ツインレイ?の記録39
奥さんの体調不良で二週間以上帰国していたという彼から戻ってきたと連絡がきたのが8月10日。
私はその時あるプロジェクトに真剣に取り組んでいたし、「妻の体調不良で」って言葉に「また?」とちょっと思ってしまったのもあり、すぐ返事はしなかった。
たしか四月ぐらいにも彼は奥さんの体調不良で二週間ぐらい帰国している。
以前駐在員として派遣されていた彼の部下は奥さんが身重で上の子が小さくてもそんなに帰国してはいなかったから、本当によく帰る人だなと思ったけれど、それだけ奥さんや家庭が大事なんだろう。
私は11日にプロジェクトが終了したあと、そこから小旅行で、異国を南から北に移動、13日に帰ってきた。
その帰りの列車の中で、私は彼に今回のプロジェクト成功の報告を長々とメッセージに書いて送った。
旅行中、道でいきなり占い師のおばさんに声をかけられ、
「あんたは90まで生きるよ」とか
「次の再婚は絶対に幸せになるよ」とか
手相と人相を勝手に見られて言われた時の話も書き、自分がどれだけ疲れ知らずで元気かも書いた。
だけど、正直、毎回体調不良のたびに彼に帰国してもらえて甘えられる奥さんが羨ましかった。
でも自分は一人で生きてるし、彼には甘えられないし、元気で健康でよかったと心底思っている。
長距離移動で帰宅後、部屋で死んでいた小さい虫の大群の始末やスクーターのメンテナンスやらですぐにも寝れず、洗濯をしたり、なんだかんだで寝たのも遅かったけれど、私はやはり風邪一つ引かない。
そもそも風邪をひくのなんて何年かに一度で、彼に出会ったきっかけは私が発熱したことだったけど、それは相当珍しいのだ。
もともと彼は病人やら弱ってる人は放っておけない優しい人なんだろう。
でも私があんなにひどい体調不良になったのは本当に久しぶりのことで、今回も私は元気そのものだった。
ただ、朝起きても、一瞬どこにいるかもわからなくて、まだプロジェクトや旅が続いている気がして、二日ぐらいは頭がぼけてた。
プロジェクトを通して本来の自分を発揮しきれて、魂が活性化してたのかもしれない。
8月14日
翌朝の彼の返信も、そんな私のエネルギーを感じ取ってか、彼も少し嬉しそうだった。
「自分が楽しめたと思えたのであれば良かったと思います。
自分ができることをやり切った時は悔いが残らないので、ご自身にとって有意義な旅行になったんだろうなと感じました」
そのメッセージの後、私はもう連絡をしなかった。
自分からはもう連絡をしないと決めたのだ。
愛妻家で家庭第一の彼にとって自分のメッセージなんて煩わしいだけのものだろうと思ったし、これ以上好きでいてもつらいだけだし、どうにもならない。
きっと彼も私と連絡をとらないほうがほっとするにちがいない。
そう思っていた。
そしてそれから一週間。
日本から送った荷物が届いた。
食料品がほとんどで、中には彼に買ったお土産の羊羹もあった。
羊羹は私の大好物でもある。
いつもなら、お土産を口実に会えないか連絡をとるところだった。
でも私は連絡をしなかった。
だけどその翌朝、彼から連絡がきた。
8月22日
「夏休みを満喫されてるでしょうか? 明日の夕食に日本料理の店に行こうと思いますが、ご都合いかがでしょうか?」
タイミングがよすぎてびっくりした。
しかも私はこの時、前日に彼も行くスーパーである失態をやらかして、それが目撃されてたんじゃないかと心配していたところでもあったので、もしかしてそれで私を思い出した?なんて思ったりもした。
一応彼には、夕食は大丈夫だと返事した。
翌日は昼に予定はあったが、夜はちょうど空いていた。
そしてもしや私がやらかしたことをも目撃して思い出して連絡したのでは?とも直球で尋ねてみた。
「毎日仕事なのでスーパーには行ってませんが、何をやらかしたのですか笑」
その返事を見て、呼び出されて説教されてしまうのではないかと思った私はほっとした。
なんとなく、「笑」がつく分、いつもより業務的ではない。
そしてさらに言葉が続く。
「いつもの日本料理のお店でよろしいでしょうか?趣向を変えて洋食のお店を試してみても良いかなと思うのですが、いかがでしょう?」
彼は行ったことはないが評判もいいので気になっているというお店の情報を私に教えてきた。
私は翌日昼の予定が地元の高校生たちとのお寿司づくりだったので、日本食よりは別のお店もいい気もしたし、何より性格的にまだ知らないお店に行ってみたいというところがあるのでこう返信した。
「いいですね。私も行ったことないお店だし、一緒に開拓しましょう!」
この「開拓」という言葉が彼の心に響いたらしい。
「そうですね。開拓です! では18時にお店の前に集合しましょう。
明日はよろしくお願いします」
そして翌日、彼は時間よりも20分も早く到着したようで、先に中で待っているとの連絡。
私はタクシーに乗っていたが、あいにく道が混んでいて、なかなか到着しない。
18時までには着いたが、もう彼は待っているので、私はタクシーを降りるとすぐに走った。
