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【VFJ小松洋介 × IGPI田中加陽子】“新生”VENTURE FOR JAPAN。一般社団法人として社会を巻き込み、日本の復興に挑む

「将来起業したい」、「社会課題を解決したい」、「どんな時代でも自分の力で活躍できる人材になりたい」といった成長意欲の高い新卒や第二新卒に向けた、キャリアの新しい選択肢「VENTURE FOR JAPAN」。これは、事業成長をしている地方の中小企業やベンチャー企業で経営者直下の事業責任者として2年間経験を積み、2年後のキャリアパスを描いていく「起業家予備軍育成プログラム」だ。2018年に宮城県・女川町のNPO法人アスヘノキボウから誕生したVENTURE FOR JAPANは、2021年に株式会社として分社後、事業のスケールを目指して2022年11月より一般社団法人VENTURE FOR JAPAN(以下、VFJ)として再スタートを切った。

社団法人になったVFJが果たしていく役割について、パートナーとして共創する株式会社経営共創基盤(以下、IGPI) 共同経営者(パートナー) 取締役CHROの田中加陽子氏とVFJ代表の小松洋介が語る。

IGPIグループ会長・冨山氏が背中を押し、VFJが本格スタート

――まずは、IGPIとVFJがパートナーになった経緯を教えてください。

小松 東日本大震災後、僕は被災した宮城県・女川町の復興まちづくりのご支援をするためにNPO法人アスヘノキボウを立ち上げました。女川町と都心部、大企業などをつなぐ活動をする中で出会ったのが、視察に来られたIGPIグループ会長の冨山和彦さんです。ここから冨山さんとのお付き合いが始まりました。

一般社団法人VENTURE FOR JAPAN 代表の小松洋介

僕が女川町で感じたのは、社会課題が顕在化した被災地に集まる学生ボランティアの皆さんとお話をすると、将来「起業したい」、「社会課題解決をしたい」、「どんな時代でも自分の力で活躍できる人材になりたい」という自立心の強い学生は毎年増えているのではということ。そんな彼らは従来の新卒採用の仕組みや就職の勝ち組という世間の考え方が自分たちのキャリアパスには合わないのではとモヤモヤを感じているという課題です。

この状況をどうにか打破できないかと考えていたとき、アメリカの優秀な大学生に人気のプログラム「VENTURE FOR AMERICA」のオフィスを訪ねる機会を得ました。

VENTURE FOR AMERICAとは、起業を⽬指す学生がアメリカ全土のローカルベンチャーの経営ポストに2年間就職するプログラム。起業を志す若者と地域のベンチャー企業の成長と地域におけるスタートアップエコシステムを形成する仕組みに感動し、「⽇本にもこのプログラムは絶対に必要だ」と思いました。

VENTURE FOR AMERICA創設者のAndrew Yang氏と

ただ、VENTURE FOR AMERICAの日本版を作りたくても、僕らだけではできることに限界があります。そこで冨山さんに相談したところ「絶対にやった方がいい」と背中を押していただき、IGPIのCHROである田中さんを紹介いただきました。

――田中さんはVFJにどんなイメージを持ちましたか?

田中 VFJのビジネスモデルには共感しましたし、親近感を持ちました。

IGPIは、持続的な企業価値の向上を目的とした経営支援に取り組む企業で、「経営と経済に新しい時代を切り拓くこと」や「経営の最前線の課題を解決すること」を目指しています。

経営から社会を変えようとしているIGPIに対し、VFJは人材×地方企業をテーマに社会を変えようとしていました。つまり、VFJとは切り口が違うだけで、似たような世界観を実現させようとしている仲間だと思ったんです。そこでIGPIでも何らかの支援ができるのではないかと考え、新卒でも中小企業の即戦力になれるような知識・ノウハウを獲得できる研修、起業家育成や事業責任者育成につながる研修などを設計・運用して、VFJのサポート体制を整えました。

株式会社経営共創基盤 共同経営者(パートナー) 取締役CHRO

小松 冨山さん、田中さんをはじめとしたIGPIからのご支援をいただき、さらに日本を代表する経営者の皆様にアドバイザー・サポーターとして参画してもらうことで、VFJは2018年から本格的に始動することができました。

さまざまなセクターを巻き込んで社会にムーブメントを起こす

――2018年に立ち上がったVFJは、当初NPO法人アスヘノキボウの事業でした。それを2021年に株式会社として分社化した背景には何があったのでしょうか?

小松 VFJの就職者は主に新卒と第二新卒の皆さんです。新卒の皆さんを人材紹介するには、実際に会社へ入社する約2年前から採用のご支援に動く必要があります。さらに、初めての就職で不安や疑問をたくさんお持ちの中、『経営者直下の事業責任者』という重要なポジションで就職するため、私たちも工数をかけて本気で向き合います。この点は、企業と若者のベストマッチングを目指す私たちとしては、どうしても簡素化ができない部分です。したがって、事業収入を得るには長い時間と工数が必要になります。

さらにVFJは人材を地方企業に紹介したら終わりの事業ではありません。2年間は若者の皆さんへ研修やコーチング等を行いながらサポートしますが、VFJ参加者が成果を出せるようになるまでに時間もかかります。だからこそ、考えがいも、やりがいもある事業である反面、ある程度の資金を調達して展開しないとスケールしないと感じていました。

VENTURE FOR AMERICAは、ほとんどが寄付収入で事業を回し続けておりましたが、日本では寄付収入だけで事業を回し続けることは難しいと思い、金銭的リターンを目的とした投資ではなく、経済性と社会性の両立を目的としたインパクト投資を受けてスケールさせることを目指してVFJをNPOから分離して株式会社化したんです。ただ、株式会社にして資金調達を始めると、違和感が出てきて。

