固定資産税に係る登録価格が違法となる場合

最高裁判例について整理。

最二判H25.7.12が集大成か。

1.登録価格>客観的な交換価値→違法

 ア 地方税法は,土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準を,当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録されたもの(以下,これらの台帳に登録された価格を「登録価格」という。)とし(349条1項),上記の価格とは「適正な時価」をいうと定めている(341条5号)ところ,上記の適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解される。
したがって,【土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば,その登録価格の決定は違法となる(最高裁平成10年(行ヒ)第41号同15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。

嚆矢は、最一判H15.6.26である。当該事案は、平成5年1月1日から同6年1月1日までに30%超の価格の下落があった時代の話である。

結論は、以下のとおり、原審判断(=第1審判決の結論を是認し、控訴棄却とした判断)を是認している。

 前記事実関係によれば,本件決定において7割評価通達及び時点修正通知を適用して評定された標準宅地甲及び標準宅地乙の価格は,各標準宅地の平成6年1月1日における客観的な交換価値を上回るところ,同日における各標準宅地の客観的な交換価値と認められる前記2⑹の価格〔標準宅地甲につき、1㎡当たり8,906,028円、同乙につき、1㎡当たり5,300,000円)に基づき,評価基準にのっとって,本件各土地の価格を算定すると,前記2⑺の各価格〔本件土地1につき、1,074,479,380円、同2につき、10,787,810円〕となるというのである。
そうすると,本件決定〔本件土地1につき、1,098,901,690円、同2につき、11,033,010円〕のうち前記各価格を上回る部分には,賦課期日における適正な時価を超える違法があり,同部分を取り消すべきものであるとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

これに関連する最高裁の判例が、幾つかある。

(1) 最二判H16.10.29

まず、不動産取得税についても同様に解すべきとしたのが、これ。

「地方税法73条の21第2項に規定する不動産について同項により決定されるべき『不動産取得税の課税標準となるべき価格』すなわち,当該不動産を取得した時における適正な時価とは,その時における客観的な交換価値をいう。」と判示している。

(2) 最二判H17.7.11(民集59-6-1197)

次に、その時における「客観的な交換価値」を超えている場合の取消の範囲も一応問題となるが、この点について判示したのが、これ。

最一判H15.6.26の原審(=第1審)と同様、「同決定のうち上記の適正な時価等を超える部分を取り消せば足りる」と判示した。

(3) 最二判H18.7.7

なお、「適正な時価」につき、収益還元価格によって算定されなければならない(原判決)とはいえず、その価格以下にとどまるものでなければ「正常な条件の下に成立したものとはいえない」ともいえないとしたもの。当然といえば当然のようにも思われるが、原審が断言してしまったため、最高裁で取り上げたものである。


まあ、今ではほぼ使えない基準である。
そこで、次の基準が出てくる。

2.登録価格>評価基準によって決定される価格→違法

 イ また,地方税法は,固定資産税の課税標準に係る固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣(平成13年1月5日以前は自治大臣。以下同じ。)の告示に係る評価基準に委ね(388条1項),市町村長は,評価基準によって,固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(403条1項)。これは,全国一律の統一的な評価基準による評価によって,各市町村全体の評価の均衡を図り,評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消するために,固定資産の価格は評価基準によって決定されることを要するものとする趣旨であると解され(前掲最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決参照),これを受けて全国一律に適用される評価基準として昭和38年自治省告示第158号が定められ,その後数次の改正が行われている。これらの地方税法の規定及びその趣旨等に鑑みれば,固定資産税の課税においてこのような全国一律の統一的な評価基準に従って公平な評価を受ける利益は,適正な時価との多寡の問題とは別にそれ自体が地方税法上保護されるべきものということができる。
したがって,【土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格】が【評価基準によって決定される価格】を上回る場合には,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず,その登録価格の決定は違法となるものというべきである。

重ねて、上記1の判断基準(一々「客観的な交換価値としての適正な時価」を算定することが面倒!)を無力化するため(かどうかはさて措き)、まずは上記2で評価すべきことを宣言する。画期的な判例法理の転換である(たぶん)。

