「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(性同一性障害特例法)の5要件の憲法適合性については、これまでに小法廷で弥縫的に合憲判断が積み重ねられてきたわけだが、今般、ついに最高裁が大法廷を開くこととなったようである。
大法廷審理に先立ち、これまでの小法廷の決定を整理してみた(いずれも裁判所が性別変更を認めないという判断の当否が正に問題となっているので、審判事件であり、最高裁は特別抗告審)。
なお、現行法上の要件は、以下のとおり。
なお、上記要件のうち、③「現に未成年の子がいないこと」という要件は、法律制定時は「現に子がいないこと。」という要件であったところ、その後の法律改正により「未成年の子」に限定されたという経緯がある。
また、①「十八歳以上であること。」は、当初は「二十歳以上であること。」という要件だったが、成人年齢の引き下げに伴い改正された。
憲法適合性を取り上げたものとして最高裁のHPで最初に出てくる決定。問題となったのは、④手術要件(生殖不能要件)。
前提として押さえておくべきは、本要件は、要は「将来にわたって確実に子どもを生まない(生めない)ことが不可逆的に担保されていること」を必要とするものであって、外観とは全く無関係のものであるということ。なので、「社会の信頼」は本要件との関係では無関係。実質の問題。パイプカット(後に復活できる)ではダメ、というもの。
憲法の答案的にも学ぶべきところはある(制約の判示部分とか)のだが、特徴としては、憲法13条の権利性を論ぜず、14条1項の判断枠組みを明示していないところだろうか(共同補足意見に言及あり)。
一応平成時代(後期)ということもあり、「不断の検討を要する」と明示しているところはポイントか。要するに、社会の承認次第である、ということなんだろう。
性同一性障害特例法の憲法適合性については初判断なわけだが、「趣旨に徴して明らか」とする判例として何を引いているか、というと。。。
民法787条但書(認知の訴の提起に関し、すべての嫡出でない子につき一律平等にその権利の存続期間を制限したもの)につき、憲法13条、14条違反を否定したもの。
そもそも、戦後まもなくの判例なわけで、まあこういう判示になりますよね、という。。。
高齢者であることを一応の基準としてなされた地方公務員の待命処分が憲法14条1項及び地方公務員法13条に違反しないとされたもの。
どこの「趣旨」を参照すべきとしたのかは直ちに明らかではないが、いわゆる法理判例は、以下の部分と思われる。
まあ、(今からすると)当たり前といえば当たり前。
いわゆる京都府学連事件であり、「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有し、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し許されない」が、「現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、証拠保全の必要性および緊急性があり、その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときは、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、憲法一三条、三五条に違反しない」としたもの。
法理判例といえるのは、以下の部分か。
最決H31.1.23は、以上の(1)~(3)の3つの判例の「趣旨」に徴すれば、本決定のように解すべきことは「明らかというべき」であるとしたわけだが、何をどう参照して「明らかというべき」であるのかというのは、私には全くわからない。。。この決定のおそるべきところは、民集に登載されてないんだよね。全く理解不能。
なお、本決定には、鬼丸かおる裁判官及び三浦守裁判官の共同補足意見がある。
ここでは権利(人権)性について検討している。
「切実ともいうべき重要な法的利益」ではあるが、人権ではない、と。。。
以上のとおり、共同補足意見は、憲法13条は、「その意思に反して身体への侵襲を受けない自由」を保障しており、性同一性障害特例法が性別変更の要件として定めるような手術を受けるか否かについても、当然にこの自由が及ぶものであり、特例法は、この自由を制約する面がある、と理解するようである(そして、法廷意見の書きぶりと比較すると、法廷意見もまた、同様の理解に立つものと考えられる。)。
憲法答案的に、こういう権利の措定って、ありなんだろうか。。。
「自己の認知に反する性別的取扱いを国家に強制されない権利」と措定することはできないのだろうか。
こういうところ、せいぜい平成初期の感覚のような気が、しないでもない。。。
しかも、「検討」していること自体は、「手術を事実上強制されることの当否」じゃないんだよね。
ある意味、司法試験の問題で憲法上の権利の措定を誤っても、ちゃんと問題意識を外さず論じられていれば、相応の水準のものと評価される(知らんけど)、というお手本かもしれない。
次に、同じく第二小法廷の決定。今度は、②婚姻をしていないこと(非婚要件)が問題となった。
この要件の問題は、現在の直ちに離婚を認めない判例実務を前提とすれば、現に婚姻をしている場合には、性別変更に時間を要することがあり得る、ということだろう。
