精一杯やったら、ぜったい後悔することはないから
精一杯やっても、成功するとは限らない。でも、後悔だけは絶対することはないと思う。
夫が仕事を辞めることにした。
それは、去年の夏にお騒がせしたようなことではない。
体調不良でも人間関係でもなく、私たちが前向きに決めてのことである。
夫は、大学を卒業してすぐ、日本に来た。
そして日本で就職活動をし、就職した。
外国人が、出身国の文化などを生かすような仕事ってたくさんあると思う。例えば、私だったら日本食レストランのウエイトレスとか、日本語教室の先生とか。
でも、そうではなく、それ以外の。
言ってみれば「フツーの仕事」に就くというのは、想像以上に難しい。
日本語を母国語とし、日本の大学を出た人たちと肩を並べて就職活動をした。転職を2回した。苦労はしたが、いつもうまく行った。
とてもよく頑張ってくれた。私たちの生活のため、それから一緒にいることを保証するビザのため。
今年の正月に愛犬が逝った。
それを機に、私は夫はもう働かなくてもいいんじゃないか、と思い始めた。働いて欲しくない。好きなことをしてほしい。
したいことを、プロジェクトを進めてほしい。
私は夫に「もう仕事を辞めて、好きなことをしていいよ」と言った。
これ以上、我慢することをしないで。今を精一杯楽しんで生きてほしい。楽しめることばかりではなくても、精一杯やれば必ず後から「やってよかった」と思うときがくるから。
一生懸命やれば、後悔することなんで絶対にないから。
夫は、それでも渋っていた。
「ありがたいけど」
の後に続くのはやはり、私たちの生活費のことや、ビザのことだった。婚姻ビザ申請のためには夫婦のどちらかが就業している必要がある。それも正職員であるほど「安定的に収入が入る」とみなされ有利になることが多い。
私が働けない分、夫が我慢をし続けるというのはどうしても嫌だった。
生活はなんとかなるよ。お金なんてどうにかなる。ビザがダメだったらもう国外逃亡しちゃえばいいじゃん。ドイツ、いいじゃん。ムカつく奴多いけどケバブはうまいし。また、ビーネンシュティッヒでも食べよう。ほら、あの変なヒッピーのカフェで。ベルリン、また住もうよ。
しばらく説得したけど、ダメだった。夫は「好きな人のためなら自分が犠牲になる」を幼少期から続けてきたせいで、それがすっかり癖になってしまったようだった。
そこで、2月に離婚を切り出した。正確には、そのふりをした。
まずは、朝から機嫌を悪く見せた。そして、彼の努力を「腰抜けの言い訳」と言ったのだ。
私のため、といいながら結局は大きな決断をする勇気のない臆病者だ、と。
夫は怒ることはない。大きな声も出さないし、言い合いもない。とりあえず赤い顔でじっと座っているだけだ。
ピークに達しても何も起こらないので、私は奥の手を使った。
仕事を辞めないなら、離婚する。仕事を辞めて、自分のやりたいことをやれないような器の小さい男とは一緒にいたくない。離婚してほしい、と言った。
夫はそこから二週間考えて、社長に辞表を出した。社長は前向きに応援してくれた。
少々荒っぽい手段だけれど、こうして夫は開業届を出し「個人事業主」となった。そして、今日、サラリーマンとしての最後の日をすごした。
どうだった。
私は聞いた。夫は照れ臭そうに、
オンラインで送別会をしてくれた。もし大阪にくることがあれば会社によってくれれば皆んなでご飯を食べに行こうと言ってくれた。
と、ちょっと嬉しそうにしていた。いままで仕事のこと以外ではやり取りを避けていた人たちが、寂しがってくれた、と言っていた。
でしょ、悪くないでしょ。人と仕事をすることは。でも、きっとこれからもっと楽しくなるよ。自分の思うことをそのまま形にできる。それに十分に力と時間を注げるから。
◇
今回の決断のこと、どう思う。
公園を散歩しながら聞いてみた。
夫は私の両肩を両手でぎゅっと掴んだ。これは「ありがとう」のしるしで、夫と出会ってから何度もされた。
きっと、微熱が無理やりこうしてくれなかったら、いつまでも決断できなくて今もサラリーマンをしていたと思う。これからも。
この先どうなるかわからないし、いつかまたサラリーマンに戻ることもあるかもしれないけど、それでも微熱の説得をありがたく思う気持ちは変わらないよ。
私たちの楽しみは、
・平日の昼間にラーメンを食べに行くこと
・森の中に歩いて行って、緑に囲まれて仕事をすること
・平日しか空いていないパン屋に朝から並んで、公園でモーニングすること。
今まで、平日は夫の仕事でなにもできなかったから、楽しみだなと思う。
夫も同じく楽しみにしているそうだ。
楽しみばかりではない。辛いことだってたくさんあると思う。でも、したいことを精一杯していれば必ずなにかにはなるはずだ。
また夫の仕事のことやその後の進捗具合はお話しできたらいいと思います。全て本人の許可を得て書いています。
もし、夫がなにかを作ってリリースすることがあれば、ぜひここでも紹介させてください。
夫と私の出会いについての記事を引っ込めていましたが、もう一度出すことにしました。よかったらまた読んで見てください。