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スペインポップス回想 José el Francés愛の3部作

スペインロック・ポップ音楽事情(2)

まだinternetでチケットを買うなんてほとんどなかった頃(やっとホテルの予約ができるようになったくらいかな)、僕は2002年末からスペインに長期で滞在していた。セビジャ大学の客員研究員という肩書だったが、それはそれとして、とにかく行けるコンサートには行こうとあれこれ調べていたが、先ず2003年初めにTeatro de Maestranza(セビジャ)でJosé Mercéのコンサートがあるとわかり、まだ窓口でチケットを売る時代、朝早くからその劇場のチケット売り場に並んだのだった!さすがに人気アーティスト、あっという間に売り切れも、何とか手に入れて歓喜したのだった。さすがにこの時の映像は残っていないが、似たようなのを見つけたので、こんな感じのコンサートだったと想像して下さい。


それはそれとして、僕が在スペイン中に行きたかったアーティストは、Shakira(ちょうどツアー中だった)、Las Niñas、Estopa、La Oreja de van Gogh、Alejandro Sanzといったところに、José el Francésだった。このうちどれだけ(この他にもあるが)実現したのかは、追々別の雑文に書くとして、ここではJosé el Francésについて、個人的な思いも含め書いてみたいと思う。

PCは日本の自宅にgatewayのデスクトップパソコンをようやく1台持っていた程度の頃で、ノートを買って持って行くかどうか悩んだが、ネットカフェ(現地ではCibercaféと呼ばれていた)がアパート近くにあり、大学の図書館にもあるので、それで済ませることにしていた。そのため、コンサート情報はセビジャ大学の学生たちからや、Corte Inglésというデパートのチケット売り場を眺めに行くかくらいしかなかった。

ある日、そのチケット売り場で「José el Francés」の名前が僕の目に入ってきた。詳しく見ると、日付は3月下旬、場所はマドリードのSala Acualungとある(2006年からしばらく閉鎖されていたが、最近Teatro Goyaという名前で再開されたらしい)。とにかく行くしかない!値段は8ユーロちょっと!宿泊や往復の列車などはあとで考えるとして、即購入!

★値段の8ユーロ(1000円程度)は安いのではないかと思われるが、当時人気のShakiraのコンサート(会場が闘牛場のLas Ventasと規模はまったく違うが)でさえ、30ユーロしなかった程度だった覚えがある。(今はもっと高いが)

コンサートまでそんなに時間がないので、急いで宿泊予約とAVE(スペインの新幹線みたいなやつ)のチケットを購入。さて、そもそもAcualungはどこにあるのか?まあ、行って聞けば分かるだろうと思っていたら、これがあとでひやっとすることになった!!ホテルはよく使うSol(中心街)あたりに予約して、前日着いてホテルのフロントで尋ねてみると、今ならTeatro Goya Multiespacio Madridと呼ばれるところを地図で検索してみると分かるが、まあ、何とか分かる場所で、旧アトレティコ・デ・マドリードのスタジアムであったVicente Calderónの近くで、タクシー(地下鉄もあるが)で行って、帰りもタクシーか地下鉄でいいやと考えていたら、帰りに苦労することになるとは思ってもいなかった。

