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グアテマラ② ― ビットコインレイク ―

前回記事

バスに揺られること約2時間、ついに「ビットコインレイク」と呼ばれるパナハチェルに到着した。

アティトラン湖のほとりに位置するこの街は、人口およそ1万人で湖周辺に点在する町の中では最大規模だ。

湖の周辺には多くのマヤ系先住民が暮らしており、パナハチェルからボートで各エリアへアクセスできるため、「アティトラン湖の玄関口」としても知られている。

サン・ペドロ・ラ・ラグナなど周辺の町にはボートで移動

このアティトラン湖は、探検家や写真家たちによって「世界一美しい湖」とも称される絶景スポットだ。

とあるカフェから撮影したアティトラン湖

世界一美しいか否かの判断は難しいが、ターコイズブルーに輝く湖は、自然の美しさを満喫するにはもってこいである。



さて、パナハチェルが「ビットコインレイク」と呼ばれているが、このような 「ビットコイン〇〇」 と称されるコミュニティは、Bitcoinを活用した循環経済を目指すもので世界各地に存在する。

エルサルバドルの「ビットコインビーチ」が最も有名だが、他にも中米ではコスタリカの「ビットコインジャングル」やホンジュラスの「ビットコインバレー」が存在し、南アフリカにも「ビットコインエカシ」というコミュニティがある。

当のビットコインレイクは、「Bitcoin Lake Project」によって運営されており、2022年の古い記事の参照ではあるが以下の目標を掲げているようだ。

  • 短期的には、多くの人にBitcoinについて教育し、Bitcoin決済を受け入れる企業を増やすことを目指す。

  • 長期的には、Bitcoinマイニングを通じて湖周辺の人々に基本的な収入を提供し、再生可能エネルギーを利用して信頼性のあるエネルギーネットワークを構築することを目指す。

最近では、マヤ系先住民に対するBitcoin教育までも行っている彼らの情報はXで確認することができる

今回の滞在ではマイニングプロジェクトの現状までは追えなかったが、パナハチェルのさまざまな店舗でのBitcoin決済導入状況や店舗側の意識について調査した。

BTC Mapによると、計60店舗ほどでBitcoinを使えるようである。

BTC Map

中でも興味深いのは、湖を渡るボートの料金もBitcoinで支払えることで、Map上には「Bitcoin Boat」と記されている。

ボート系は計3つ

数年前にパナハチェルに滞在した人のYoutube動画を見ると、Bitcoin支払可能なトゥクトゥクもあるらしく、情報通りであればまさにあらゆるサービスをBitcoinで利用可能なエコシステムが形成されているといえるだろう。

*トゥクトゥクとは、オート三輪タクシーのこと。インドや東南アジアなどで広く普及している。



それでは、パナハチェルの街に入ってみよう。

街を散策していくと、目に飛び込んでくるのは多彩なグラフィックアートだ。現地の独特な色使いのストリートアートは見ていて飽きることがない。

極彩色のストリートアート
動物モチーフも多い

中心街へ進むと、Bitcoin決済が可能であることを示す標識やステッカーを数多く見つけることができた。これは大変期待が持てる。

Bitcoin決済が可能な店舗には、このような標識が飾られていることが多い


一通り散策したのちに、最も気合の入った店に入ってみることにした。

気合の入りようが違う

~ Churrascon Tejano ~

メニューのないスペイン語オンリーのお店だったため、店員さんに「あなたの一番好きな料理をください」というオーダーで運命を天に任せたところ、ステーキが登場。美味でボリュームたっぷりの料理だった。

さて、Bitcoin決済の時間である。

当店ではBlinkウォレットによる決済のようだ。店員さんが、スマートフォンでBlinkを立ち上げ=>請求金額を入力=>QRコードを生成。それを私が自分のWalletで読み取り、支払いが完了した。<動画はこちら

ただし、現金なら50ケツァルのところ、Bitcoin払いにすると20%近い手数料が上乗せとなってしまった。

パナハチェルでは、クレジットカード(VISAなど)での支払いも一部店舗で受け付けているが、その場合は加盟店手数料が加味されて7%程度上乗せされることが多い。Bitcoin決済の場合の手数料は店舗によるが、クレジットカードよりも高くなることもある。(もちろん、現金支払時と同額でBitcoin決済ができるお店もある。)

その理由は、Bitcoinのボラティリティが高いためかもしれない。現金化するまでのリードタイムで市場リスクが発生し、その分をカバーするリスクプレミアムが手数料に反映されていると考えられる。今回の訪問時はちょうどBitcoin価格が激しく動いて下落トレンドにあったため、手数料が高く設定されていたのかもしれないが、Bitcoinの価格変動が落ち着けば、手数料も変わる可能性がある。とはいえ、この高額な手数料が解消されなければBitcoin決済を選択する人は増えないだろう、と思わされた。

その後、BTC Mapに掲載されている様々な店舗を訪問してBitcoin決済可否についてヒアリングを行ったが、中にはBitcoinでの支払いができない店舗もあった(母数はBTC Map掲載店なので、未掲載で取り扱える店舗が増えている可能性はありうる)。

