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エルサルバドル① ― サンサルバドル ―

前回記事

ここからいよいよエルサルバドル編に突入する。

近年、エルサルバドルはメディアで取り上げられる機会が増えており、その名前を耳にした方も多いだろう。

かつては「ギャングに支配された国」としてのイメージが強かったが、2019年にナジブ・ブケレ大統領が就任して以降、劇的な治安改善とBitcoinの法定通貨採用で世界からの注目を集めている。

まずはエルサルバドルの基本情報から見てみよう。


基本情報:
首都:サンサルバドル
言語:スペイン語
人口:約630万人
面積:約2万平方キロメートル(九州の半分程度)
通貨:USD、Bitcoin
気候:年間を通じて温暖で平均気温は約25°Cから30°C。湿度が非常に高い

エルサルバドルは3つの国と隣接する

歴史:
エルサルバドルは、マヤ文明の南東端の周縁地域として繁栄していたが、16世紀にスペインの支配下となり、カトリック文化が浸透。
1821年に「中央アメリカ連邦共和国」の一部として独立し、1838年の連邦崩壊後、エルサルバドルは独立国となった。20世紀には軍事独裁政権が続き、1970年代から1992年までは政府と反政府勢力による内戦状態に。1992年の内戦終結以降、民主主義体制を維持している。グアテマラと違い、マヤ系先住民が少ない背景には、1932年に起きた「ラ・マタンサ」と呼ばれる先住民虐殺がある。

経済:
経済面では、2022年のGDPが325億ドルで、そのうちサービス業が71%を占め、製造業が15%、その他の産業活動が9%、農業が5%といった構成だ。主な輸出品は繊維製品、コーヒー、砂糖、エビなどで、アメリカが主要な輸出先である。2021年にはパンデミック後の経済活動活発化によりGDP成長率が10%台を記録するも、翌年以降は世界的なインフレや金利上昇による経済成長・輸出抑制により1~2%台を推移。貿易赤字・財政赤字が続いているのが現状だ。
2001年から米ドルを法定通貨化。2021年にはBitcoinも法定通貨に追加されたことは記憶に新しい。

治安:
エルサルバドルは「世界で最も危険な国」とも言われたが、2019年以降に劇的な治安改善を果たした。2014年から2018年の殺人発生率は世界ワースト1位(武力紛争国を除く)だったが、2022年にはワースト39位へと大幅に改善。これは、ブケレ大統領が「マラス」と呼ばれるギャング組織の一掃に乗り出した成果だ。ただし、強硬な取り締まりにより誤認逮捕などの問題も発生している。


今回の旅では、首都のサンサルバドルと "ビットコインビーチ" ことエルソンテを訪問するルートとした。

サンサルバドル<=>エルソンテは、ローカルバスで移動できる

グアテマラを出国した私は、まずは首都サンサルバドルを調査すべく現地に足を運んだ。



サンサルバドルに到着したのは夜9時を回った頃だ。
Uberでホテルへ向かう道中、夜の街を歩く人々の姿が見えた。グアテマラの住民から「エルサルバドルは治安が良い」と聞いていたが、実際にUberドライバーに尋ねてみても「最近は本当に治安が良いから、夜に外出しても大丈夫だよ」とのこと。どうやらうわさは本当らしい。

首都サンサルバドルはザックリと「新市街」 と 「旧市街」に分かれる。

新市街から旧市街まではUberで25分ほど

新市街は、各国の大使館や外資系企業やホテル、ショッピングモールなどが立ち並ぶエリアであり、目立った観光スポットはない。
一方で旧市街には、スペイン統治時代の建物や教会、マーケットがあるのでサンサルバドル市内を観光するのであれば、こちらがおすすめだ。

新市街には巨大なGoogleオフィスがそびえ立つ
旧市街にある教会の一例

ところで最近になって、旧市街にも近代的な建物が出現した。それは、国立図書館である。

エルサルバドル国立図書館

総工費2,400万ドルといわれる巨大プロジェクトだが、実は中国が全額負担で請け負った。
中国はアメリカと地政学的な緊張がある中、中南米諸国への影響力拡大に力を入れており、エルサルバドルもその一環で投資が進められているようだ。
国立図書館以外にも、ラ・リベルタッド港やサーフシティの道路、国立スタジアムといった観光インフラプロジェクトを支援中であり、多額の中国マネーが流入していることが分かる。