さて、開場は8時、開演は9時となっていたので、まあ、8時に着けばいいやと思い、7時半くらいにタクシーで行くと、すでに長い列を作っているではないか!ほぼ定刻通りに開場となり、中に入ると広いディスコのフロアーみたいなスペース(要するにスタンディング)と舞台に加え、端のほうでは軽食やアルコールなどの飲み物も売っているではないか!結構みんな一杯やりながら待っているので、僕も確かジントニックなんかを飲みながら、さりげなく舞台に一番近い最前列の場所を確保して待つ。開演予定の9時になっても、それらしい様子はない、9時半、10時、どうなっているんだろう!でも、他の観客は騒いだりする様子もなく、のんびり飲みながら待っているではないか。上に書いたJosé Mercéのコンサートはほぼ時間通りに始まったけど、スペインのコンサートってこんな感じなのだろうか!?待つこと10時をちょっと過ぎた頃になって、ようやく会場が暗くなり、舞台を照明が照らし始め、サポートメンバー数名(ギターや打楽器など)の椅子が並べられ、ついに始まった!来てよかった!僕の位置は本当に舞台正面の真ん前!日本人だと周りにも話していて、当時の彼のコンサートでは珍しかったのだろう、場所を気安く空けてくれた。約1時間半。実は手を振ってスペイン語で「guapo」と声をかけた僕に手を振ってくれて、アンコールにもきちんと応えてくれて、終わったらすでに12時ちょっと前。これからが大変だった!地下鉄の駅まで、歩いて20分くらいで、聞くと終電に間に合わないんじゃないかとのこと、では、仕方ないのでタクシーとなるが、これがなかなか来ない。ホテルから聞いていたテレタクシー(今のuberみたいなやつ)に公衆電話から電話をしても「しばらく配車できないので、待って欲しい」とのことで、途方に暮れていると、Acualung以外はほぼまわりは住宅街の中でタクシーが止まって、客を降ろしているのが見えるではないか!駆け寄って、Solまで行けるかと伝えると「いいよ」とのことで、胸を撫で下ろしたのであった。では、他の観客はどうしたのかと言うと、ほぼ全員クルマで来ているのであった。(酒気帯び運転もいただろうなあ!)

同じことがセビジャでもあった。よくBetisのサッカーの試合を見に行っていた。ベニト・ビジャマリン(当時は一時スタジアムの名前が変わっていてルイス・デ・ロペラ)スタジアムまで試合開始前にはバスでいくのだが(チケットも試合前の水曜日にスタジアムで購入する)、帰りは何もない!スペインの場合、試合開始が遅い場合は夜の9時からということもあり、その場合は、とくにないもない(いずれスペインサッカーの話しは別に書こうと思っている)。でも、上のコンサートのように、ほとんどの客がクルマで来ていて、クルマで帰っていく。では、駐車場はというと、これがないのである。全員路上駐車で、スペインでは基本駐車禁止がないので、みんな空いている路上に止めるのであった。下手をすると、路駐もかなり遠くなって、駐車した場所が遠くて、夜だと忘れて迷ったり、歩いて30分以上かかる場所しか空いていないということもあるようだ!試合が終わって(友人と一緒だったが)、タクシーが捕まらないときは、グアダルキビル川沿いをとぼとぼとプラサ・デ・クバというところまで1時間以上歩いたものだった!

さて、前置きが長くなったが、José el Francésは、先ほどのJosé Mercé(かなりフラメンコ的)や、他に僕の好きなのを中心に挙げれば、Pata Negra(グループ)、Ketama(グループ)、Rosarioなどと共に、またどのようにそういった音楽のジャンルを定義するかにも議論があるが、New Flamenco(Flamenco Pop、Flamenco Rockなどと下位区分される)と呼ばれるアーティストを代表する一人だった。このコンサートに先立つこと、1990年代のどこかで、あの頃はスペインのテレビ局TVEを日本でもスカパーで観ることができて(今はネットでダイレクトで観られる)、そこで彼が、大ヒット曲のYa no quiero tu querer(副題Fuera de mí)を歌っていた。
これはVevoで公開されているので、以下のURLを貼るが、Niña Pastoriという代表的なフラメンコの歌手(cantaora)とこれも有名なギタリストのVicente Amigoと共演しているという豪華なものである。

この曲に惹かれ、CDを買うことに。この曲が収載されているアルバムはAlmaとLas Calle de San Blas(どちらも今はSpotifyで聴くことができる)の二つあるが、お奨めは後者のほうである。僕は個人的に全てのCDをもっているが、最後のほうのRespirando el Amor(Corte Inglésの通販で購入)を日本で持っているのは滅多にいないだろうなあと思っている。さて、このLas Calles de San Blasに収載されている次の3曲が、僕が「愛の3部作」と呼んでいる秀逸な選曲だと思っている。
順番に挙げると、Me querrás、 Ya no quiero tu querer、Heridas de Amor。
スペインの男性有名アーティストが歌う「愛の歌」の3パターンがこれで尽きていると思う。