VENTURE FOR JAPANのプログラム概要

田中 どうしてもVFJのビジネスモデルは株式会社のフォーマットにハマり切らなかったんですよね。

田中 私たちが成し遂げたいのは、VFJという新しい選択肢を世の中の当たり前にすること、そして一過性のイベントではなく社会にムーブメントを起こして定着させること。そのためには大きな初期投資だけでなく、さまざまなセクターを巻き込む力が必要になります。

小松さんたちと半年近く会社の在り方を模索し、成し遂げたいことに何度も立ち返りながら議論した結果、株式会社ではなく一般社団法人が良いのではないかという結論に辿り着きました。

小松 そうですね。たくさんの人たち、たとえば行政や大学、地域、企業などさまざまなセクターを巻き込みながら新しい社会を作るには、一般社団法人のフォーマットが正解かもしれません。

この提案はVFJ関係者からも即時で賛同を得られたので、IGPIから基金を拠出いただく形で、2022年11月から一般社団法人として再スタートを切りました。

企業、地域、行政、VFJが集結しコレクティブ・インパクトを生み出す

――これからどのような事業を展開していくのかを教えてください。

小松 パーパスに「日本の復興」を、ミッションに「若者の挑戦機会を増やし、ポテンシャルを解放する」を掲げ、これまでのVFJの活動をよりダイナミックに拡大・成長させていきます。

軸はこれまでと同様に、将来起業したい・社会課題を解決したい・どんな時代でも自分の力で活躍したい意欲的な主に新卒・第二新卒の人材を、2年間の期間限定で地方の中小企業やベンチャー企業に紹介する人材紹介業と、就職後に任意で受けていただく研修事業がメインです。

この活動に付随して拡大させていきたいのは、行政や地域の団体・個人との接続です。起業家予備軍であるVFJのメンバーを各地域が受け入れ、コワーキングスペースや起業支援など各地のさまざまなプログラムに参加させてもらいながら、地域からもたくさんの学びを得られる経験を通して、地域の環境問題や社会課題を体感してもらいたいと考えています。

各地の自治体からも、将来的に地域として力を入れている起業支援メニューを活用してくれるVFJ人材(起業家予備軍)を受け入れ、地域におけるスタートアップエコシステムを形成したいという要望をたくさんいただいているので、企業と地域とVFJが一緒になって若者を育てる仕組みを確立させたいですね。ちなみに、VENTURE FOR AMERICAはそれがうまく回っており、地方から全米や世界で活躍するような起業家も生み出しています。

――地方企業と地域、VFJとVFJのパートナーやアドバイザーといった多方向から人材を育てていくのですね。

田中 その通りで、女川町が活性化したのは地域の人はもちろんのこと、外から来た人、企業、行政、大学など、いろんな人たちが一緒になって頑張ったからだと思うんです。

その点、IGPIは国内外の産学官を含めた幅広いネットワークを持っているので、それらをうまくVFJの活動につなげるハブの役割を担いたいと思っています。

小松 本当にありがたいです。いろんな方、いろんなセクターを巻き込みながら、社会を変えるようなコレクティブ・インパクトを起こしたいですね。

日本中でリーダーを生み出し、日本を復興させる

――これからVFJを通じて、どんな社会を作りたいですか?

小松 若者、特に学生のキャリアの選択肢は、もっと多様でいいと思うんです。新卒一括採用で大企業に入るのも、インターンからスタートアップに行くのも、通年採用の企業に入るのも良いでしょう。それらに加えて、VFJは意欲的でゼブラ思考を持つ学生が地方企業で自分らしく活躍できる、社会課題を解決できる新しいキャリアの選択肢になりたい。

そして2年後にVFJを卒業後、手に入れてほしいのは、一回りも二回りも大きく成長した自分が切り開く未来です。実際、卒業生のキャリアは多様で、起業した人もいますし、VFJで立ち上げた新規事業を別会社で行うことになり社長に就任した人、VFJ終了後に上場企業に転職して活躍している人、入社した会社にそのまま残ってより大きな仕事を任されている人、VFJで自分が挑戦したい仕事が見つかってその分野で修行する人などさまざま。

新しいキャリアの選択肢としてVFJが浸透すれば、日本中でリーダーが生まれてくるでしょうし、それが「日本の復興」につながると思っています。そのためにも、我々の活動に賛同いただけるさまざまな方と組んで、日本の未来を作っていきたいと思っています。

――価値観の変容のスピードが速い今、ファーストキャリアにVFJを選択するムーブメントは予想より早いタイミングで起きそうですね。

田中 それを目指して頑張りたいと思っています。VFJの研修をして感じるのは、VFJを選択する人の多くが最初はとても“初々しい”ことです。

スタートアップや起業を選択する学生、大企業を選択する学生とはまた違う雰囲気があって、最初は「事業責任者としてやっていけるかな」と思うのですが、実際に入社して経験を積むと「地域課題を解決したい」「地方企業の役に立ちたい」という内に秘めた思いが剥き出しになって本当に逞しくなっていくんですね。

そういう若者が日本にいることを知って、「日本の未来には希望があるな」と感じました。きっと、そういう日本の未来を担っていってくれる若者は全国各地にたくさんいると思うので、VFJという新しいキャリアパスをしっかりと定着させ、日本を元気にする人を一人でも多く輩出できたら嬉しいです。