【新日本プロレス】1997年 この一年は間違いなく歴史に残る
1997年の新日本プロレスは、大きな転換期を迎えます。
具体的には
・小川直也デビューをきっかけとする格闘路線
・nWoジャパンによるアメリカンプロレス路線
この2つを同時に走らせることになります。
おそらく、それぞれ違う人の思惑のバランスを取った結果こうなったんだと思いますが、それぞれどちらの路線も盛り上がりつつ両者陣営が牽制しあっている様子がそれとなく伝わり続けているのが、この年の特徴と言えるかもしれません。
まだまだそんな匂いのしなかった1.4から始まりです。
①97'wrestlingworld in 闘強導夢
これまた、全試合語りどころのある良い興行でした。
・オープニングマッチは永田裕志の海外遠征壮行試合。壮行試合を東京ドームで行う、というのも期待のあらわれか
・怪我で欠場していた金本浩二の復帰戦(正確には96年末には復帰してたような…)。対戦相手には、やたらライオンの匂いがする金髪の『スーパーライガー』でした。初登場だし、どんな技使うかも想像付かないし、どう盛り上がっていいかわからないままスーパーライガーが勝利。そしてスーパーライガーはどうやら東京ドームの風になったらしく、以降のシリーズからクリス・ジェリコが参戦することに 笑
・新崎人生と対戦予定だった越中詩郎がアキレス腱断裂で欠場し、代役に小原道由が出場。人生に対抗するような修行僧スタイルで登場。後々までこの試合の影響を受けるキャラ付けになった
・新日本対大日本シングル4連戦は、新日本が3勝1敗で勝ち越し。後にアメリカで大活躍するTAJIRIの出世試合となる大谷戦や、中牧の有刺鉄線受身。マサさん無双など、それなりに見せ場のある展開ではありました。
試合後、解説席に戻ってきたマサさんを称賛する意味で「お疲れ様、というほど疲れてもいないんじゃないですか?」という辻アナウンサーに「疲れてますよ、試合したんだから」と怒ってるマサさんがかわいかったです。
・ライガー待望の8冠挑戦は、前年のトーナメント1回戦負けの悪夢を見させられたウルティモ・ドラゴンへの挑戦。途中、マヒストラルで悪夢の再現となりそうな場面もありましたが、ライガーが秘密兵器のSSDで王座奪還。IWGPを新日本に取り戻しました。
・IWGPタッグ選手権は「おいジジイども、10年遅えんだオラ!」と挑発されていた藤波・木村の初代王者コンビが挑戦。袴を脱ぎ捨て黒のショートタイツとなった木村の頑張りもあってなんと蝶天タッグからベルト奪取!
・ムタvsパワーの”二重人格対決”では、ムタの悪魔殺法を耐え抜いたパワーが、衝撃のノーザンライトボムon the tableで逆転勝利。試合中、フランケンシュタイナーやムーンサルトプレスなどに使われるも全く壊れない机が、この試合で一番強かったかもしれません
・メインは橋本vs長州の頂上決戦。当時から思ってましたが、いま見返すと本当にこれといった技はなく、とにかく蹴りとチョップとラリアット。それでも観客の声援は止まず。本当に、当時のプロレスのいい部分というか、気迫で見せる試合だったように思えます。最後は橋本が垂直落下式DDTで勝利。 試合後、長州は「マスコミの皆さんが期待しているような言葉は、今の俺からはでないですよ」と、暗に囁かれていた引退説を否定。否定してたのに…
また、橋本はこの試合の勝利から定番テーマ曲の「爆勝宣言」から新テーマ曲に変更。その名も「闘魂伝承」。橋本の、今後のプロレス生活への覚悟が現れてますね。
曲自体は、前曲のイメージが強いのであまりいい声は聞かれませんでしたが、それは曲変更あるあるでもありますので、時期に慣れていくだろう・・・と思われてましたが、後に意外な形でテーマ曲が再度変更となります。それはまた次回。
②ついに黒船来襲!!プロレス界から環状線の外側へ飛び出る社会現象に。 FIGHTING SPIRIT’97
2月の冬の札幌で、ついに黒船nWoがやってきます。
1月に単身WCWに乗り込んだ蝶野が、ホーガンと交渉しnWo日本支部を作ることに了承を得るという大仕事を終えて帰ってきたのです。
この時点では『nWoジャパン』として、スコット・ノートンとマーカス・バグウェルが派遣。
恐らくこの頃から、蝶野のトレードマークである「入場時のサングラス」が定着したと思われます。とにかく、ただふてぶてしかった蝶野が、この頃からどんどんスタイリッシュになっていくのが興味深い。
このシリーズで、nWoが連戦連勝。健介、武藤、橋本らが次々を敗れていきました。
このnWoの勢いは、プロレス界を超えて世間を巻き込みます。
プロレス会場では連日nWoのTシャツが売り切れ。
一般のアパレルショップにまでnWoのTシャツが販売されるような社会現象を産みました。
③ もう一隻の黒船は環状線の外からやってきた。 97’Battle Formation
いわゆる「4月ドーム」です。
いまは信じられませんが、当時の新日本は1月、4月、10月の年3回の東京ドーム大会が通例でした。
