若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(7)
(※以下の翻訳は、「アンダンテ」誌の発行人・編集長セルハン・バリ氏の許可を得て掲載しています。また、質問に相当する部分は必要に応じ要約してあります)
――ジャン・チャクムルがコンセルヴァトワールで教育を受けていないこと、大学以前にトルコで正規の音楽教育を受けないままドイツに大学段階で音楽(ピアノ)教育を受けるために行ったことは、彼に関しこれまでしばしば強調されてきたテーマです。
チャクムルは、ドイツ留学後のキャリアをどのように形作っていきたいか、このように語ってくれました。
「ドイツに行くことは、まだ高校生だった頃、〈世界の舞台に立つ若き芸術家たち〉プログラムに組み入れられたのと同時に決断しました。私の先生であるディアネ・アンデルセンとギュヘル&スヘル・ペキネル姉妹の指導をもとに、どのコンセルヴァトワールのどの教授のクラスに行くべきかを一緒に決定しました。最初の2年間は必然的に環境に慣れることで過ぎていきました。新しい町に新しい生活スタイル、それに併せ音楽的な意味で多くの物事を変える必要がありました。2017年、つまり3年目に実質的に準備期間に入り、コンクールへの出場を決めました。スコットランド国際ピアノコンクールには1年をかけて準備しました。もともと私の目標は決してコンクールにはなく、ひとつのプログラムを1年を通して計画的に準備した場合、自分をどのレベルにまで持ってくることができるかを見てみることにありました。コンクールは、単に舞台に上がるチャンスを自分に与えるためだったのです。スコットランド国際ピアノコンクールの形式も、DVD選考ではかなり厳しく審査し、コンクールには少ない出場者を呼び、しかし呼ばれた出場者には1次ステージで2種類の長いリサイタルを弾かせるものであったため、自分の目的によく合致していました。ところがこのコンクールで1位を獲得したことで多くのことが変わりました。この賞のおかげで、去年の夏はヨーロッパ各国で10~15回のコンサートを開く機会がもてました。これは大変に貴重な経験です。舞台での演奏から教わることを、他のどんなものからも、どんな組織や先生からも教われないからです」
「この冬は学部課程を終えることを目標にしています。その後は続けて大学院に進みます。この段階で別のコンクールに出場することは私の計画にはありません。物事が自然な流れの中でどう進展していくのかを見てみたいのです。今後数年間は自分自身の成長にとっても、コンサートキャリアという点でも、重要な年になるという自覚があります。正しいタイミングで正しい選択を行うことには大きな重要性があるのです」
――ジャン・チャクムルのレッスン人生には、今日まで多くの優秀な先生が足跡を残していきました。個人レッスンの先生から始まったこのプロセスは、その後数年のうちに熟達した海外の先生方から定期的にレッスンを受けるまでに至りました。そして時が満ち、資質ある若きピアニストとして晴れてワイマールの有名なフランツ・リスト音楽大学の門をくぐることになったのです。
チャクムルは今日までレッスンを受けてきた、各々がまったく異なるエコール出身である先生がたについて、このような感想を述べています。
「これについては断言できますが、自分は本当にラッキーだと思います。たくさんの先生につきましたが、この多様性が私にとって大きな力になったと考えています。最初の先生はレイラ・ベケンスィルとアイシェ・カプタンでした。その次の6年間はエムレ・シェンのもとで練習し、意見を伺いたいと思っていた菅野潤とマルセラ・クルデリからも時々レッスンを受けました。現在はワイマールでグリゴリー・グルツマンから、そして2011年からはベルギーでディアネ・アンデルセンからも定期的にレッスンを受けています」
「とはいえ、たった今名前を挙げた先生がた以外にも、私が影響を受けた数多くの音楽家がいます。特に、私もそのメンバーである〈世界の舞台に立つ若き音楽家たち〉プロジェクトの推進者であり私のメンターをしてくださっているギュヘル&スヘル・ペキネル姉妹はその筆頭にくる名前です。私の周りの音楽家の方々からも、マスタークラスに参加した先生がたからも、あまりに多くのことを教わっていて… 私にとって指導者の選択というのは、音楽家の教育における最重要ポイントです。ただしこれに限らず、すべての人から、すべてのリソースから進んで知識を得ること、自分を絶えず問い質すための疑問を自覚していることも同じほど大切なのです」
「レッスンを受けた先生がた全員が、それぞれに異なるエコールの出身でした。異なるエコールを知ることは、現時点でいつでも用意が出来ていなければならないレパートリー全体を俯瞰するためには必要です。とりわけ面白くまた必要なことはというと、違う先生が同じ質問に対しいかに異なる解決法を見つけてくるかを観察すること、そしてそれについて考えることです。そのためとしてYouTubeは大変に貴重なリソースです。あそこでは自分たちの先生だけでなく、そのまた先生のマスタークラスや演奏を視聴することが可能だからです。このお陰でほぼ作曲家自身にまで遡ることが可能になるのです」