最高裁判例について整理。
最二判H25.7.12が集大成か。
1.登録価格>客観的な交換価値→違法
嚆矢は、最一判H15.6.26である。当該事案は、平成5年1月1日から同6年1月1日までに30%超の価格の下落があった時代の話である。
結論は、以下のとおり、原審判断(=第1審判決の結論を是認し、控訴棄却とした判断)を是認している。
これに関連する最高裁の判例が、幾つかある。
まず、不動産取得税についても同様に解すべきとしたのが、これ。
「地方税法73条の21第2項に規定する不動産について同項により決定されるべき『不動産取得税の課税標準となるべき価格』すなわち,当該不動産を取得した時における適正な時価とは,その時における客観的な交換価値をいう。」と判示している。
次に、その時における「客観的な交換価値」を超えている場合の取消の範囲も一応問題となるが、この点について判示したのが、これ。
最一判H15.6.26の原審(=第1審)と同様、「同決定のうち上記の適正な時価等を超える部分を取り消せば足りる」と判示した。
なお、「適正な時価」につき、収益還元価格によって算定されなければならない(原判決)とはいえず、その価格以下にとどまるものでなければ「正常な条件の下に成立したものとはいえない」ともいえないとしたもの。当然といえば当然のようにも思われるが、原審が断言してしまったため、最高裁で取り上げたものである。
まあ、今ではほぼ使えない基準である。
そこで、次の基準が出てくる。
2.登録価格>評価基準によって決定される価格→違法
重ねて、上記1の判断基準(一々「客観的な交換価値としての適正な時価」を算定することが面倒!)を無力化するため(かどうかはさて措き)、まずは上記2で評価すべきことを宣言する。画期的な判例法理の転換である(たぶん)。
【最二判H15.7.18】
【最二判H21.6.5】
3.上記1と2の関係
そして、最二判H25.7.12は、以上の基準を以下のとおり総括しており、これが判例法理の集大成といえる。
つまり、上記①(2.)を主張する場合には、最二判H25.7.12のみを参照すれば足り、上記②(1.)を主張する場合には、もはや最一判H15.6.26のみでは足りないということになろう(最二判H25.7.12の千葉補足意見参照)。
なお、その後、最高裁において固定資産評価(審査)決定の違法が争われた類型は、いずれも上記①の類型のようであり、最二判H25.7.12のみを参照している。
「固定資産課税台帳に登録された土地の価格について,当該土地に接する街路が建築基準法42条1項3号所定の道路に該当する旨の市長の判定がされていること等を理由に上記街路が同号所定の道路に該当することを前提とする上記価格の決定は適法であるとした原審の判断に違法があるとされた事例」である。
要約すると、
①(大前提~その1)「評価基準は,土地の価額の算出に当たり,接道義務に関する当該土地の利用上の制約の有無及び程度を反映するため,これが街路に接しているか否か,接している場合には当該街路が42条道路に該当するか否かについても考慮すべきこととしているものと解される。」(京都市評価要領についても同旨)
②(大前提~その2)「3号道路該当性に関する京都市長の道路判定は,事実上の確認行為にすぎないというべきであり,当該道が3号道路に該当し,又は該当しないことを確定する効果を持つ行政処分の性質を有するものではないと解される。」(「京都市長は,ある道が42条道路に該当するか否かについて判定の依頼があったときは,これを調査した上で判定をし,建築指導課は,道路判定の内容を道路縦覧図に表示している」ところ、この「判定」を、本判決では「道路判定」と定義している。)
「本件街路が3号道路に該当するか否かは,昭和25年11月23日時点で本件街路が幅員4m以上の道として存在した事実が客観的に認められるか否かにより定まる以上,このような事実が認められず,本件街路が3号道路に該当するということができない場合には,本件道路判定がされていても,建築主事等は,本件各土地が3号道路に接していることを前提とした建築確認をすることはできない。」
③(結論)「本件街路が3号道路に該当するための要件を満たすか否かは明らかでないとしながら,本件道路判定がされていること等を理由に,建築確認を受けることができないために本件各土地上に建築物を建築することができない事態となる可能性はないとして,本件街路が3号道路に該当することを前提とする本件登録価格の決定は適法であるとした原審の判断には,固定資産の評価等に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。」
結論として、「本件街路が3号道路に該当すると認められるか否か,本件登録価格が評価基準によって決定される本件各土地の価格を上回らないか否か等について更に審理を尽くさせるため」、原審に差し戻している。
「固定資産課税台帳に登録された土地の価格について,当該土地が調整池の用に供されその機能を保持することが商業施設に係る開発行為の許可条件になっていることを理由に地目を宅地と認定するなどして算出された上記価格が固定資産評価基準によって決定される価格を上回るものではないとした原審の判断に違法があるとされた事例」である。
要約すると、
