シュピナートヌィサラートスヨーグルタムの休日#同じテーマで小説を書こう
noteを始めて2日目、たまたま見つけたこの企画で書きたいと思い参加しました。全く知らないものを調べないまま書くというのは、とても面白いテーマだと思いました。ありがとうございます。
今朝起きてみると妻が、小ぶりだけれど横に広めの白い肌をゆらしてパンを焼いているのが見えた。気づくと隠れてしまうので寝たふりをしながら。
すると珍しく、こちらに気付いた。さらに珍しいことに、隠しも隠れもしなかった。
最近このあたりにできたパンやさんなんだけど、このサラートがすごくおいしくてね。中に入っているものも、想像するとわかると思うけどすごくしっとりしていて程よくしょっぱいの。
と言っておとなの顔ほどあろうかというサラートをつぎつぎとオーブンの中に放り込んでいる。
こうしているとオーブンさんはお腹いっぱいになるね。オーブンさんはサラートが大好きだものね。
そういう妻が可愛らしくて、ぼくはおきあがって、少し大きめの声で言った。すこしあたためるくらいでいいんじゃないかな。
◆
ヨーグルタムは散歩に出かけている。
こんなところで平気だったなんて、驚きだ、品がないな。
馴染みであるフルートの家のまえにはリンデンの木がある。一つも曲がることなくすっと高くそびえ、白くつやつやとした肌を持つ。長い間、ロンドンのブルーグレイによく似合う、シンボリックなものとしてここで愛されてきた。葉を十分に茂らせていても、今日のように裸でも。新入りが来たな。ヨーグルタムはマーキングを見下ろし、うなる。どこかの、しつけがなっていないプードルってとこか。
思考がひと段落するまでリードを引かずに待ってくれる飼い主を心から愛す。
◆
ヘンマはちょうどいいシュピナートヌィでなければどうしてもそれを作ることができないという。それとはイタリアの郷土料理で、はっきりとした名がない。というのもかつては、口に出してはいけない料理。市民がぜいたくを許されなかった時代、台所の背徳として作り続けられた一皿なのだそうだ。
普通なら新鮮でピンピンしているものを探すんだろうけどさ。そんなのはイタリア中どこでも売ってるよ。そうじゃなくて。シュピナートヌィが少しだけ萎れてるくらいがちょうどいいんだ。古いってのとはまた違うよ。早朝マルクトに出て陽を浴びて、人々と喧騒を過ごし、夕方くったりとこうべを垂れてるのがちょうどいい。
つまり売れ残りだな、と店主はいう。そんなものうちにはないよ。すっかりさっぱり売れちまって、葉っぱ一つも残っちゃいない。
◆
彼女の村では、女性は正式な職に就くことを許されていない。
おまえの母さんはね、最初は梅干しだのガリだのそういうものをまるで豚になったみたいにガツガツ食べてたよ。そのうち、これじゃあ物足りないと言って、スをコップに注いで飲んでた。この子は、誤って口から出てこようとしてるんじゃないかって真剣に悩んでたよ。わたしが口から出てきていれば、父親も少しは驚いてくれただろうか。私のシコウに微塵ほどは興味を示したんだろうか。ありゃアル中になったんじゃないかってみんなで茶化してたんだよ。わかるかい、白ワインは古くなるとスになっちゃうんだ。