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息子たちへの手紙ー上の息子へ

あなたのいる国ではもうすぐ外出制限が一時解除になるけれど、あなたの毎日はどうですか。変わりありませんか。

本当なら今頃は学年の終わりに向けてラストスパートで、山ほどある学年末試験を見据えた最後の学期、大変な時期だったのではないかと思います。同時にあなたは今年夏の休暇に久しぶりに日本に帰ってくることを予定していて、その旅行計画と準備に忙しくも楽しみな気分であったでしょう。

新型コロナウィルスの名を耳にしたころは私たちはまだ楽観的だった。夏までには何とかならないかな、と思っていた。でも今、その予定はもはや砂の城のようです。COVID-19が世界に広がり始め、この戦いの真っただ中で勝算が見えてもいない今、どうやらこの夏はあなたに会えなさそうだという諦念を母は感じ始めています。

その残念さよりも今さらに強く案じていることは、あなたが学生でいる予定はあと1年で、来年の夏にはあなたは社会に出ていくはずであること。COVID-19のワクチンなり特効薬が運よく開発されているのか、それともまだ開発中なのか、あるいは人類が太刀打ちできるのかどうかすら不確かな、そんな時期に。

講義がオンラインでしか進められない現状下、実際にはあなたの学生生活はもう少し長くなるのかもしれない。今はっきりしたことは何も言えない。であったとしても、あなたが社会に出ていく時期はたぶんまだ「with COVID-19期」で、この事態は収束していないだろう、と母は見ています。そんな状況の中で、この先生きていくために、あなたが社会に差し出して報酬を受け取ることができそうな何か=仕事を、どうやって見つけ出すことができるのか、そのことを案じています。

いま私たちは、奇妙な薄暗いリンボ(辺獄)のような場所にいる。(そう、『インセプション』を思い出してみて)疫病の蔓延という先の見えない霧に覆われて、出口がよく見えない、広さもよくわからないような場所。外出禁止令の不便と引き換えに、寄りどころのない時間が詰め込まれた繭のような時間。あなたは私たちと遠く離れた場所で、一人きりでこの繭の中で過ごしている。

今うっすら見えそうな気がする出口の外の景色は、あんまり光に満ちた世界の気配はしない。疫病によって経済が破壊され、富の差による社会の分断が進んでいるような、人との物理的距離の取り方がすっかり変わってしまって、これまでの社会生活の形をすべて変えていかなくてはならないような、そんな雰囲気の世界。あなたはどう感じていますか。

「with COVID-19期」に続いて「after COVID-19期」がやってくる。それは、私たちが今までの日常では目にしたことがなかったような、違う規則に支配された別の世界になるのかもしれません。その中でサバイバルするために「with COVID-19期」の新卒となるあなたには、まるで違う視点からの戦略がきっと必要になる。だから、その心の準備をどうか今から始めてほしい。想像力を駆使してください。まずは生きて、リンボから外に出ていけるように。


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