シンギュラリティの実現可能性とシナリオを考える(1)

シンギュラリティ (技術的特異点) とは、人工知能(AI)が人間と同等かそれ以上の知的能力を獲得し、AIがさらに高い知能をもったAIを生み出すようになり、技術革新のスピードが飛躍的に加速することを指す。

この概念はレイ・カーツワイルによって唱えられ、彼は2045年前後にシンギュラリティが起こり、社会に劇的な変化が起こると予想している。


では、シンギュラリティは現実に起こるのだろうか?起こるとすれば、いつ?


シンギュラリティは起こりうるか?

 カーツワイルはシンギュラリティが2045年ごろに起こると予想している。この予測は彼が唱える「収穫加速の法則」に基づいており、これは技術革新のスピードは速くなりつづけるという経験則である。
 筆者としてはこの法則を必ずしも支持しないが、21世紀半ばにシンギュラリティが起こることは十分ありうると考える。理由の一つとして、すでにコンピュータの処理速度は人間のそれをはるかに上回っており、演算能力の向上は並列化によって今後もしばらく続くと考えられるからである。したがって、人間の脳のように高度で抽象的な認識を行えるアルゴリズムが完成すれば、シンギュラリティはいつ起こってもおかしくはない。
 現時点ではそのようなアルゴリズムは知られていない。今のところ、コンピュータは数値計算やデータの読み書きは非常に高速に行えるものの、外部世界を認識し、自ら行動する能力はほとんど備えていない。
 これを覆すものとして、ここ数年、ディープラーニングをはじめとした機械学習が流行しており、画像認識や囲碁、自然言語処理などさまざまなタスクに応用されている。この手法の特徴は、人間がプログラムを直接組み込まなくても、コンピュータが自動的に「学習」して処理を行えるようになるというものである。
 しかし、現在主流の機械学習は人間が明示的にデータをラベリングして与える必要があり(教師あり学習)、自発的に学習すべきタスクを習得することができない。人間のように真に自動的に学習することができる学習アルゴリズムも研究されているが、現時点では人工知能の構築に十分なレベルには程遠い。
 また、仮に人間レベルの人工知能が完成したとしても、高度な人工知能の稼働には莫大な計算リソースが必要だと考えられ、そのようなコンピュータを大量に安価で作る技術が今後数十年で完成するとは限らない。カーツワイルは、技術的特異点を人工知能の能力が人間の能力を超える時点ではなく、「$1,000で入手できるコンピュータの性能が全人類の脳の計算性能を上回る時点」としている。もしハードウェアの進歩がAIのそれに追いつけなければ、人間をはるかに上回る知能を持つ人工知能が完成しても、ごく限られたスーパーコンピュータなどでしか動かせず、シンギュラリティにつながらない可能性も十分ある。

 筆者としては、人工知能のアルゴリズムというソフトウェア的課題は今後数十年のうちに突破され、人間レベルかそれ以上の人工知能が今世紀中に完成する可能性が高いと予想するが、人工知能を動かすコンピュータのハードウェア的性能がそれに追いつけるかは未知数であり、シンギュラリティが起こるかどうかは知るすべがない。


次回は、シンギュラリティが「起こる」シナリオと「起こらない」シナリオをそれぞれ予想してみる。

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