ここで「趣旨」を徴することとしている判例として、1(1)、(2)判決に加え、1(3)判決に代えて最大判H27.12.16を入れる。生殖不能要件の憲法適合性には京都府学連事件を参照すべきだが、非婚要件に当たっては必ずしもそうではない、ということなんだろうか。。。
再婚禁止期間を定める民法733条1項の憲法14条1項、24条2項適合性が問題となったもの。
ここでは「国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず」というのが出てきているが、憲法13条、14条1項の判断該当性については国会の裁量権は問題とならず、憲法24条2項が入ってくると国会の裁量権が出てくる、ということなんだろうか。一緒に論じるとこのあたり、明瞭にならないので、本当は別に分けて論じるべきなんでしょうね。。。
まあ、言ってることは、「同性婚を認めることは絶許である」ことからすれば非婚要件は当然、ということなのかな。
「同性婚を認めることは絶許である」というのが前提となっているのが興味深いところ。
そういえば、外国で同性婚をした場合には、日本法制度上も婚姻関係ありと扱われる(ただし、戸籍上は記載できない)と認めた下級審の裁判例があった気がするけど、「結果として同性婚と同一の状態になる」というのを我が国の法制度が認めているのか否か(「公序」に反するとまでいえるのか)は、一応検討の対象になるんだと思う。国際私法が絡む場合にどうなるのかは、ちょっと興味深い。
まあ、裁判官が思っているほどに法律関係って、簡明なものじゃないんだよね。。。渉外が絡むと特に。
今度は、第三小法廷の決定。③現に未成年の子がいないこと(子なし要件)が問題となった。
憲法に反しない、判例見ろとしか言ってない。。。
ここで初めて、憲法13条に違反するという反対意見が登場する。我らが宇賀裁判官である。
ここで初めて、「性別を強制される」ことの人権侵害性に着目される。
この書き方、司法試験的に超重要!(知らんけど)
まさに問題点ドンピシャの権利を措定し、検討している。
まず「大方の賛成が得られる」ところを踏まえ、次のとおり続ける。
「生来的に女性」の権利を引き合いに出して、「医療的措置により身体的に女性となった者」の権利を論ずる。これができれば司法試験合格レベルどころじゃない。たぶん東大で学者の道に誘われるレベル。(適当)
その後の検討は本当に首を縦に振るしかないと思うんだけど、残念ながら、多数意見からは黙殺される結果となっている。
まず、要件を緩和した改正経過に着目し、「現に子がいる場合にも性別の取扱いの変更を認めることは,「女である父」や「男である母」の存在を認めることになり,男女という性別と父母という属性の不一致が生ずる事態は,家族秩序に混乱を生じさせ,また,子に心理的な混乱や不安などをもたらしたり,親子関係に影響を及ぼしたりしかねないことなど,子の福祉の観点から問題であるという指摘」が必ずしも当を得ないものであることを指摘する。
これは、「改正をして要件を緩和してあげているのに、それを逆手にとるのはいかがなものか」という素朴な心情があり得るところであり、そういう忖度をばっさり無視する宇賀先生の心意気には感服するしかない。
その上で、(改正後の)真の立法趣旨を、「「女である父」や「男である母」の存在を認めることが,未成年の子に心理的な混乱や不安などをもたらしたり,親子関係に影響を及ぼしたりしかねず,子の福祉の観点から問題であるという説明」の当否に絞り込む。この辺、司法試験的に超重要!(知らんけど)
そして、以下のように疑問を呈する。
司法試験の答案上の当てはめとしては完璧レベルであり、ここまで書けば、まず間違いなく「説得力がある」と評価されるものであろう。(当然だが)
その上で、改正後に「脆弱な根拠となった」家族秩序の混乱という観点についてもさらに検討を加え、「十分な説得力を感ずることができない」という。
本当に脱帽。
で、何がすごいって、ここまで書けば(いえば)、なかなか反論しにくいような気がするけど、法廷意見は全くこれを無視して、反対意見を踏まえてこれを採用し得ないことを論ずる補足意見すらないこと。そんな説得力ないかなぁ。。。
もちろん、「疑問」があるとしても、なお国会裁量の範囲内という説明はあるんだろうし、法廷意見はおそらくそうなんでしょう。けど、それはそれとして、なぜ国会裁量の範囲内といえるかどうかについては、きちんと見解を明らかにする義務があるんじゃないかなぁ。
今回、合憲と解する理由を黙して語らなかった第三小法廷のメンバー4人全員が大法廷審議のメンバーになるわけだが、そこで何を語るか(語らないか)が注目される。
なお、上記最決R3.11.30で「参照」している2つの最高裁決定(いずれも民集、集民非登載であり、最高裁のHPにも掲載されていない。)は、性同一性障害特例法の合憲性について判示したもの。
4.最三決H19.10.19/最二決H19.10.22
上記判示は第三小法廷、第二小法廷ともに全く同じなので、事実上の大法廷(のようなもの)で意見のすりあわせが行われた上で決定がなされたものと推察される。
出発点はここなんだよね。最初にこんな適当な理由で「事実上の大法廷で」合憲にしちゃった(法律が合憲としているので、「他の要件については合憲と認めたわけではない」という言い訳はあり得ない)ので、その後もこれを前提とせざるを得なくなる。
というか、初めての憲法判断で、しかも二つの小法廷がそろって見解を出しているのに、民集はおろか、集民にも載せないというのは。。。