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なぜアスリートのセカンドキャリアばかりが幾多ある職業の中で問題視されるのか?

当アカウントでは、感情に流されず「心のスイッチを切って」アスリートのキャリアや位置づけについて多方面から見てきた。アスリートの取り巻く問題の大きなテーマのひとつが引退後のセカンドキャリアであることは多くの人が同意できることだろう。

このセカンドキャリア、調べていると、スポーツ以外の分野でも使われる言葉のようである。しかしスポーツばかりがこの問題を抱えているようにとらえられる傾向がある。この記事では、他の業種との比較と理由を考察していきたい。

そもそもセカンドキャリアとは?

そもそものセカンドキャリアとは何だろうか?検索してみると以下のようにある。

セカンドキャリアとは人事労務用語で「第二の人生における職業」を意味する。用語としては定年後や脱サラ、育児を終えた後などのキャリアを指すが、特にプロスポーツにおいて多用される言葉であり、その範疇においてはプロスポーツ選手の引退後のキャリアを意味する。https://ja.wikipedia.org/wiki/セカンドキャリア

定年後や脱サラや出産後の職場復帰もセカンドキャリアということになるが、あまりセカンドキャリアと呼ばれている印象は受けない。諸所の説明によると、どうやら大きく環境が変わるタイミングのキャリア転換や継続をセカンドキャリアという様子である。

他の分野のセカンドキャリア

どうやら大きく環境が変わる転職の事をセカンドキャリアと呼んでいる傾向がある。特に定年などの引退ではなく、年齢が比較的若い間のキャリアチェンジがセカンドキャリアという認識がされやすいようである。比較のために、定年ではなく、比較的若い年齢でスポーツ以外のセカンドキャリアについて見ていきたい。いくつか思いつくものをあげる。

コンサルのセカンドキャリアは、コンサルタントがコンサルティングファームを辞め、他の職業に転職したり、役員になったり起業することを指すようである。これはあまり問題になっている印象は受けない。ポストコンサルともいうらしい。アスリートも、今よりももっと多くが幅広くいろいろな方向性に行くようになれば「ポストアスリート」と呼んでもよさそうであるが、この辺りは言葉遊びに過ぎないのでこの記事では割愛する。これを見ていると、セカンドキャリアは、ただの転職なのではないか、とすら思ってしまう。

movin.co.jp/post_consul/special_05.html

ポスト○○で思いついたが、ポスドクから、ポストポスドクへ。こちらは研究界隈。ポスドクとは、基本的には大学院を卒業(修了)し、その後に大学や研究機関の正規教員を目指し研究実績を積んでいる非正規雇用の職業である。これは比較的問題視されている傾向を見かける。

https://www.editage.jp/insights/15-career-paths-for-phds-and-postdocs

しかしこちらは、どうだろうか?風俗嬢のセカンドキャリア。風俗嬢も年齢と価値に高い相関があるようで、一定の年齢になると、次のキャリアを探すことになるようである。一般的に夜職から昼職への転換を風俗嬢のセカンドキャリアという様子。しかし、これはあまり問題視をされていない印象である。

https://www.excite.co.jp/news/article/Litera_3141/

何を見ているのか?:社会的地位と収入

ではこの基準として何を見ているのか?セカンドキャリア問題になりやすいものは何なのか?アスリートは引退後のキャリアとして何を求めているのか?メダリストが引退後にフリーターや日雇い労働では何が問題なのか?

おそらく求めているものは、収入はもちろんのこと、むしろ社会的地位であることが予想される。

※印象問題なので正確な定義は難しいので社会的地位については検索してみていただきたい。
人は社会や集団の成員としてそれぞれなんらかの役割をもっているが,それに伴う一定の資格や権限によってその社会あるいは集団 (職場,家庭,また都市,国家など) の階統制のなかにそれ相当の位置を得る。これを社会的地位という。一定の役割は常にこれに応じる地位を伴い,逆に一定の地位は常にこれに応じる一定の仕事の内容と行動様式,すなわち役割への期待を伴うのであって,地位と役割は表裏の関係にある。一つの社会あるいは集団の内部で人々が占める位置は,水平的な分業的組織の面に即してみるとき役割であり,垂直的な段階的構造の面に即してみるとき地位であるといえる。地位は一定の役割についての期待をもっているから,それが満たされない場合,地位の占有者はその社会ないし集団内での安定性を得ることができない。社会学では,社会的地位の配列構造から社会的成層をとらえる。職業,職業上の地位,収入,財産,消費水準などを基準にすることが多い。https://kotobank.jp/word/社会的地位-75669