 ウ そして,地方税法は固定資産税の課税標準に係る適正な時価を算定するための技術的かつ細目的な基準の定めを総務大臣の告示に係る評価基準に委任したものであること等からすると,①評価対象の土地に適用される評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり,かつ,②【当該土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格】が【その評価方法に従って決定された価格】を上回るものでない場合には,その登録価格は,③その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存しない限り,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当である(最高裁平成11年(行ヒ)第182号同15年7月18日第二小法廷判決・裁判集民事210号283頁,最高裁平成18年(行ヒ)第179号同21年6月5日第二小法廷判決・裁判集民事231号57頁参照)。

最二判H15.7.18

 (1) 【要旨】伊達市長は,本件建物について評価基準に定める総合比準評価の方法に従って再建築費評点数を算出したところ,この評価の方法は,再建築費の算定方法として一般的な合理性があるということができる。
また,評点1点当たりの価額1.1円は,家屋の資材費,労務費等の工事原価に含まれない設計監理費,一般管理費等負担額を反映するものとして,一般的な合理性に欠けるところはない。
そして,鉄骨造り(骨格材の肉厚が4㎜を超えるもの)の店舗及び病院用建物について評価基準が定める経年減点補正率は,この種の家屋について通常の維持管理がされた場合の減価の手法として一般的な合理性を肯定することができる。
そうすると,伊達市長が本件建物について評価基準に従って決定した前記価格は,評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り,その適正な時価であると推認するのが相当である。
 (2) F鑑定書が採用した評価方法は,評価基準が定める家屋の評価方法と同様,再建築費に相当する再調達原価を基準として減価を行うものであるが,原審は,F鑑定書の算定した本件建物の1㎡当たりの再調達原価〔1㎡当たり12万8000円〕及び残価率〔39分の20〕を相当とする根拠を具体的に明らかにしていないため,原審の前記説示から直ちに上記特別の事情があるということはできない。
そして,原審は,上記特別の事情について他に首肯するに足りる認定説示をすることなく,本件建物の適正な時価が2606万円程度を超えるものではないと判断したものであり,その判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。
そして,本件決定の適否について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

最二判H21.6.5

(1) 本件各市街化区域農地について
 ア 〔略〕
 イ 地方税法附則19条の2第1項は,上記アのことなどから,市街化区域農地の適正な時価は,一般に,これに状況が類似する宅地の適正な時価に準じた水準に課税の公平及び市街化区域における宅地の供給の促進のあるとの理解に基づいて,対して課する固定資産税の課税標準となるべき価格に見地から,市街化区域農地については,当該市街化区域農地とその状況が類似する宅地の固定資産税の課税標準とされる価格に比準する価格によって定められるべき旨を規定していると解される。評価基準所定の市街化区域農地の評価方法は,上記規定に従うものであり,市街化区域農地の適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものということができる。
また,前記事実関係等によれば,評価要領は,評価基準所定の上記評価方法を前提として,市街化区域農地と状況が類似する宅地の価格を算定する際その評点数を市街地宅地評価法により付設する旨を定めるとともに,市街化区域農地を宅地に転用する場合に通常必要と認められる造成費相当額を具体的に定めるものであって,その定める市街化区域農地の評価方法は,評価基準の定めを具体化するものとして一般的な合理性があるということができる。
 そうすると,西宮市長が決定した本件各市街化区域農地の前記各価格は,評価基準及び評価要領に従って決定されたものと認められる場合には,≪それらの定める評価方法によっては本件各市街化区域農地の価格を適切に算定することのできない特別の事情≫の存しない限り,その適正な時価であると推認するのが相当である。
 前記アの事情は本件区域内の市街化区域農地にももとより妥当し,また,本件区域内の市街化の程度は本件区域内の宅地の価格にも反映されることに照らせば,前記2(4)の事実関係等からうかがわれる本件区域全体の市街化の程度,見込みのみ宅地に準じた価格で取引をもって直ちに,本件区域内の市街化区域農地が一般的にされる状況にないということはできず,≪評価基準及び評価要領所定の前記評価方法によっては本件各市街化区域農地の価格を適切に算定することのできない特別の事情≫があるということはできない。

(2) 本件各原野及び本件各雑種地について
 評価基準所定の近傍地比準方式は,市町村内に原野又は雑種地の売買実例価額がない場合における原野又は雑種地の適正な時価を算定する方法として,一般的な合理性があるということができるから,西宮市長が決定した本件各原野及び本件各雑種地の前記各価格は,①評価要領所定の本件各土地が所在する地区の市街化区域内の原野及び雑種地に係る前記各評価方法が評価基準所定の近傍地比準方式を具体化したものとして一般的な合理性を有するものということができ,かつ,②上記各価格がこれに従って決定されたものと認められる場合には,③上記評価方法によっては本各件各原野及び本件各雑種地の価格を適切に算定することのできない特別の事情の存しない限り,その適正な時価であると推認するのが相当である。(※ここまでは、上記(1)についての判断基準を踏襲したものである。)