①(大前提)「評価基準は,土地の地目の別に評価の方法を定め,これに従って土地の評価をすべきこととし,上記地目は,当該土地の現況及び利用目的に重点を置き,土地全体としての状況を観察して認定することとしている。そして,上記地目のうち宅地とは,建物の敷地のほか,これを維持し,又はその効用を果たすために必要な土地をも含むものと解される。 」
②(小前提)「上記条件に従って調整池の用に供されていることから直ちに,本件各土地が本件商業施設の敷地を維持し,又はその効用を果たすために必要な土地であると評価することはできないというべきである。」
③(結論)「本件商業施設に係る開発行為に伴い本件各土地が調整池の用に供されており,その調整機能を保持することが上記開発行為の許可条件になっていることを理由に,本件土地1の面積の80%以上に常時水がたまっていることなど,本件各土地の現況等について十分に考慮することなく,本件各土地は宅地である本件商業施設の敷地を維持するために必要な土地であるとして,前記2(3)アのとおり算出された本件各登録価格が評価基準によって決定される本件各土地の価格を上回るものではないとした原審の判断には,固定資産の評価に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。」
結論として、「本件各土地のそれぞれの現況,利用目的等に照らし,本件各登録価格が評価基準によって決定される本件各土地の価格を上回らないか否かについて更に審理を尽くさせるため」、原審に差し戻している。
なお、差戻審は、本件各土地につき、本件土地1については池沼、同2については雑種地と認定した上で、「本件登録価格1は、結果的に評価基準によって決定される価格を上回るものとはいえないが、本件登録価格2は、評価基準によって決定される価格を上回る」と判断した(その上で、本件登録価格1につき、さらに「適正な時価」を上回るものではないと推認されるとして、その取消請求には理由がないとした)。
「 固定資産評価基準により隣接する2筆以上の宅地を一画地として認定して画地計算法を適用する場合における各筆の宅地の評点数の算出方法」について判示したものである。
上記(1)及び(2)(いずれも第三小法廷の判断)は、要するに、「評価基準によって決定される本件各土地の価格」の算定についての原審の判断に誤りがあるとしたものであるのに対し、こちら(と次の(4))は「逆」であり、「評価基準によっていない」との原審判断を否定し、評価基準によって決定されたものであるとしている。
「評価基準の定める評価方法」という文言は、最二判H25.7.12のほか、その後の第一小法廷の判示において繰り返し出てくる(第三小法廷の上記(1)、(2)の判示には見られない)。
「固定資産課税台帳に登録されたゴルフ場用地の価格が固定資産評価基準の定める評価方法に従って算定されたものということができないとした原審の判断に違法があるとされた事例」である。
最二判H25.7.12を参照した上で、「本件登録価格が評価基準の定める評価方法に従って算定されたものということができるか否かが問題となる。」としている。
「固定資産課税台帳に登録された土地の価格についての審査の申出を棄却する旨の審査の決定をした固定資産評価審査委員会の委員に職務上の注意義務違反が認められないとした原審の判断に違法があるとされた事例」である。
すなわち、原審は、①「本件各土地の造成に当たり土工事をほとんど要しないにもかかわらず丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いることは、評価基準の定める評価方法に従ったものとはいえず、本件登録価格は評価基準によって決定される価格を上回る」として、上告人の本件決定の取消請求を一部認容すべきものとする一方、②「本件委員会の委員に職務上の注意義務違反があったと認めることはできない」として、いわゆる「違法だけど過失はない」判断をしたのに対し、②の判断を否定し、「更に審理を尽くさせるため」、原審に差し戻した。
なお、本判決においては、「土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、その登録価格の決定は違法となるところ(最高裁平成24年(行ヒ)第79号同25年7月12日第二小法廷判決・民集67巻6号1255頁参照)」とした上で、「本件決定は、前記2ウのとおり、本件各土地の取得価額につき山林比準方式を用いて評定する以上、整合性の観点から、丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いて造成費を評定することが合理的である旨の理由によったものであり、本件各土地につき必要な土工事の程度を考慮することなく上記の額を用いて造成費を評定し得るとの見解に立脚した点において、評価基準の解釈適用を誤ったものということができる。」としている(その上で、「上記アの見解に相当の根拠はない」と断じている)。
※この点に関する原審及び原々審の判断は、以下のとおり。
◆第1審判決(神戸地判R2.11.5)
◆控訴審判決(大阪高判R3.6.11)
この手の判断においてよく見そうな判示である。
これに対し、これをひっくり返した「第一小法廷の」(!!)判断は以下のとおり。
◆最高裁(最一判R4.9.8)