スポーツセクターにおいて、仕組み上選手はメディアには注目されるものの、仕組み上では替えが利くいわば非正規社員のような位置づけにある。(日本代表メンバーなども毎回招集制・大会ごとの決定方式ですし。)このためスポーツセクターの構造上では選手は決して地位的に高いとは言いづらい。(なお仕組み上の上位に位置するのは協会とスポンサー企業である。)しかしトッププロ選手というのは、スポーツ選手というくくりののヒエラルキーではトップに位置する。メディアもスポットライトを当てる対象にあり、さらにそれに伴って広告を中心とした年俸も一部は高い。


それが一転して引退すると、大半の場合全く注意もむけられなくなり、収入も激減する。コメンテーターや監督などのごく一部を除いて、誰にでも出来そうな、いわゆる一般社会において社会的地位が低くなりがちな日雇い労働などになるというのは、落差が激しい。元々スクールカーストも上位だっただろうから、やはり激しい移動になる。さらに、一部の引退後監督やコメンテーターと比べて、日雇い労働では差が激しい

大学院のポスドクのキャリアも似た傾向がある。基本的にポスドクは学校歴の方の高学歴である。通常高学歴であれば学部・修士辺りで修了し、楽々学歴フィルターを突破し優良企業に好待遇で就職出来、一定の社会的地位と収入を得ることが出来る。しかしポスドクの場合にはこの機会をあえて使わずに通過して、日雇い・無職同然になりがちというのは、得られていたはずのものを得ていないという意味で、やはり落差がある。

一方で、風俗嬢のセカンドキャリアはどうか?申し訳ないが、風俗嬢の社会的地位は一般社会の認知でも高くはない。そのような人が引退後に困ったとしても、あまり落差が無く問題として認識されづらい。先述のような落差が無い。よってあまり問題になりにくいし、業界上、表にも出てきにくい。

昨今話題になるホームレスが自ら命を絶っても誰も気にも留めない一方で、若くて可愛く女性、(有名・高学歴・いい生まれ等だとさらに強烈)という社会のヒエラルキーの上位の人が命を絶つと大ニュースになり、世論や制度まで動いてしまう構造と非常に近い。御田寺圭氏によると、このような序列は「かわいそうランキング」と呼ぶようである。

アスリートはこの「かわいそうランキング」が高い職業とみなされることが多いということである。

なお歴史的には剣闘士の扱いは売春婦と同等であったようである。さらに一部のスター剣闘士以外は戦死したり処刑されていた。おそらく長い年月をかけてメディアが作り上げてきたアスリートの良いイメージを取り除き、仕組みだけを考えるとむしろ、今アスリートのセカンドキャリアばかりが問題視されている構造自体が特殊なのかもしれない。仕組み上は殺し合いに生き残った奴隷の余生に対応する。市民権が無かった要は人間扱いされていなかった奴隷の引退後は、要は落差が感じられず、問題にもなりづらいことと一致する。


スポーツとメディアは近い業界

スポーツとメディアは非常に近い業界で、特にメディアはアスリートを持ち上げて報道する傾向にある。同時に数字を追うメディアにとっては、この落差がまた視聴率に直結するので、これを利用しない手はない。

さらにメディアが取り上げるほどに注目されていて高い地位だと一般的に認識されている人々(裏が色々あるが、一般の認識が重要である)が、行き場に困るというギャップが話題性を生んでいる可能性が高い。メディアもそのほうが面白おかしく取り上げ、視聴率も取れてしまうという構造も関係している。

よって数ある中で、アスリートのセカンドキャリアが取り上げられる理由としては、スポーツがメディアと親和性が高く、落差が激しく、目立つためである、と考えれる。

逆に言えばアスリートは、実態以上に持ち上げられている状態にある。これこそ「錯覚資産」なのではないか(ハロー効果ではない)。アスリートは引退する前に、この現象を使わない手はない。アスリートは一般的にプロセスに価値が出しづらいので、もうこれ以外には特典が無いといっても過言ではない。

しかし、構造としては未経験分野への転職と大差がないので印象だけで判断しないのも重要なのではないだろうか。キャリアを真剣に考えたうえでスポーツに取り組むことを念頭に置いておくべきではないだろうか。

(お決まりの宣伝になりつつあるが)そもそもスポーツは暇つぶし・余暇を意味するラテン語であるデポルターレを発祥としている。スポーツはもっと気軽でいいのではないだろうか。「マイナースポーツ」ではなく「ベンチャースポーツ」は、もっとカジュアルに取り組めるものが非常に多い。最先端を目指していたら原点回帰した状況である。弊連盟では、スポーツ業界やアスリートの状況の解明や情報共有に加え、団体運営支援サービスを展開している。


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