 市街化区域に在る原野及び雑種地は,前記(1)アのように宅地化の需要が生じやすい区域に在る上に,宅地への転用については市街化区域農地のように農地法による規制を受けることもなく,宅地への転用が容易であり,宅地に転用される可能性が高い土地ということができる。
そして,本件区域内の原野及び雑種地についても上記事情が妥当し,本件区域内の市街化の程度は本件区域内の宅地の価格に反映されることに照らせば,前記2(4)の事実関係等からうかがわれる本件区域全体の市街化の程度,見込みのみから直ちに,本件区域内の原野及び雑種地が一般的に宅地に準じた価格で取引される状況になく,付近の宅地の単価を基礎としてその価格を求める旨を定める評価要領所定の前記各評価方法が評価基準所定の近傍地比準方式に反するもの〔①〕ということはできず,また,評価基準所定の近傍地比準方式によっては本件各原野及び本件各雑種地の価格を適切に算定することのできない特別の事情〔③〕があるということもできない。

 (3) そうすると,原審は,他に首肯するに足りる認定説示をすることなく,西宮市長が決定した本件各土地の前記各価格がその適正な時価を上回るとして,本件各決定のうち本件各土地に係る部分を取り消すべきものとした
ものであり,その判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。

3.上記1と2の関係

そして、最二判H25.7.12は、以上の基準を以下のとおり総括しており、これが判例法理の集大成といえる。

 エ 以上に鑑みると,土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは,当該登録価格が,① 当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るとき(上記イの場合)であるか,あるいは,② これを上回るものではないが,その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく,又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合(上記ウの推認が及ばず,又はその推認が覆される場合)であって,同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るとき(上記アの場合)であるということができる。

つまり、上記①(2.)を主張する場合には、最二判H25.7.12のみを参照すれば足り、上記②(1.)を主張する場合には、もはや最一判H15.6.26のみでは足りないということになろう(最二判H25.7.12の千葉補足意見参照)。

なお、その後、最高裁において固定資産評価(審査)決定の違法が争われた類型は、いずれも上記①の類型のようであり、最二判H25.7.12のみを参照している。

(1) 最三判H30.7.17

「固定資産課税台帳に登録された土地の価格について,当該土地に接する街路が建築基準法42条1項3号所定の道路に該当する旨の市長の判定がされていること等を理由に上記街路が同号所定の道路に該当することを前提とする上記価格の決定は適法であるとした原審の判断に違法があるとされた事例」である。

要約すると、
①(大前提~その1)「評価基準は,土地の価額の算出に当たり,接道義務に関する当該土地の利用上の制約の有無及び程度を反映するため,これが街路に接しているか否か,接している場合には当該街路が42条道路に該当するか否かについても考慮すべきこととしているものと解される。」(京都市評価要領についても同旨)
②(大前提~その2)「3号道路該当性に関する京都市長の道路判定は,事実上の確認行為にすぎないというべきであり,当該道が3号道路に該当し,又は該当しないことを確定する効果を持つ行政処分の性質を有するものではないと解される。」(「京都市長は,ある道が42条道路に該当するか否かについて判定の依頼があったときは,これを調査した上で判定をし,建築指導課は,道路判定の内容を道路縦覧図に表示している」ところ、この「判定」を、本判決では「道路判定」と定義している。)
 「本件街路が3号道路に該当するか否かは,昭和25年11月23日時点で本件街路が幅員4m以上の道として存在した事実が客観的に認められるか否かにより定まる以上,このような事実が認められず,本件街路が3号道路に該当するということができない場合には,本件道路判定がされていても,建築主事等は,本件各土地が3号道路に接していることを前提とした建築確認をすることはできない。」
③(結論)「本件街路が3号道路に該当するための要件を満たすか否かは明らかでないとしながら,本件道路判定がされていること等を理由に,建築確認を受けることができないために本件各土地上に建築物を建築することができない事態となる可能性はないとして,本件街路が3号道路に該当することを前提とする本件登録価格の決定は適法であるとした原審の判断には,固定資産の評価等に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。」