お店に着くと、窓側に座る彼が見えた。
私は汗だくで彼の前に座った。
息も上がっていた。
こんなに走ったのは久しぶりだった。
つくづく自分は余裕ある大人の女の振る舞いができない。
彼を待たせてはいけないという気持ち以上に、一分でも一秒でも早く会いたくて必死に走り、その必死さを隠そうともしなかった。
久しぶりに会う彼は相変わらずで、帰国する直前に会ったのが7月9日だったから、一ケ月と二週間ぶりぐらいだったけど、緊張よりもなぜかホッとした。
そして嬉しさが隠し切れず、彼を見て、「お久しぶりです」と笑顔で言った。「今日は誘ってもらえてうれしいです!」とも。
彼は少し照れたように笑った。
注文を取る時、自分のやり方を通そうとする彼に、ああ、相変わらずだなと思いながらも、彼らしいなと思った。
それでも私の食べたい物を必ず確認してくれるし、きっとリードしたい気質なのかなと思いながらも、ちょっとした気遣いがうれしかった。
私たちはどちらも少食なので、そんなに多くは食べられない。
最初パスタを頼もうとした彼は、私がピザをシェアしましょうと言うと、パスタをやめてピザにしてくれた。サラダもソースも私に選ばせてくれた。
さらにはサラダを混ぜて取り分けてもくれた。
最初は私がやろうとしたけど、実は私はこういうことが苦手で、彼に任せると私より上手で、褒めるとピザまで取り分けてくれた。
「私、こういうのやれないんですよね」と私が言うと、
「やれないんじゃなくて、やらないんでしょ?」と彼は言う。
実際その通りで、やらなくても周りの女友だちがやってくれたりするし、基本的にそういうのをせっせとやるのは好きじゃない。
この日は私が接客は得意だけど接待ができないなんて話もした。
その違いについて彼が話すことに納得しながら、なんでこの人はこんなにも人のことがわかるのかなと思ったりもした。
そして私は夏にあったプロジェクトの話もした。
ほとんど私が話したようなところはあったけど、彼もそれに対して色々意見を言ってくれたり、会話が途切れることはなかった。
でも彼は接待というのは相手の話をいかに聞くかで、自分の考えを出してくるのは接待じゃないということも言っていたので、私は思わず彼に
「私、自分の話ばかりで、接待できてないですよね?」と聞いたが、
「今は接待じゃないでしょ」と彼が言ったのでホッとした。
本当は彼のことだって色々知りたいし聞きたかったけれど、夏休みどう過ごしたかって話で「そちらはどうでしたか?」なんて持っていこうとはしなかった。
きっと四月の時同様、体調不良の奥さんの代わりに子どもたちの面倒や家事をしていたんだろう。
或いは、子どもの夏休みにもともと一時帰国すると言っていたから、家族仲良く楽しく過ごしたのだろう。
それは当然のことで、別に敢えて聞いてまで確認する必要もないことだ。
だから必然的に私の話ばかりになる。
それでも私は彼に自分のいいところはどこだという思うかという質問をしている。
意外なことに彼は「ないですね」と即答。
「でも、部下の人たちから完璧な人って言われて評価高いじゃないですか」
と私が聞くと、
「そんなことないですよ。すべて並以下です」
と彼は言った。
謙遜というより、本当にそう思ってるような気がした。本当に意外だった。
でもその中でも彼が自分のいいところとして挙げたのは「前向きなところ」だった。
「え、心配性なのに前向きなんですか?」
と私は思わず言ってしまった。
だけど、確かにそうかなとも思える。
心配性で警戒心が強いわりに彼は行動力があるし、異国で言葉が通じなくても一人で知らないところに行けたりお店に入れたりもするし、日本食にこだわるわりには、新しい店など興味を示して行きたがる。
体調不良なのに休めず連続勤務の時には最終日には達成感すら感じた!と言っていた。
逆に私は明るいわりにはネガティブだし、変なところで気が小さかったり脆い面もある。それは彼もよくわかっていて「自分を強く見せようとしているだけですよね」と以前言われたこともある。
彼の心配性と私のネガティブが重なるとどうしようもないが、この日は、私も久しぶりに会えてうれしさ前回だったし、なぜか彼も明るくて、まるで出会ったばかりの時、マックで四時間おしゃべりしたときみたいに会話が止まらなかった。
彼はとにかくよく笑う。
私が笑わせようとして話してない時まで本当におかしそうに笑う。
たとえば、私が夏休み東京でのプロジェクトメンバーの会食で孤立していたたまれなくなってその場から逃げた時の話。
「とりあえず、おなか痛いって言って帰ったんですけど……」と私が言うと
「いや、黙って帰ればいいだけじゃないんですか」と彼が笑う。
「だって、何か言わなきゃ悪いかなと思って」と私が言うと
「それ逆に周りに引き止めてもらいたいって態度にもみえる」と彼が言い、
「いや、引き止められる間もなく高速で帰ったんで」と私が言うと
彼は体を反り返らせるぐらいの反応で大笑いする。
(え、そんなおかしなこと言ってる?)
