グアテマラ① ― 古都アンティグア ―
<前回記事>
今回の旅の最初の目的地は、グアテマラだ。
グアテマラと聞いて、すぐにイメージできる読者は少ないかもしれない。しかしグアテマラコーヒーと言えば、馴染みがあるのではないだろうか。実はグアテマラは、世界で第11位のコーヒー豆生産量を誇る国なのだ。
そんなグアテマラがどのような国なのか、現地レポートに入る前に少し紹介しよう。
基本情報:多様な文化と自然が広がる国
首都:グアテマラシティ
言語:スペイン語が公用語だが、農村部では約20のマヤ語が話されている
人口:約1,760万人(中米最大規模)。うち4割はマヤ系先住民
面積:約11万平方キロメートル(日本の約3分の1)
通貨:ケツァル (GTQ)
気候:標高の高い山岳地帯は涼しく、低地は温暖で湿潤。首都グアテマラシティの標高は約1,500m
歴史:古代マヤ文明から内戦まで
グアテマラは、古代マヤ文明の中心地であった。紀元前2000年頃から9世紀までマヤ文化が繁栄したが、16世紀にスペインの征服を受け、カトリック文化が強く根付くようになる。その後1821年にスペインから独立するも、内戦とクーデターが繰り返され、特に1960年代から1996年にかけて続いたグアテマラ内戦では国土に甚大な被害を受けた。1996年に和平協定が締結され、民主主義国家として再出発を果たした。
経済:農業と観光
2022年のGDPは927億ドルで、主要産業は農業、製造業、サービス業に分かれる。農業ではコーヒー豆、バナナ、砂糖、ゴマが主な産物で、国内労働力の約50%が従事している。製造業は繊維や衣料品が中心で、サービス業ではマヤ遺跡などを活かした観光業が盛んだ。幸いなことに、グアテマラはアルゼンチンのような通貨下落や高インフレに悩まされているわけではないようだ。
治安:明暗が混在する国
残念ながら治安はあまり良くない。2022年の殺人発生率ランキングではワースト17位で、銃による犯罪が多発している。これは憲法で市民の銃所持が許可されていることも影響しているだろう。中でも首都のグアテマラシティは危険なエリアとして知られ、昼夜問わず凶悪事件が起きているため、外務省からも注意が呼びかけられている。ただ、一般の市民は善良な人々が多く、犯罪の多くは犯罪組織の関与によるものだ。もともと内戦の影響で「マラス」と呼ばれるギャングが台頭し、最近では隣国エルサルバドルでギャングが一掃された影響で、その残党がグアテマラに流入しているとされる。
今回の旅でも、グアテマラシティは空港への乗り降りだけにとどめ、極力足を踏み入れないルートとした。
2024年8月某日、グアテマラシティのラ・アウロラ国際空港に降り立った私は、手荷物受取所で出会った旅行者とタクシーをシェアし、古都アンティグアに向かって一目散に走り去った——。
グアテマラシティから車で1時間強、アンティグアに到着した。
「古都」と称されるこのアンティグアは、かつてグアテマラの首都であった。16世紀のスペイン入植時には中心都市として繁栄したが、その立地が災いした。アンティグアは周囲を火山に囲まれており、度重なる火山噴火や地震の被害に見舞われた。最終的にこの自然災害の脅威から逃れるため、首都は現在のグアテマラシティへ移されたという歴史がある。
実はこのアンティグア全体が世界遺産に登録されている。ヨーロッパのようなバロック建築やコロニアル建築が数多く残されており、街を歩くだけでもその雰囲気を楽しめる。まるで時代を遡ったかのような感覚に包まれる街だ。
地元の人いわく、夜22時を過ぎたら外出は控えるべきだというが、それ以外の時間帯は比較的安全で、実際に私も滞在中は過ごしやすさを感じた。治安が安定しているためか、スペイン語を学ぶために語学留学で訪れる人の姿も多く見かける。
さて、この古都アンティグアにもBitcoinが使える店舗がいくつか存在する。具体的には、飲食店8店舗、ホテル7店舗、スーパーマーケット4店舗、その他2店舗の合計21店舗が対応しているとのこと。ホテルでの対応が多いのは少し驚きだ。
早速、滞在しているホテルの近くにあるカフェでBitcoin支払いを試してみることにした。
~ Alegria Café / Specialty Coffee Shop ~
伝統とモダンが融合したアートに彩られたおしゃれなカフェで、店内外にはBitcoin支払い可のマークは見当たらないものの、ステッカーボードにはBitcoin関連のシールがちらほら。きっと、ここを訪れたビットコイナーたちが残していったのだろう。
店員さんに確認すると、やはりBitcoinでの支払いは可能だという。安心してさっそく本場グアテマラのコーヒーを味わうことに。とはいえ、スペイン語が堪能ではない私。店員とのやり取りはフィーリングで進み、注文したつもりの一杯はダブルエスプレッソ——しかも朝9時の超空腹時に。