結論として、「本件街路が3号道路に該当すると認められるか否か本件登録価格が評価基準によって決定される本件各土地の価格を上回らないか否か等について更に審理を尽くさせるため」、原審に差し戻している。

(2) 最三判H31.4.9

「固定資産課税台帳に登録された土地の価格について,当該土地が調整池の用に供されその機能を保持することが商業施設に係る開発行為の許可条件になっていることを理由に地目を宅地と認定するなどして算出された上記価格が固定資産評価基準によって決定される価格を上回るものではないとした原審の判断に違法があるとされた事例」である。

要約すると、
①(大前提)「評価基準は,土地の地目の別に評価の方法を定め,これに従って土地の評価をすべきこととし,上記地目は,当該土地の現況及び利用目的に重点を置き,土地全体としての状況を観察して認定することとしている。そして,上記地目のうち宅地とは,建物の敷地のほか,これを維持し,又はその効用を果たすために必要な土地をも含むものと解される。 」
②(小前提)「上記条件に従って調整池の用に供されていることから直ちに,本件各土地が本件商業施設の敷地を維持し,又はその効用を果たすために必要な土地であると評価することはできないというべきである。」
③(結論)「本件商業施設に係る開発行為に伴い本件各土地が調整池の用に供されており,その調整機能を保持することが上記開発行為の許可条件になっていることを理由に,本件土地1の面積の80%以上に常時水がたまっていることなど,本件各土地の現況等について十分に考慮することなく,本件各土地は宅地である本件商業施設の敷地を維持するために必要な土地であるとして,前記2(3)アのとおり算出された本件各登録価格が評価基準によって決定される本件各土地の価格を上回るものではないとした原審の判断には,固定資産の評価に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。」

結論として、「本件各土地のそれぞれの現況,利用目的等に照らし,本件各登録価格が評価基準によって決定される本件各土地の価格を上回らないか否かについて更に審理を尽くさせるため」、原審に差し戻している。

なお、差戻審は、本件各土地につき、本件土地1については池沼、同2については雑種地と認定した上で、「本件登録価格1は、結果的に評価基準によって決定される価格を上回るものとはいえないが、本件登録価格2は、評価基準によって決定される価格を上回る」と判断した(その上で、本件登録価格1につき、さらに「適正な時価」を上回るものではないと推認されるとして、その取消請求には理由がないとした)。

(3) 最一判R2.3.19(民集74-3-227) 

「 固定資産評価基準により隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定して画地計算法を適用する場合における各筆の宅地の評点数の算出方法」について判示したものである。

上記(1)及び(2)(いずれも第三小法廷の判断)は、要するに、「評価基準によって決定される本件各土地の価格」の算定についての原審の判断に誤りがあるとしたものであるのに対し、こちら(と次の(4))は「」であり、「評価基準によっていない」との原審判断を否定し、評価基準によって決定されたものであるとしている。

「評価基準の定める評価方法」という文言は、最二判H25.7.12のほか、その後の第一小法廷の判示において繰り返し出てくる(第三小法廷の上記(1)、(2)の判示には見られない)。

(4) 最一判R4.3.3

「固定資産課税台帳に登録されたゴルフ場用地の価格が固定資産評価基準の定める評価方法に従って算定されたものということができないとした原審の判断に違法があるとされた事例」である。

最二判H25.7.12を参照した上で、「本件登録価格が評価基準の定める評価方法に従って算定されたものということができるか否かが問題となる。」としている。

(5) 最一判R4.9.8

「固定資産課税台帳に登録された土地の価格についての審査の申出を棄却する旨の審査の決定をした固定資産評価審査委員会の委員に職務上の注意義務違反が認められないとした原審の判断に違法があるとされた事例」である。

すなわち、原審は、①「本件各土地の造成に当たり土工事をほとんど要しないにもかかわらず丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いることは、評価基準の定める評価方法に従ったものとはいえず、本件登録価格は評価基準によって決定される価格を上回る」として、上告人の本件決定の取消請求を一部認容すべきものとする一方、②「本件委員会の委員に職務上の注意義務違反があったと認めることはできない」として、いわゆる「違法だけど過失はない」判断をしたのに対し、②の判断を否定し、「更に審理を尽くさせるため」、原審に差し戻した。

