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ツインレイ?の記録38

7月11日

勤務している異国の大学が夏休みに入り、私は日本に帰国した。
帰国中には彼にも連絡はしないつもりでいた。
彼には謎の自分ルールがあるが、彼も帰国している時は私には一切連絡をしない。返事もしない。だから私もそうしようと思ったが、帰国して早々、父の家がカビ臭くて耐えられず、塩素での対応に関して仕事柄詳しい彼に連絡してしまった。

彼はすぐに返事をくれた。
お問い合わせありがとうございます的な事務的な感じだったが、それでも丁寧に対応してくれた。

そこで返事がきたからというのもあるが、私は思った以上に日本に帰国しても彼のことが頭から離れずに、何かと思い出してはくだらないメッセージを送っていた。

彼も短いながらも返事をくれた。

私から彼へのメッセージは長いが、それ以上に私はいつも彼に話しかけていた。帰国して忘れるどころか、決してそんなことはなかった。

彼は遅くても翌日には必ず返事をくれたし、天気のことなども付け加えて書いてくれた。

私は夏休み、日本の某大学の先生に頼まれて、私が住んでいる国の某大学(私の勤務する大学ではない)のプロジェクトにスタッフとして参加することになっていた。このことは彼も知っている。

そのスタッフとして自分がしていることなども彼に報告していた。

それに対して、彼がめずらしく長い返事をくれた。
それは私を諫めるものだった。

私は調子に乗ったり、つまらないことで怒りだすと、本来の目的を見失いがちだ。それを感じ取ったのか、彼からのメッセージには「本来の目的を見失わず、プロジェクトを成功させてください」という言葉が書かれていた。

昔私は尊敬していたある女性に、

「あなたにぴったり合うのは、普段はあなたを放牧して自由にさせておくけれど、いざというとき危ない柵を超えそうになった時だけ呼び戻してくれるような人だ」

と言われたことがある。

そんな男の人なんていないと思っていたけれど、彼がまさにそういう人だった。

ふだんのメッセージはそっけなかったり、すぐに返事をしないこともあるが、私に必要と思われる時には、返事は早いし長文だ。

この時の言葉は、その後、プロジェクト本番にも役立つことになる。

それに対してお礼を伝えたのは7月21日、でもここから彼の返事は途絶える。

7月23日

誕生日、私は彼が愛読している漫画を全巻制覇すべく漫画喫茶にいた。

この半年前に私は彼と初めて出会った。

彼の愛読している漫画は私も途中まで読んだことはあったが、内容はほとんど忘れていた。

でもこの時、漫画の中には私に必要なメッセージがたくさんあったし、この漫画が好きだという彼はやはり根本的なベースの部分で私と似ていると思えた。

それと同時に、この漫画にあるような生き方を彼は本当はしたいのではないかと思えた。

ただ、主人公の生き方は、家族のために生きている彼とは真逆で、一人で旅を続けながら自分自身ととことん向き合っていくというものだった。

だけど、真逆と思いながらも、何となく彼にも重なる部分があって、家族を守るために必死に働いている彼も、孤独に闘い続ける主人公に近いように思えた。

きっと辛くても苦しくても、彼は弱音を吐かないし、今自分にできることをとことんやりぬこうとする人だろう。

漫画を読んで、思うことがたくさんあり、私はメッセージを長々と書いたが、彼からは何の返事もない。

私が誕生日だということも伝えたが、それに対しても何もなく、足の怪我をした時と同じだと思った。

大して親しくない人でも、相手が足を怪我したとか誕生日だと言ってれば、お大事にとかおめでとうぐらいは伝えてくる。

それをしなかったのは、私の父と彼だけだ。

結局それから二週間以上彼からの連絡はなかった。

それでも私の中には常に彼がいて、彼のアドバイスを常に念頭に置き、プロジェクトを成功させた。

さらにはこの期間、再チャレンジしたコスタリカの大学の一次選考も再び通過したこともわかった。

だけど、そのことを彼に伝えることもなく、私から再度連絡をすることもなかった。

最後のメッセージから連絡がきたのは、プロジェクトの最終日だった。

8月10日

「妻の体調不良で二週間以上、日本に一時帰国していました」

突然彼から連絡が来た。

最後にメッセージを送った私の誕生日ぐらいに奥さんが体調不良で日本に帰国したのだろう。

やはり彼は日本に帰国している間は、私に返事をしないと決めているようだ。

おそらく私は彼にとって、異国においてだけ連絡をとる可能性がある存在なのだろう。数少ない日本人同士、何かあった時には助け合おうという最初の約束を守ろうとしているのかもしれない。
だから彼が日本にいる時には、私と連絡をとる必要はないという判断なのだろう。