では、ここでBTC Mapを見てみよう。

BTC Map

新市街の方がBitcoin決済を受け入れている店舗が多いことが一目瞭然だ。
そこで、手始めに新市街でBitcoin決済が可能な店を訪問することにした。

新市街のSan Benitoというエリアは、一昔前の六本木といったところか、沢山の新しく奇麗な施設がある。
ショッピングモールに店舗を構えるレストランや、洒落たカフェ、スーパーマーケットなど数多くの店舗がBitcoinを受け入れていることを確認できた。Bitcoin支払をしたい旨を伝えると、「はいはい、Bitcoinね」というように手慣れた感じの所が多かったのも印象的である。

店舗側で使われていた決済システムは、OSMOChivo WalletBlinkが主流であり、個人経営の小規模店舗やトレーラー型店舗ではBlinkが多く使われていた。
現地で直接確認することはできなかったが、スイスやスロベニアで実績のある「GoCrypto」も徐々にエルサルバドルも普及し始めているとのこと。GoCryptoのPOSは、Bitcoin以外にもUSDTやカード決済にも対応している優れモノだ。



さて、数ある店舗の中でも最も熱くBitcoinについて語ってくれたお店があったので紹介したい。

Cherito Bitcoin Speciality Coffee ~

店名に ”Bitcoin” が入っていることからして熱意の高さを伺えるこのお店は、トレーラー式のカフェだ。

しっかりとBitcoinをアピール

実はこのカフェは、The ₿itCafe ProjectというBitcoinを活用してエルサルバドルの小規模コーヒー農家を支援する取り組みの中から生まれた販売チャネルである。

プロジェクトでは、小規模コーヒー農家が生産したコーヒーを仲介業者に搾取されることなく消費者に届けることを目標に掲げており、購入されたコーヒー1杯ごとにFiat払い(現金、クレカ)であろうとBitcoin払いであろうと、ピアツーピアの取引システムを通じて生産者に対価が直接支払われる仕組みだ。
また、Bitcoinに関する基礎的知識を習得できるような教育活動や各地にBitcoin ATMを設置するなど様々なアクティビティを実施している。

そんな Cherito Bitcoin Speciality Coffeeで働く店員さんから詳しい話を聞くことができた。

まず、カフェにくるお客さんの85%がBitcoinでコーヒーを購入しているという。ただし、Bitcoinで支払うお客さんの大半は外国人で、地元民がBitcoinを使うことは少ないそうだ。

カフェ側のBitcoin受け取り手段はBlinkだが、店舗側端末にはChivo Walletもインストールされていることを確認した。
Chivo Walletとは、エルサルバドル政府自ら開発主導した "政府ウォレット" ともいえるものである。リリース当初には、ウォレットのセットアップ時に30USDプレゼントキャンペーンをも実施し国民への普及を促したが、いかんせん送金トラブル等の不具合がしばしば発生するようだ。

Chivoユーザーのリテンション率は9%程度

そういうわけで、当店ではBlinkを好んで使っているという背景である。
(ちなみに "Chivo" とは、スペイン語で "クール" を意味する。ぜひとも、その名の通りクールなウォレットにアップデートしていって欲しいものだ)

なお、店員さんが個人的に激押しなウォレットがあり、それは "Dito Wallet" というものだ(恐らくこのプロダクト)。
開発企業のDitoBanxは、エルサルバドルのFintech企業で且つ、暗号資産サービスプロバイダーでもある。
彼らはDito Walletを開発する傍らMastercardと提携し、ウォレットに入っているBitcoinとUSDCをウォレット内蔵のMastercardプリペイドカードにチャージしてカード決済をできる仕組みを提供している。
これは非常に便利な仕組みだ。従前では、Bitcoinを保有してても使えるユースケースが少なかったが、Mastercardのプリペイドカードを経由することで世界中のカード加盟店であれば使えるようになったのだ。
もちろん、ユーザーが銀行口座を保有していれば現金化も可能である。