芳醇な香りと程よい酸味が効いた一杯は文句なしのクオリティだったが、空腹の胃には少しハードだったのか、胃に深刻なダメージを残した。
コーヒーを堪能したところで、いよいよBitcoinで会計をお願いした。しかし、Bitcoin決済はまだあまり利用されていないのか、カウンターにいた店員は操作方法がわからない様子。バックヤードに声をかけて、ようやく慣れた様子のベテラン店員が登場した。
店舗側のBitcoin決済のプロセスは以下の通りだ。
① タブレットでBitcoin決済用のQRコード生成ページにアクセス
② 請求金額を入力
③ QRコードを生成
④ 顧客がWalletでQRコードを読み取り支払
最終的には私のWallet of Satoshiで無事支払うことができたが、ひとつ問題があった。それは、QRコード生成ページへのアクセスに時間がかかったことだ。サーバー側の問題か通信環境のせいかは不明だが、2分以上かかり、スムーズな支払いとは言えなかった。(ちなみに、翌日も試してみたが、やはり同じ箇所で詰まった。)
実際の支払いの様子はこちら。(左端が見切れててすみません)
さて、ここからは少しテクニカルな話になるため、興味がない人は飛ばしてほしい。
Bitcoin決済を支えるシステム:IBEX PAY
このカフェで使われていたBitcoin決済システムは「IBEX PAY」だ。
IBEX PAYは、アメリカに本社を置くIBEX BITCOIN INVESTMENT CORP.(以下「IBEX」)が運営するLightning Network対応の決済ソリューションである。
IBEXは2018年にグアテマラでBitcoinのOTCデスクとしてスタートし、その後Lightning as a Serviceインフラプロバイダーとして注目を集めた。特にエルサルバドル政府との協力でChivo Walletを構築したことで、国際的な地位を確立したとされている。
IBEX PAYの仕組みと利便性
IBEX PAYのセットアップはシンプルだ。メールアドレスでアカウントを作成し、ビジネス情報やBitcoin on-chainアドレス、法定通貨の受取設定を完了すれば、あとはBPT(Bitcoin Payment Terminal)をデバイスに追加するだけで準備完了。
Bitcoin決済の流れは、BPTを立ち上げ、請求金額を入力し、QRコードを表示して顧客に支払いをしてもらうというもの。受取方法は、指定したBitcoinアドレスへの着金か、銀行口座への法定通貨換金を選べる。いずれの場合もクレジットカードより手数料が低いことをアピールしている。
セットアップの詳細は公式ページで確認できる。
また、IBEX PAYはAPIを提供しており、これを活用してPOSサービス「OSMO BUSINESS」を展開しているのがOSMO社だ。
OSMOとBitcoin決済の拡大
OSMOはグアテマラの起業家によって2022年に創業された会社で、暗号資産取引所として事業を開始し、現在は「OSMO Wallet」を主要プロダクトとして提供している。また、中米で影響力のある送金サービス会社AirPakと提携し、ユーザーが簡単にBitcoinを現金に換金できることも強みだ。IBEX PAYのAPIを活用することで、OSMO BUSINESSはオンチェーンでもLightning Networkでも決済対応が可能になった。
アンティグア滞在中、実際にOSMO BUSINESSを導入している店舗を目にすることがあり、着実に普及している印象を受けた。
アンティグアでは、前述のカフェ以外にもスーパーマーケットやレストラン、ホテルなどでBitcoin決済が可能な店舗があった。ただし、Bitcoin決済可のステッカーを掲示している店舗はほとんどなく、店員に「Bitcoin決済は可能だが、使い方がわからない」と言われるケースも少なくなかった。現状では、日常的にBitcoinが使われているとは言い難いのが実情だ。
とはいえ、グアテマラでのBitcoinの本丸は「ビットコインレイク」と呼ばれるパナハッチェルだ。アンティグアでの肩慣らしを経て、私は期待を胸にシャトルバスに乗り、次の目的地へと向かった。
<続く>
グアテマラ豆知識
青い鳥「ケツァル」:グアテマラの国鳥であるケツァルは、その美しさと神秘性から古代マヤ文明では神聖視されていた鳥であり、通貨の名前にもなっているほど。
爆竹文化:グアテマラでは、誕生日等のめでたい日には早朝に爆竹を鳴らす習慣がある。アンティグアに滞在中の早朝5時、ホテルのすぐ近くで爆竹が鳴り響いたときはギャングのカチコミがあったのかと肝を冷やした。
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