驚きがあります。ちなみに制作したのはキーウにあったスタジオのようです。
しかしこの動画を見ていただければわかりますが、1988年に制作されたと言っても絵の古臭さは否めないでしょう。1988年といえば、日本では「AKIRA」とか「となりのトトロ」とか「きまぐれオレンジ☆ロード」を作っていた時代です。もしかするとこの絵柄のチープさもミームとしての面白さにつながっているのかもしれません。
Know your memeの解説によると、このミームの起源は2018年頃にVKというSNSで広まったのが最初のようです。VKというのは、「今戦争をしているあの国」でよく使われているSNSですね。なので最初にこのミームを作った人たちは、実際に子供のころにこの映画を見ていた上で懐かし面白コンテンツとしてこの動画を掘り出してきたのかもしれません。
その後2022年になってからTikTokやTwitter等に伝搬したようです。
Dr. liveseyのChadさについて
このDr. liveseyのキャラクターについて、とても「Chadっぽい」という声があります。Chadと言うのは、割と昔からあるスラングのようですが、Memeの文脈でもかなり使われる用語で、日本で言う所の「ジャイアン」みたいなイメージの、とても尊大な態度で、とにかく力が全てと考えているような豪快で強引な男を指す言葉です。
海外のミーム文化においてはそういう尊大で偉そうな奴をChad呼ばわりするパターンが一定数あり、まさに日本における「ジャイアン呼ばわり」と大体同じ使い方だと思われます。
Phonkのリズムを知ってるかい?
このミームを特徴づけているもう一つの要素は、BGMとして使われている音楽、Ghostface Playaの"Why Not"という曲です。この曲の雰囲気は、ある意味このDr. liveseyが歩いているシーンにピッタリで、いかにも「おい、Chadが来たぞ」って感じが満ち溢れています。曲の構成としても、四つ打ちのリズムに一つのシンセのリフだけでほとんど一曲を押し通すという作りでとてもChadなスタイルの曲となっています。
この曲はジャンルとしては「Phonk」となっているのですが、Phonkというジャンルがどうにもいまいちわかりません。Wikipediaによれば、Phonkとはヒップホップのサブジャンルであると書いてあります。先に言っておきますが、私はヒップホップと言う物をよく知りません。ヒップホップにもいろんなジャンルがあるという事は認識していますが、私にはそれらがどう違うのか分からずどれも同じに聞こえます。まあ世の中にはSynthwaveとVaporwaveの区別がつかない人も沢山いるようなので、それはそういう物だと割り切るしかないでしょう。
しかしそんな私の耳で聴いてみても、YouTubeで検索して出てくるPhonkのプレイリストは、どれもヒップホップではなさそうな印象です。
YouTube上のPhonkのプレイリストは日々新しいものがどんどん作られていますが、動画名には「Hard Phonk」「Aggressive Phonk」「Dark Phonk」「Phonk House」「Chill Phonk」「Drift Phonk」などと言った呼び名が並び、たいていは日本のアニメの画像(チェンソーマンとか)を使っています。主に今戦争をしているあの国の人々がそれらの作品を作っているようです。
▶ Phonk House | Drift Phonk Mix #1
1 HOUR AGGRESSIVE PHONK #4 | Сборник агрессивного Фонка
Dr. Liveseyを邪悪にしたイラストですね
とりあえずPhonkについて調べていると、Ryan Celsiusという人がYouTubeで出している一連の動画のシリーズにたどり着きます。
TRAPPIN IN JAPAN
TRAPPIN IN JAPAN 7
何とも言えない映像から始まるな…
似たような動画にこういう物もあります。
TRAPPIN IN HEAVEN
数年前からこのような動画のシリーズを展開しているようですが、おそらくこの辺が現在あの国でPhonkと呼ばれている音楽につながっているのではないか?と推測しています。
シンプソンズのアイコンで、日本のアニメや映像を使っているのと、音楽的な部分からしても、割とミーム的要素が強くてVaporwaveの影響下にあるプレイリスト動画のようです。
そこからどのような経緯をたどったのか知りませんが、今戦争をしているあの国にPhonkが伝わり、そして何故か現地のドリフトマニアあるいは日本車マニア?の文化と融合し、Drift Phonkというジャンルが誕生したという事です。全くよく分からない展開ですが、そういう物だと割り切るしかないかもしれません。そこに意味を見出そうとしても陰謀論的なこじつけ以上の物は出てこないでしょう。
そしてDrift Phonkから「Drift」が取れて、ただ単にPhonkと呼んだりHard PhonkとかAggressive Phonkとか呼んだりジャンル名が多少ぶれながら、今戦争中のあの国におけるPhonkのシーンは存続しているようです。あんまりドリフトは大事じゃなかったのかもしれません。
音楽的には、もはやヒップホップではないかもしれません。ラップが入っている物はまだヒップホップと言えるかもしれませんが、多くの曲は四つ打ちのキックに裏拍のハイハットというリズムになっており、Phonk Houseという呼び名からも、それはもうハウスなんだと思います。ただ私の知っているハウスともちょっと違う気もしますが、どちらかと言えばハウスの方が近いでしょう。
こうして、EBMやDarksynthともまたちょっと違う、ダークで高揚感のある邪悪な電子音楽が新たに生まれた模様です。
と言うわけで、ヒップホップのサブジャンルの一つだったPhonkは、海を渡り、今戦争中のあの国に伝わった結果、なぜかハウスになってしまった。というのが現状だと思われます。何か知らないけどそうなってしまったと割り切るしかないでしょう。そこに意味を見出そうとしても陰謀論的なこじつけ以上の物は出てこないと思います。
まあでもオリジナルのヒップホップとしてのPhonkもどこかで生きているだろうとは思います。
そして2022年夏、Dr. Liveseyの歩く動画とGhostface Playaの"Why Not"を組み合わせることを誰かが思いついて、それが流行ってミームになってしまった。そこに至るまでの過程をこうやって見てみても偶然の出来事が適当に重なってそうなっただけで、まさにミームと言うのは遺伝子のように偶然の突然変異任せで生まれていくものなんだと割り切るしかなく、そこに意味を見出そうとしても陰謀論的なこじつけ以上の物は出てこないと思います。