それにしても、奥さんはよく体調不良になるし、彼も駐在員として派遣されているのによく帰国していると感じる。

子どもは三人もいるし、夫婦共働きで、完全に二人三脚で成り立つ生活のベースがあるのだろう。
その負担がすべて奥さんにかかってしまっていてたいへんな状況だというのは理解できる。そして、それを何とか助けるために彼は帰国を選ぶのだ。

仕事より家庭、なんという愛妻家で良き夫、良き父親で家庭人なのだろう。

私の中のインナーチャイルドがまた暴れ狂い始めた。

一応私は今回のプロジェクトの成功報告をしたし、自分が行きたい別の国の大学の一次選考再合格についても彼に伝えた。

「自分ができることをやり切った時は悔いが残らないので、有意義な旅行になったんだろうなと感じました」

そんな彼の返事で、彼が今回の私の報告を喜んでくれているのを感じた。
でも面接のことには触れていなかった。
前はあんなにもアドバイスをくれたのに。
でも私が不合格だった時、彼は自分が余計なことをしたからかもしれないと落ち込んでもいたので、今回は関わらないようにしようと思ったのかもしれない。彼は心配性で繊細な人なのだ。

彼の返事に対して、私はもう返事をしていない。

もう私からは連絡しないし、会おうとしないと決めていた。

いちいち「妻の体調不良で帰国した」とか聞きたくもないし、何より私のインナーチャイルドがまた暴れ始めている。ケアが必要だ。

いっそ出会わなきゃよかったとさえ思ったりもする。

何がツインレイだ。胡散臭い。もうツインレイ情報もいらない。

最初、彼が私に毎日連絡をくれたのも、積極的に誘ってくれたのも、別にツインレイだったからではなく、彼は誰にでもそういう人なんじゃないか。

おみやげだって別に私にだけ特別というわけじゃない。
「白い恋人」もパックも日焼け止めも白を連想するようなものもたまたまだ。

自分はそんな気ないのに私に惚れられて慌てて距離を取ろうとして、それでも人のよさから突き放しきれず、連絡を返していただけだ。

私が彼を好きになったのは、会ったこともない私が発熱したところに助けに来てくれて優しくしてくれたからじゃない。
そこまでしてくれる人がいるなんて!と彼を特別に感じたからじゃない。
なぜなら私も他人に対してそこまでする人間だからだ。

私が嬉しかったのは、自分と同じように人を助けようとする男の人に出会えたということだ。たぶん私が最初に魂が共鳴したのはそこなのだ。

そして彼が私に与えてくれた温かい毛布と白いごはんは、私のインナーチャイルドの孤独と飢餓を癒した。

そこから、私自身がインナーチャイルドと真剣に向き合う機会を与えてくれた。

家庭や家族は私にとっては鬼門。
結婚も子どもを持つことも失敗した私にとって、家庭人として生きる彼はまぶしかったし羨ましかった。

それと同時に、彼の背負っている責任の重さと不自由さも感じた。

私はよく彼と父を重ねもした。

私のためと言いながら、自分の人生を放棄して、いまやセルフネグレクトにも近い生活を送っている父のことが嫌だった。

だけど、それも父の人生の選択で、この夏休み、私は父なりの愛情を少し感じ取ることができた。

親だって完璧ではない。

彼の生き方を尊重することは、父の人生を尊重することに繋がることにもなった。

正直、今もまだインナーチャイルドは暴れている。
彼の愛情が自分に向けられないこと、なぜ自分が愛してほしい人が自分を見てくれないのかという孤独な叫び。
母親からネグレクトされていた私のインナーチャイルドは、
無視しないで!蔑ろにしないで!私を見て!と叫んでいる。

だけど、彼は既婚者で、彼に求めてはいけないのだ。

だからこそ、私は私自身で内なる子供にずっと寄り添っていこうと決めた。

インナーチャイルドが暴れるなら、その声をしっかり聞いてあげよう。
愛がほしいというのなら、大人になった今の私がとことん愛してあげよう。

だって、彼はそうやって私を愛してはくれないから。
私には自分しかいないのだ。

それはものすごく孤独を感じさせる面もあるけれど、仕方ない、もう仕方ない。

もしも彼が既婚者じゃなければ、私はもっとどっぷり彼に甘えて、そしてもともと人に対して愛情深く面倒見もいい彼は、私を依存させたかもしれない。

その点では、彼が既婚者であること、そしてまだ親の保護が必要な年齢の子どもがいたことは良かったのだ。

それは何より私の抑制力となったから。

だけど、正直辛い。
本当になんで出会ったのか。
出会ってよかったこともたくさんある。
だけど辛い。

今、私は外国人の友人男性から毎日のように連絡がきている。
私が困難な状況にいる彼を助けたこともあり、彼の中で私の存在が前より大きくなっている。

正直、今の自分が彼に重なってつらい。

自分は誰に対しても、困った人はできる限り助けようとするし、その人だから特別にするということはない。
もちろん友だちだから助けるというのはあるが、たとえ昨日今日会った人でも、何かできることがあれば、とことんやるほうだ。