※確か96年は野球のスケジュールと重なって10月ができなかったはず。。。
メイン級の試合でとんでもないことが起きているのでごまかされていますが、実はこの時点でドームのカード編成に対する苦悩がうかがえます。
■第1試合 BATTLE OF BEAST
天山広吉vs中西学
■第2試合 ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア特別編
エル・サムライvs大谷晋二郎
■第3試合 WCW特別試合
ワイルド・ペガサスvsケビンサリバン
■第4試合 パワー&サブミッション
山崎、木戸vs平田、小島
■第5試合 平成維震軍対石川一家大将戦
越中詩郎vs石川敬士
■第6試合 ジュニア8冠統一選手権試合
(王者)獣神サンダーライガーvsザ・グレート・サスケ(挑戦者)
■第7試合 イノキファイナル・カウントダウン7
アントニオ猪木vsタイガーキング
■第8試合 THE WORLD OF DARKMEN
グレート・ムタvs蝶野正洋
■第9試合 IWGPタッグ選手権試合
(王者組)藤波、木村vs長州、健介(挑戦者組)
■第10試合 異種格闘技戦
橋本真也vs小川直也
明らかに、前半5試合のテーマが希薄。
以後の1.4以外のドーム大会は、この傾向が顕著になってきます。
(ただ、この年は後述の長州引退もあり、この状態でも全国ドームツアーでチケットを売りまくってるので『目玉カード』の存在は本当に大きいな、と思います)
この大会では、三銃士の中で誰のファンだったのかで覚えている印象が大きく違うのではないでしょうか。
この大会で起きた大事件は2つ
①グレート・ムタが、試合後に蝶野と握手!
②橋本が小川に負ける!
いや、世間を巻き込む大事件はもちろん②なんですが、①に関しても当時の新日本プロレスファンにとって「アメリカ発のヒールユニットに、ムタがどう絡んでいくのか」はなかなかの関心事でしたので、ここで一気に「nWoムタの誕生!?」という機運が高まります。
しかし、ムタは武藤の化身。日本では年に数回しか試合をしないので、仮にムタがnWo入りしたとして、武藤は本体のままなのでは?それともムタの道連れで武藤もnWo入り? など様々な憶測を産みました。しかしとにかくnWoジャパンの『蝶野外交』は大きな全身をみせたのでした。
そしてメインの異種格闘技戦。もちろん、小川は柔道世界選手権優勝&オリンピック銀メダリストですから話題性も期待度も非常に高かったのは間違いありません。
しかし、戦前橋本が負けることまで想像できていた人は、恐らくファンの中ではほとんどいなかったのではないでしょうか。
まして、変形の大外刈り(のちのSTO)からのスリーパーホールドという完璧な形での勝利。
元々、この試合が決まるに当たって、猪木、佐山、坂口と英才教育で小川の育成に当たっていると報じられており、橋本はそれに露骨な不快感を示していました。
「新日本の人間が、こぞって新日本の侵略者を育ててるのはおかしい」
という言い分でしたが、この時点で小川は「猪木預かり」として新日本を主戦場にすることが表明されていました。この時点では恐らく、小川に新日本の看板を背負わせてバーリートゥードに進出する青写真もあったのでしょう。
なので、猪木たちからするとこれもまた「新日本を守る」ための選択だったのだとおもいますが…
橋本からすると「闘魂伝承」を掲げた直後ですし、お父さんが弟にばかり目をかけて自分にかまってくれない…というヤキモチに近い感情だったように感じます。
そして橋本はこの先のプロレス人生すべてをこの「弟」に狂わされることになります。
さて、小川のデビュー戦ですが、試合は橋本が得意の打撃で圧倒します。
実際、橋本が打・投・極で小川に勝てるのは打撃だけだったでしょうし、いきなり打撃を打ちまくったのはいい判断だったと思います。
橋本のローキックで、130kg近く小川が下半身丸ごと持っていかれたり、袈裟斬りチョップでなぎ倒されたりする様を見て、改めて橋本の打撃の怖さを感じさせました。
しかし、勝負は一瞬。
少し色気が出てしまったのか、倒れる小川を引きずり起こしてDDTの体制に入った橋本に対して、一瞬で首を抜いた小川が一気に大外刈り!そのままスリーパーホールドがきまると服部レフェリーがあっという間にレフェリーストップを決める。
あの時の空気感はなんとも形容し難いですが…少なくともいま、プロレスラーが誰かに負けるのとは意味合いが大きく異なります。
次の日のスポーツ新聞では一面に載り、プロレスの外側…いわゆる「環状線の向こう側」まで大きく響き渡りました。
橋本は試合後、目を真っ赤にしながら「次、すぐもっかいやらせてください。これ懸けてやりますから。お願いです坂口さん。もう一回やらせてください」とIWGPのベルトを持って懇願。
小川との前代未聞の「IWGPヘビー級タイトルを懸けた異種格闘技戦」が決定するのでした。
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