そのうちの一つ、インド料理店の店員さんに詳しく話を聞くことができた。こちらのレストランは、実は最近までBitcoin決済が出来ていたが、オーナーの一存で対応をやめたという。

「オーナー判断の背景のすべてを知っているわけではないが…」との前置きのあと、システムの問題やBitcoinを現金化する手間等を総合的に考えて取りやめたとのコメントをもらった。また、当店はVISA等のクレジットカード決済にも対応したので、Bitcoin支払を継続するインセンティブもあまりなかったという。

ちなみにBitcoinからの現金化は、市内に数台あるBitcoin ATMを利用していたとのこと。よく使ったATMは 「Amaranto Panajachel」 というレストランの中にあるとも聞いた。ただ、ATM自体が動かないことがあるらしく、あまりUXが良くなかったのだろうと推測される。


ビットコインレイク総評

パナハチェルには二日間にわたり滞在したが、アンティグアと比べてBitcoin決済が普及しており、飲食に関してはBitcoinのみで十分に楽しめると自信を持って言える。
店舗側のBitcoin決済対応ではBlinkを多く見かけることができ、Bitcoin Lake Projectによる普及活動のたまものであると実感した。

一方で、飲食店以外でのユースケースが先細りしており、かつては存在していたBitcoin対応のボートやトゥクトゥクを確認することはできなかった。

また、金流が「観光客⇒小売」で止まっており、B2Bの循環経済にはまだ至っていないようだ。宿泊したホテルのオーナーは「インフラが弱く、パナハチェルでは停電が頻発するため現金への依存度が高くなってしまう」と語っていた。


グアテマラ総評

今回の旅では、観光都市アンティグアとパナハチェルでBitcoin決済を体験した。数年前と比べて爆発的に普及しているとは言えないが、パナハチェルのような地方都市でBitcoinが利用されているのは驚くべきことだ。

グアテマラにおける銀行口座保有率は40%程度と言われており、まだまだ金融サービスとの距離がある人が多い。Bitcoinはそうした「アンバンクド」と呼ばれる人々にとって、金融包摂の観点から重要な役割を果たす可能性がある。銀行口座を持たない人でも、インターネットとスマートフォンさえあれば貯蓄、送金、決済が可能だからだ。また、現状のグアテマラには該当しないが、自国通貨の価値低下による資産運用リスクを分散することもできる。

今後、Bitcoinを一層普及させるには、トップダウンとボトムアップ両面からのアプローチ強化が求められるだろう。

  • トップダウンの観点では、規制当局がBitcoinに対する姿勢を明確にし、電力・通信インフラの安定化に向けた官民一体の取り組みが求められる。隣国のエルサルバドルと比較するとまだまだ足りていない。

  • ボトムアップの観点では、Bitcoinに対する教育や啓蒙活動を強化し、ユースケースを増やすことだ。
    そのためには、「Bitcoinって便利で使える」と感じてもらえるような環境づくりをすることが重要だ。小売店がBitcoin決済を導入するメリットが増え、さらにその受け取ったBitcoinを再利用できる循環ができれば、地域全体のBitcoinエコシステムが活性化するだろう。
    もちろん、Bitcoinのボラティリティの高さや、店舗側の運営リスクをどう軽減するかといった課題は残るが、例えば、受け取ったBitcoinの一部を運用し、利益が出る仕組みを作ることで、Bitcoinの保持メリットを感じられる体験を提供することも考えられる。資産運用や支払いのためのインセンティブがあれば、受け取ったBitcoinを再び循環させる動きが自然に生まれる可能性も高まる。

住民の中には、Bitcoinに対する知識がまだ不十分な人も多い。Bitcoinの資産性や運用メソッドをしっかりと理解してもらうことが、Bitcoinを受け取った店舗がその価値を有効に活用し、持続可能な経済循環に組み込むための第一歩となるだろう。

なお、Bitcoinの視点を抜きにしても、アンティグアとパナハチェルは非常に魅力的な街であった。特にパナハチェルを含むアティトラン湖周辺は、自然が美しく、ゆったりとした時間の流れを感じられる場所だ。「沈没者」と呼ばれる長期滞在者が続出するのも頷ける。また、住民同士で協力して治安維持活動が行われているため、アンティグアよりもさらに治安が良いと感じた。唯一の難点は、国外からのアクセスで必ず通る首都グアテマラシティの治安の悪さだが、それさえ何とかクリアーできれば、また訪れたいと思わせてくれる街々であった。

グアテマラでの活動を終え、次に向かうのはBitcoinの本拠地ともいえるエルサルバドル。中米で最も先進的なBitcoin政策を展開している国が、どのような現状を見せてくれるのか——期待と興奮を胸に、私は次の旅路へと足を踏み出すのであった。

続く


グアテマラ豆知識

  • 火山の国:グアテマラには数十もの火山があり、そのうちいくつかは活火山。特にアカテナンゴ山は、火山の噴火を目の前で体感できるスポットとして人気がある。各地に日本人も好きな温泉あり。

  • チョコレート発祥の地: グアテマラはカカオの栽培が盛んな地域で、古代マヤ人がチョコレートの飲み物を作っていたと言われている。この文化は現在でも受け継がれており、グアテマラでは本格的なカカオを使ったチョコレートが楽しめる。

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