それはきっと彼も同じ。

それなのに相手に特別な感情を抱かれてしまうと困ってしまう。
自分はそんなつもりはないのにと思ってしまう。
そしてどんどん高まる相手の熱量に引いてしまう。
長文でくるメッセージも正直うっとうしくなってしまう。

それでもその相手がそもそもいい人で、友人としては付き合いたいと思える人ならば、短いながらも返事は怠らないようにする。

今私がしていることは、彼が私にしてきたことなんじゃないだろうか。

そう考えると辛くなる。

二人きりで特別なデートはしようとは思わないが、相手が帰国直前とか、何か特別な事情があるならば、会って食事ぐらいはしようと私だって思う。

なるべく人に対して誠実でいたい。
私も彼もその根本は同じなんじゃないだろうか。

『恋愛感情関係なく普通に付き合いたいと思う。
二人きりで関係を深めるより、二人以上で楽しく過ごしたい。
会話は楽しいので余計な感情は持たないでほしい』

今私が外国人の友人に対して思っているこれらのことが、彼が私に思っていることだとしたら?

いたたまれない。

自己嫌悪でつらい。

だからもう私からは連絡がとれない。

これ以上迷惑をかけたくないし、自分にできることはもう関わらないようにすることだけなんじゃないかとすら思う。

そうして時間が経てば私のことなど忘れるだろう。

何がツインレイだ。

なぜ出会ったんだろう。
出会ってごめんなさい。
迷惑かけてごめんなさい。

それでも私はたくさん彼に救われた。
だけど私にとっては感謝できるこの出会いも、彼にとっては迷惑でしかない。

だから私はツインレイって思いたかったんだろうか。

シンクロニシティなんて起きないし、彼の誕生日ナンバーだって見ない。

偶然同じ場所で会うなんてこともなかったし、夢にもそんなに出てこない。

一時は多かった耳鳴りだってもうない。

何より私の気持ちが急速に引いてきた。
好きじゃなくなったということじゃなく、もう必死に会おうとも思えなくなったということだ。

あんなにも会いたくて、どうしたら会えるかとそればかり考えていたのに。

少しでも繋がっていたくて、メッセージを送り続けたのに。

結局私は一人だ。

ツインレイなんて情報も知らなきゃよかった。

そんなものもう信じない。

偽ツインレイだったとして、それは本物に出会える前に必要なものだという情報も何だか都合がいいし、もうそうも思えない。

夏休み、出会いは多かったし、私に好意を寄せてくれる人もいる。

それでも私はいつもいつも自分のことを好きにならない人ばかり好きになっている。

これもインナーチャイルドの問題なんだろうか。

じゃあ、そこを癒せば、愛する人に愛されて共に生きられるのだろうか。

そもそもそれを本当に望んでいるんだろうか。

そんな未来が浮かばない。

ツインレイと出会ったら、相手との未来のビジョンが一気に浮かぶというのも聞いたことがある。

でも彼と一緒の未来なんて見えない。
誰と一緒の未来も見えない。

つまり私にツインレイなんていないんじゃないだろうか。

いや、ツインレイという概念そのものが実は単なるご都合主義の勘違いなんじゃないだろうか。

私は魂の繋がりや魂の家族は信じているし、実際、男女問わず、年齢問わず、国問わず、たくさん出会っているし、今も絆を保っている人も多い。

彼だって、ツインレイかどうかはわからないけど、魂の関わりの深い一人だという確信はある。
だけどその中でもたった一人特別だという感じが私にはわからない。

私は彼が特別だと感じたけれど、彼はそう思っていないと感じるし、だったらそれは私の勝手な思い込みじゃないか。

彼との出会いからここまで、彼はツインレイなのか、それとも偽ツインレイなのか、わからないまま書いてきたが、結局今の自分はツインレイなんてそもそも自分にはいないんじゃないかと思い始めている。

急にどうでもよくなってきた。

何だか虚しい。

彼にも会いたくない。

もうこれ以上、彼に何とも思われていないと思い知るのが嫌だ。

忘れたい。
それ以上に、簡単に忘れられてしまうのもつらい。

彼にとって私は特別な存在だって思いたかった。
ツインレイだって思いたかった。

だけどもうそうは思えない。

何のサインもない。

連絡もこない。

それがすべて。

自分の思い込みが恥ずかしい。

虚しい、情けない、やるせない……。

出会わなきゃよかった。
ツインレイなんてものを知らなきゃよかった。
本物とか偽とかどうでもいい。

愛した人に愛されない。
冷たくされる。
距離を置かれる。

それだけが事実。

もうどうでもいい。

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