養育費分担義務の根拠

 通説及び家裁実務は一般に、民法760条に定める婚姻費用分担義務と752条に定める夫婦間の協力扶助義務(扶養義務)との本質的同一性を認め、右のいずれを根拠としても、夫婦は互いに未成熟子の養育費を含めて自己の生活費を請求することができると解している。
また一般に、未成熟子の養育費の請求は、父母の一方が他方に対し民法766条の監護費用の請求として行うこともできれば、未成熟子が父又は母を相手方として民法877条の扶養請求として行うこともできると解している。

梶村太市「未成年者の養育費と婚姻費用分担義務の相互関係」判タ747号(1991年)48頁

現行法の条文は、以下のとおり。

(同居、協力及び扶助の義務)
第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

(婚姻費用の分担)
第760条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

(扶養義務者)
第877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

手続法上の相互関係について。

未成熟子の養育費のみを請求する手続については、
①父母が婚姻中の場合
②父母の離婚訴訟の手続中の場合
③父母が離婚している場合及び父母が婚姻していない場合
とがある。


②について

最判H1.12.11は、 裁判所は、離婚請求を認容するに際し、親権者の指定とは別に子の監護者の指定をしない場合であっても、申立により、監護費用の支払を命ずることができるとしている。

 人事訴訟手続法15条1項は、裁判上の離婚に際し、子の監護をすべき者その他子の監護につき必要な事項を定めるものとしている民法771条、766条1項の規定を受け、裁判所が、申立により離婚訴訟の判決で右の事項を定めることができるものとしている。
そして、民法の右条項は、子の監護をする父母の一方がその親権者に指定されると否とにかかわらず、父母の他方が子の監護に必要な費用を分担するなどの子の監護に必要な事項を定めることを規定しているものと解すべきである。
したがって、離婚訴訟において、裁判所は、離婚請求を認容するに際し、子を監護する当事者をその親権者に指定すると否とにかかわらず、申立により、子の監護に必要な事項として、離婚後子の監護をする当事者に対する監護費用の支払を他方の当事者に命ずることができるものと解するのが相当である。

なお、上記最高裁判決は、「現に子を監護養育している夫婦の一方が他方に対して離婚訴訟を提起するとともに、子の養育費の支払を求める付帯請求の申立ては、離婚の際にその申立人が親権者に指定される場合であっても、人事訴訟手続法15条1項にいう『子ノ監護ニ付キ必要ナル事項』についての申立てとして適法であると解すべきである。」として養育費の支払を命じた原判決(東京高判S62.11.24)の判断を是認したものである。

上記東京高判S62についての鎌田泰輝・横浜地方裁判所判事(当時)の解説であるには、反対説(「最近の通説」とされている。)につき、次のとおり解説されている。

 これら(積極説)に対しては、「監護について必要な事項」とは、離婚に際し親権者とならなかった父母又は第三者が監護者に指定された場合についての事項であって離婚に際し、子の親権者となった父又は母が子の養育に要する費用は、右監護に必要な事項に含まれないと解すべきであり、親権者に指定されることと、その親権に服する子の監護に必要とする費用を誰がどのような割合で負担するかは別個の問題であるのみならず、親権者に指定された父母の一方が他方にその費用の負担を求めるには、子の法定代理人として扶養料を請求する方式によるべきであって、他方に対し直接親権者自身への支払を求めうる実体法上の根拠がないといわざるを得ず、このことは監護者に対する監護費用の支払につき、実体規定として民放771条、766条2項、手続規定として人訴法15条1項があるのに対して、親権者に対する監護費用の支払につき、なんらの実体規定、手続規定が存在しないことによっても明らかであるとの説(岡垣学・人事訴訟手続法262頁)があり、大阪高判S46.3.25、水戸地判S48.7.16、東京高判S58.10.27もこれと同旨の見解に立っている。

判タ706号(1989年)144頁

なお、岡垣学といえば超有名人であり、容易に無視できるような見解ではない。


最高裁判決についての調査官解説は、大きくは「離婚判決に附随して養育費の支払を命ずることができるかの問題点」について検討する中で、上記岡垣学の問題意識について言及しているが、ややポイントがズレているように感じなくもない。

すなわち、調査官解説では、「古くは、子の監護費用の分担は、監護者の指定と独立しては、監護に関する処分の対象とならないと解する扱いが有力であったようであ〔る〕」、「現在の家裁の実務は、監護費用の分担を、監護者の指定とともにしかなし得ないとは解しておらず、監護者の指定と独立してでも、子の監護費用分担の処分をなし得るものとしている」とし、「本判決も、民法766条1項の解釈としては家裁の実務が採っている立場を前提として、原審判決の判断を正当とした」とするが、親権者に指定された父母の一方が他方にその費用の負担を求め得る実体規定、手続規定の分析は全くしていない。あくまで、「監護者の指定を不可欠の前提とはしていない」という家裁実務を前提として、「監護者の指定なくして」、すなわち「親権者も」監護費用(養育費)を請求し得る、という論理運びをしているようである。

最高裁判決の判文をみても、上記と同様の理解を前提としていることがわかる(親権者が監護費用を請求し得るか、という問題の立て方をしていない)。

なんとなく消化不良感が否めない解説&判決ではあるが、実務的には結着した問題ということだろう。


①・③について

通説及び家裁実務は次のように解している。
すなわち、父母が婚姻中の場合は、前述したように、乙類2号の婚姻費用分担かもしくは乙類1号の夫婦間の協力扶助の審判(調停)の申立てをすることもできるし、子から他方の親に対する家事審判法9条1項乙類8号の扶養の審判(調停)の申立てをすることもできる。
また、父母が離婚をしている場合及び父母が婚姻をしていない場合の未成熟子の養育費の請求については、子を監護する親の一方から他方の親に対する同法9条1項乙類4号の子の監護に関する処分(監護費用の分担)の審判(調停)の申立てをすることもできるし、子から他方の親に対する乙類8号の扶養の審判(調停)の申立てをすることもできる、と解するのが一般である。

梶村太市「未成年者の養育費と婚姻費用分担義務の相互関係」判タ747号(1991年)49頁

②についての判断が全てのように思われる。

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