と私は思ったけれど、そもそも仮病で相手の気を引いて引き止めるなんてわけわからないし、逆によく思いつくなと思った。
「私の信念として、ごはんは一緒に食べたい人としか食べないし、その場に一秒でもいたくないからすぐ帰ったんです」
その翌日の会食も出なかったから、私はプロジェクトのスタッフから外されそうになったのだ。
「信念っていうか、当たり前ですよね」
彼はそう言ったが、これも今書いてて気づいたけど、じゃあ、彼も私をごはんに誘うのは、一緒に食べたいと少しは思ってくれてるからだろうかなんて思ってしまう。
「結局、その歓迎されてないプロジェクトに参加するかどうしようか直前まで迷ったけど、でも参加しないで後悔するより参加して後悔したかったんです!」
「そこは参加してよかったと思いますよ」
彼はそう言ってくれた。
実際、私は参加したことで、汚名返上し自分を発揮して大成功を収めたのだ。それも彼に報告した。
「だから褒めてください」
そう言ったけど、そう言われたら褒めないのも知っている。
だけど、彼は十分私を評価してくれていると思う。
実は私が自分の好きな人に対してこう思えるのはかなり珍しい。
インナーチャイルドを抱える私は、毎回毎回それはもう十代の頃からいつもいつも、付き合う人はどこか私をバカにしているという思い込みがあった。
今も思い出すのは、四年付き合って、私をとても大切にしてくれた彼氏にさえ思っていたことえ、私から別れを切り出した時、年上だった彼は初めて涙を見せ、そして私に「俺、バカにしたことなんて一度もなかったよ」と言ったことだ。
今なら、実際そうだったんだろうと思える。
思えば私の結婚の失敗も結果はDVだとしても、きっかけは私のこの思い込みが発端だった気もする。
私は自分が好きになる人は自分を蔑ろにする、もしかくはその傾向のある人ばかり好きになった。
だけど彼に対しては、たとえ目の前で大笑いされてても、口では「感じ悪い」と言っても、からかわれてるとは思っても馬鹿にしてるとは思わなかったし、むしろ評価してくれていると思えるのだ。
これもインナーチャイルドワークの効果が少し出てきてるからだろうか。
それとも彼は特別なのか。
そもそもインナーチャイルドと真剣に本腰入れて向き合うきっかけも彼だ。
彼に会ってから閉じ込めていたインナーチャイルドが強烈に表に出てきたし、既婚者である彼に何もかもぶつけるわけにはいかないし、自分が自分の相手をするしかないという状況になったのだ。
この日、私は彼にこの国とは別の国の大学の面接に再び挑むことになったことを伝えた。
これも「やるだけやってない」という後悔があるからだ。
それと同時に彼に憧れの国への再挑戦を迷っていた時、今は前ほどの執着がないというのを伝えた時の彼の返事も私を動かした。
「最初は行きたいと思っていたのに改めて考えるとそうでもなかっということはありますよね」
その言葉に私は反発を覚えた。
そもそも彼にも伝えてあるが、私はその国と彼を重ねていた。
理由はわからないが何となく魂が惹かれること、そしてなぜ強く惹かれたかは調べれば調べるほど、知れば知るほど理由は後からついてきて、自分の直感に間違いはないと思えたからだ。
彼に対して、なんかいいと思ったけどよくよく考えたらそうではなかったなんて思ったことなど一度もないし、そんな中途半端な気持ちで惹かれてしまったわけじゃない。それを証明したいというわけでもないが、私を動かしたのは確かだ。
そして来月の面接を前に、彼に面接のアドバイスを頼んだ。
「これまでチャット履歴あります? 私五月以前の間違って消しちゃってないんですよ。面接の時のアドバイス、送ってもらえますか?」
なんなら模擬面接してほしいと言ったけれど、自分は教育の専門家じゃないからと言って彼は断る。
でもチャット履歴の確認と再送に関しては快く「いいですよ」と言ってくれた。彼が私とのチャット履歴を消していないのは意外だった。
