訴求債権主張額説vs訴求債権認容額説?

おそらく実務家からすると、間違えようのない問題。
出典は、勅使川原和彦『読解民事訴訟法』とのこと。

読解民訴を見たところ、「上記の見解は明確に否定」されているわけではなく、400万円の不存在に既判力が生じるという見解を明確に「通説」として紹介している。


一方、当の勅使川原先生は、法学教室において、ご自身の見解はそうではないと主張される。

法学教室421号には、上記の例で400万円(訴求債権として原告が「主張」した額)につき既判力が生じるという見解を「訴求債権主張額説」とし、これが「通説」であるとしつつ、ご自身は、350万円(訴求債権として原告が「主張」した額のうち、存在が認められた額)につき既判力が生じると考えるのが相当であるとし、これを「訴求債権認容額説」とされる。


その他、瀬木・民訴も、訴求債権認容額に属すると思しき記載があるらしい(こちらは未確認)。

なお、「反対説」は、松本=上野とのこと。

もっとも、読解民訴によると、松本=上野は、「訴求債権主張額説」ではなく、そもそも訴求債権を超える額についても既判力が生じるという見解のようであり、読解民訴では、これを「少数有力説」として紹介している。
なので、「訴求債権主張額説」なる「通説」を、どこの誰が唱えているのかは、不明である。


一方、しばしば基本書等で引用される大判S10.8.24も、訴求債権認容学説的な考え方を前提としているように思われる。


また、最判H18.4.14の調査官解説の536頁注13の解説(4)は、「訴求債権認容額説」を前提とする解説がなされている。


なお、上記調査官解説(注13)の(1)には、「相殺の自働債権として反訴請求債権(上記の例でいうと自働債権400万円)全額の存在又は不存在につき既判力ある判断がされたことになるから、(予備的)反訴について判断する必要はない。」との記載がある。

そもそも民訴法114条2項の既判力は、「存在」については既判力が生じる余地がない(なので立法の過誤)というのが通説的理解だと思うが、その点はさて措き、これが訴求債権認容額説ではなくて、訴求債権主張額説を前提とする記載かというと、単に筆が滑っただけではないかと思われる(そうでないと、(4)の設例と整合性がとれない)。

もっとも、この調査官解説の設例は、本訴及び反訴の請求額がいずれも1000万円で、(1)の設例は、そのうち本訴請求債権として800万円、反対債権として500万円と認定された場合であるところ、この場合に、反対債権につき、800万円全額につき「不存在」(500万円は相殺による消滅、300万円はそもそも不存在)の判断がされ、その点に既判力が生じるというのが正しいとして、予備的反訴がなされていたらどうしようかという極めて面倒な問題が別途生じる。

すなわち、1000万円の反訴債権のうち、対当額の範囲の一部300万円については、相殺の抗弁を(一部)棄却する中で不存在の判断がされ、そこに既判力が生じるが、訴求債権認容学説を前提とすると、その余の200万円については既判力が生じない。もっとも、500万円を超えては存在しないという判断がなされている中で、あえて200万円を反訴の審判対象とし、棄却すべきという結論については、違和感がないわけではない(否定する理由もないように思うが)。


とはいえ、訴求債権認容学説が実務上は通説云々のレベルではなく「常識」のレベルであることは、常識なんじゃないかと思われるところ。異論があり得るとすれば、それは「訴求債権主張額」を基準とするのではなく、「訴求債権認容額」を超える部分についても既判力を生じさせるべきという見解になるのではないかと思われる(「主張」で区切る理由は全くない)。

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