ねことテーブル
ドイツ語に「カッツェンティッシュ」という言葉があります。直訳すると「猫」「テーブル」。それだけの言葉です。
その猫は複数形です。なので、何匹もいる。テーブルが1つある。そんなシーンです。
その言葉を知ったとき、私はドイツ人にどういう意味なのかと尋ねました。相手は頭で想像してみればすぐわかる、と言います。
私は家に帰り、想像してみました。
頭の中にはひとつの木製のテーブルが浮かびました。それは大きくて立派なもので、オレンジ色の明かりで照らされています。
ずらり並べられた椅子には、それぞれ猫が座っていてなぜか激論を交わしています。これはこうだ、いや違う、お前に何がわかる、と言い合っています。
毛が飛び散り、テーブルは爪痕だらけ。みんな必死です。
次のシーンはこうでした。
一匹の猫が泣いています。終始めそめそするその猫を囲んで、ほかの猫がああでもない、こうでもないとなだめているのです。
あいつが悪いんだよ
あなたが心を痛めることじゃない
いつかわかる時がくるさ
でも私から見ればやはり、にゃあにゃあ、としか聞こえないのです。
なるほど、それで、と腑に落ちました。
調べると、素人が机上の空論を交わしている、そんなような意味でした。
例えば、政治について宗教について、大人がああだこうだ言っているときに、ふと子供が来て
「カッツェンティッシュ」
なんて言います。お母さんは、こら!あんた、失礼を詫びなさい、なんて言うだろう言葉です。
ようやくわかって少し笑ったとき、たまたま目玉焼きを作っていましたから、私はその目玉焼きの皿を爪痕だらけのテーブルに静かに置いておきました。