君は素晴らしい、君しか愛していない、他の女は目に入らない

君は他の男のものになってしまった(裏切った)、または僕の心は君から離れたから、もう君は僕の心から消えてしまった

でも、まだ君を愛している、君のことが忘れられない(未練たらたら)

もちろん、日本のポップスでも同じようなテーマは一杯あるのだが、スペインの場合は、この3つを異常に甘い言葉(というか歯の浮いたような表現)で歌うかで、女の子が思わず「あ~私だけなのね」とうっとりするような言葉を並べないといけないのである。僕なんかは聴いていて、背筋がぞっとすると言うか、過去にここまで言ったことのない僕には、ここまで言うかと新鮮な気持ちで聴いていた。

いろんな男性歌手がいるが、先ず最初のテーマの代表格はAndy y Lucasだろう!彼らの曲の中でもQuiero ser tu sueñoは極め付けで、こう言われたらスペインの女の子は胸キュンになるらしい!


2番目のテーマの代表は、本当にいろいろあるが、何と言ってもAlejandro SanzのCorazón partíoだろう!名曲で、このスペイン語の歌詞が分かれば上級者と言ってもよいかもしれない。あと、女性からShakiraのSi te vasもお奨めかな!


そして、最後のテーマはDavid de Mariaにとどめを刺すかな!?彼の歌うPrecisamente Ahoraは本当に未練たらたらの曲で、本当に涙が出そう(笑!)になる!!

もう1曲、EstopaがAna Belénと歌うYa no me acuerdoも名曲で歌詞も素晴らしいので挙げておこう!(歌詞も載っている)


あと、こういったテーマを女性の立場から歌っている1人者は、やはりAmaia MonteroでRosasやLa PlayaにParisをコンサートで一緒に歌っている女の子たちは本当に泣いていたりする!!


さて、これらのテーマを歌っているアーティストは数多ある中で、José el Francésが歌う3曲は、他の歌ともあいまって、このアルバム全体として、本当に至極の名作だと言っていいと思う。このアルバム全体で一つの愛のストーリーを奏でていて、とくにこの「愛の3部作」と共にアルバムとはこうやって構成するものだという見本みたいに思える。

Spotifyのアドレスを貼っておくので、アカウントを持っている人は、是非じっくりと聞いて欲しい。

さて、そんな素晴らしく、感動のコンサートを僕に与えてくれたJosé el Francésであるが、実はこのアルバムを出した後(今調べたらアルバムは1992年発売)のあと、麻薬売買でしばらく刑務所に入っていて、僕が行ったコンサートは出所祝いコンサートだったのだ!その後、2009年にアルバムを出したあとも、しばらく表に出てくることはなかったが、僕の知り得る情報では、交通事故偽装、元妻への暴力といったことで、しばらく干されていたようだが、2017年にHoy soy felizという久しぶりのアルバムを出して、ある意味まだ活動していたのかと驚かされた。これもSpotifyで聴けるのでURLを貼っておくが、Fuera de mí(上記Ya no quiero tu quererの副題)のremix版が収められていて、歌唱力は衰えていないかなと思っていた。


しかしながら、その後の動静はやはりはっきりしない中、ちょうど2018年秋に僕がマラガに講演に行った時には、このあたりにいて、ほそぼそと活動しているよと聞いたが、会いに(見に)行く機会はなかった。そして、昨年夏に元妻への暴力(虐待)で逮捕されるというニュースをネットで見ることになった。

次は本人の弁明(何もしていない)!


僕が90年代に一番好きな歌手数名の一人で、コンサートにも偶然行くことができた彼に何が起こっていたのかは分からないが、もし報道されていることが本当なら、それは許せないこと。それでもこの「愛の3部作」はいつまでも僕の心から消えないでいる。

(続く)

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