なお、本判決においては、「土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、その登録価格の決定は違法となるところ(最高裁平成24年(行ヒ)第79号同25年7月12日第二小法廷判決・民集67巻6号1255頁参照)」とした上で、「本件決定は、前記2ウのとおり、本件各土地の取得価額につき山林比準方式を用いて評定する以上、整合性の観点から、丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いて造成費を評定することが合理的である旨の理由によったものであり、本件各土地につき必要な土工事の程度を考慮することなく上記の額を用いて造成費を評定し得るとの見解に立脚した点において、評価基準の解釈適用を誤ったものということができる。」としている(その上で、「上記アの見解に相当の根拠はない」と断じている)。


※この点に関する原審及び原々審の判断は、以下のとおり。

◆第1審判決(神戸地判R2.11.5)

 実費ではなく当該不動産の実情を踏まえて算出される取得価額と造成費について、その算出根拠の整合を図るべきであるとの解釈それ自体には一定の合理性が認められるのであって、かかる解釈に基づいてされた本件決定について、本件委員会の委員に職務上の注意義務違反があったと認めることはできない。

◆控訴審判決(大阪高判R3.6.11)

 本件決定の趣旨は、取得価額と造成費の算定に当たり、取得価額について山林素地の価額を基準とするのであれば、造成費についても、丘陵地帯ないしは山林のすそ野の造成を前提とする丘陵コースの平均的造成費を用いることが、両者の算出の前提とする土地の地理的性質として整合性のとれた評価になることから、取得価額について山林素地の価額を基準として算出した本件各土地の造成費については、丘陵コースの平均的造成費を用いるべきであるというものであると解される。
そして、取得価額と造成費について、評価基準の「付近の土地の価額又は最近における造成費から評定した価額」による場合には、いずれも当該ゴルフ場用地の性質を踏まえたものであるべきことからすると、両者を算定するに当たって、その前提とする土地の地理的性質の整合を図るべきであるとの上記の解釈それ自体には一定の合理性が認められる。
また、その場合に、両者の整合を図る方法として、取得価額について山林素地の価額を基準とすることは1審原告も異論を述べていないことからこれを優先し、これに整合するように造成費について丘陵コースの平均的造成費を用いることとすることにも、一定の合理性が認められる。
 ところで、このような本件決定の考え方は、平成29年通知におけるコース区分を専ら地理的性質によって判定する前提に立つものということができ、そのために、取得価額として山林素地の価額を基準とする場合には、同じ地理的性質を有する丘陵コースの平均的造成費を組み合わせるべきであるとしたものといえるが、前記2(1)のとおり、本件各土地のように地理的性質と造成費の大小が連動しない特殊性がある場合には、造成費の大小の観点を重視して平成29年通知を適用すべきであるから、この点において、本件決定の考え方は採用できない。しかし、このような特殊な場合の平成29年通知の適用上の取扱いについては、確たる先例があるともうかがわれず上記のような本件決定の考え方にも一定の合理性が認められることからすると、本件委員会が上記のような考え方の下に本件決定をしたからといって、本件委員会の委員に職務上の注意義務違反があったと認めることはできない。

この手の判断においてよく見そうな判示である。
これに対し、これをひっくり返した「第一小法廷の」(!!)判断は以下のとおり。

◆最高裁(最一判R4.9.8)

 本件定めにおいては、評価の対象となるゴルフ場用地の造成費は、実際に要する造成費の額が不明であるなどの場合には、代替的に、最近における造成費から評定した価額によるべきものとされており、その趣旨に照らせば、平均的ないし類型的にであっても、必要な工事の程度に応じた評定が予定されているものと解すべきことは明らかである
 また、前記2⑴イのとおり、評価基準第1章第10節二において、ゴルフ場用地の取得価額と造成費は、飽くまでも別個に評定すべきものとされている。前記2によれば、本件定めの解釈適用に係る参考資料と位置付け得るゴルフ場通知や解説においても、ゴルフ場用地の取得価額については、周辺地域の大半が宅地化されているか否かにより、その評定の方法が決まるものとされている一方、ゴルフ場用地の造成費については、必要な土工事の程度等に応じた評定を予定していることがうかがわれる記述がみられる。少なくとも、これらの資料に、取得価額の評定の方法に応じて造成費の評定の方法が直ちに決まることをうかがわせる記述はみられない
 このほか、本件決定が立脚した上記アの見解に沿う先例や文献等の存在もうかがわれない
 そうすると、上記アの見解に相当の根拠はないというべきである。







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