たとえ彼にやましいところは一つもなくても、誤解されかれかねないやりとりの痕跡などいちいち消すぐらいの慎重さと警戒心が彼にはあると思ったのに。
そもそも警戒心があるなら、この日も食事に誘わなかったかもしれない。
帰国直前私は彼に「大好きです」と言っているのだ。
それでも自分から声をかけて会ってくれるのだから、完全に相手にされてないか、それとも何も感じていないか、あくまで最初の約束通り、この異国にいる間だけはお互い仲良くしましょうということなのか……。
だけどこの日は少なからず、私は彼の好意を感じていた。
まあ、いつも女としてよりは、人として、友だちとして、好かれることが多い私だ。
彼もいっしょに二人で食事を楽しみたいと思える程度には私に好意はあるんだろう。
食事中はずっとお互い目を見て話をしているし、話題は尽きない。
ただ、途中、携帯に連絡が入って、彼は目の前で返信していたし、それは家族かもしれない。
いつも二時間きっちりで帰ろうとする彼は、この日も二時間半で「そろそろ行きましょう」と言って、私たちは店を出た。
そして帰る途中、私はエスカレーターを降りながら、急に彼にお土産があったことを思い出した。
それで彼もまたお土産を思い出したようで私に渡した。
お互い帰国していたので、日本のお土産だ。
彼が私にくれたものの中には透明リップがあった。
そういうものは彼氏にもプレゼントされたことがないので、何か特別な意味を感じてしまった。
あと、彼がくれたお菓子の箱が私の好みにぴったりでそれもとてもうれしかった。
タクシーで帰る時、私はもう一度、模擬面接をしてくれないかと頼んだが、やはりそこは適当に安請け合いをしたくないという彼の生真面目な性格のせいか、専門じゃないからと断られた。
その前に私は日本から荷物が届いたばかりなので食材もたくさんあるし、色んなものが作れるから、今日のお礼に家にご飯を食べに来てほしいと言った。
二人きりになるのは避けたいのだろうから、「一人じゃないよ」とも言ったけど、それでも彼は黙り込んだ。
そしてタクシーが来た時、「じゃ、また来週」と言って、私はタクシーに乗り込んだ。
タクシーの窓が黒くなっていて、外から中は見えないが、中から彼の様子は見えた。
道路に佇む彼は、めずらしく、私が乗ったタクシーを見つめていた。
その顔はなぜか悲しそうにも寂しそうにも見えた。
窓ガラスが暗いからかもしれない。
家に帰って、私はすぐに「今日はごちそうさまでした」とメッセージを送った。
彼は返信でめずらしく「おみやげありがとうございます!後で食べますね!」と「!」を二回もつけてきた。
さらには前回面接指導してくれたチャットを送ってほしいと言ったことを覚えていてくれて、まとめて送ってくれた。
「とりあえずチャット履歴を送ります!まずは前回の復習が大事です!」
別に「!」をつけるのは特に意味もないことだけど、いつも業務連絡の彼としては珍しい。
「ありがとうございます!しっかり復習します」
そう返事して、この日は終わった。
実は、彼との別れ際から私はずっと頭痛がしていて、家に帰るとそれはさらにひどくなった。
私は頭痛持ちではないのでこれは少し珍しい。
更には最近なかった左耳の耳鳴りがした。
これは少し強めで音が低くはないけど大きかった。
私が彼がツインレイなのかどうなのかと考えるのもこういうことで、頭痛はチャクラの活性化、左の耳鳴りはツインレイとのエネルギー交換みたいな情報を知ったからだ。
この日はもうすぐ横になって、気づけば朝になっていた。
顔も洗っていないし、シャワーも浴びてない。
だけど寝たせいか頭痛は治ったし、わりとすっきりしていた。
一体なんだったんだろう……。
ただ、もしかしたら、この日私と彼の距離は前より少し近づいたのかもしれない。
それが証拠にこの二日後、また彼から連絡がくることになる。