色々とお話を伺う中で、一般市民のBitcoinに対する姿勢と今後の展望について伺うと──

「正直、一般市民でBitcoinを使う人は少ないです。それは、Bitcoinに関する教育がまだ浸透していないからだと思います。私自身は『Mi Primer Bitcoin』で学びましたが、もっと多くの人がBitcoinについて学ぶ必要があります。エルサルバドルではBitcoinが法定通貨になりましたが、そのチャンスをうまく活用していかなければなりません。私たちのような者が、オレンジピル(Bitcoinの啓蒙)を広めていくことで、人々の理解を深めていきたいと思っています。」

かつて内戦やギャングによる治安崩壊により苦しんでいたエルサルバドル。その中で、自国におけるBitcoinが新たな可能性をもたらすと信じ、その普及に努めている。
彼が淹れてくれた一杯のコーヒーは、まさにその熱い思いが溶け込んだかのような豊かな香りと深い味わいを持っており、ラテアートに描かれたBitcoinのロゴも特別な印象を与えてくれた。

Bitcoinのロゴ入りカフェラテ


その後、探索範囲を旧市街にも広げ、Bitcoin決済ができる店舗を探してみたものの、その数はごくわずかだった。エルサルバドル国立大学周辺で学生に話を聞いたところ、「Mi Primer Bitcoin」で学んだという学生もおり、Bitcoin教育は若者の間で徐々に広がっているようだ。

エルサルバドル国立大学
エルサルバドルの未来を担う若者達が集結している
マクドナルドの注文パネルでは、Bitcoin支払を選択できる
残念ながら不具合により決済完了までは至らなかった
市内に点在するATMではBitcoinとUSDの交換が可能
電話番号による確認で取引を実行できる


今回、サンサルバドルには3日間滞在したが、残念ながら一般市民がBitcoinを使っている様子は確認できなかった。
Bitcoinでの支払いが可能な店舗は、主に大型スーパーや観光客・富裕層向けのレストランが中心で、その多くはクレジットカードにも対応している。クレジットカード払いとBitcoin払いのいずれも手数料が上乗せされるため、Bitcoinが豊富にある人でないと、わざわざBitcoinを選ぶことはないだろう。特にスーパーマーケットのような回転率の高い店舗では、レジでのオペレーションに時間がかかるBitcoin決済はあまり好まれないようだ。(余談だが、新市街の現地の人たちは現金よりもクレジットカードで支払うことが多い印象を受けた。)

なお、うわさ通り治安は良好だった。市内の至るところで軍人や警察、民間セキュリティがパトロールをしているため、夜に一人で出歩いても特に不安は感じなかった。ただし、旧市街の人通りの少ない路地裏はやはり不気味な雰囲気が残っており、観光であれば日中の訪問をおすすめしたい。



サンサルバドル編は以上である。

次の目的地は「ビットコインビーチ」として知られるエルソンテ。エルソンテにBitcoinが普及したのは、計画的な取り組みというよりも、ある出来事が契機となっているのだ。

メディアでも取り上げられることの多い村であるが、現地の方の話を聞くべくサンサルバドルから移動を開始した。

続く



エルサルバドル豆知識

  • 世界遺産:マヤ文明の跡が残るエルサルバドルであるが、実は世界遺産はホヤ・デ・セレン遺跡の一つしかない。他にも世界遺産に登録に足る遺跡は複数あるのだが、コンクリートによる修復工事を行ってしまったために登録認定を逃したというトホホなエピソードがある。

  • 人々の様子:一般的にラテン圏の国民は陽気で明るいイメージがあるが、エルサルバドル人は比較的おとなしい。グループで話すときも声が小さく、大音量で音楽をかけている人も少なかった。とはいえフレンドリーでないというわけではなく、困っている時は助けてくれる優しい人たちだ。







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