【特別対談 #8 YAU TEN Talk Session】Vegetable Record × 川口真沙美(JDP/GOOD DESIGN Marunouchi) × 中森葉月(三菱地所) 2022.05.21
写真左より三菱地所の中森葉月氏、Vegetable RecordのSyotaro HayashiとRyota Mikami、JDP/GOOD DESIGN Marunouchiの川口真沙美氏。
音楽レーベル「Vegetable Record」の共同代表兼アーティスト、Syotaro HayashiとRyota Mikamiによる「音楽を使った空間デザイン」「サイトスペシフィックミュージック」などについての特別対談の番外編。
有楽町アートアーバニズムプログラム「YAU(ヤウ)」の成果展「YAU TEN」。そのプログラムのひとつ「Talk Session」にVegetable RecordのSyotaro HayashiとRyota Mikamiが登壇。第8回目は「音楽による都市空間デザインの可能性」について、JDP/GOOD DESIGN Marunouchiの川口真沙美さん、三菱地所の中森葉月さん、株式会社フロントヤードの長谷川隆三さん(後半、客席より参加)とお話しました。
YAU TEN / ヤウテン
有楽町アートアーバニズムプログラム「YAU(ヤウ)」の成果展。YAUとは、「YURAKUCHO ART URBANISM」の略称であり、「アート」と「アーバニズム」を掛け合わせた造語。⼀般社団法⼈⼤⼿町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会では、都市空間創造や都市活動展開を⼀体化させる新しい街のムーブメントを「アートアーバニズム」として始動することを提⾔し、既成の枠を超えるクリエイティブな感性を秘めたアーティストたちが、ビジネス街という場と出会うことから⽣まれる新たな潮流を、⼤丸有エリアで実現させるコンセプトとして策定。「YAU」はその実証パイロットプログラムであり、⼤丸有エリアの⽴地企業などによるアーティストの持続的な⽀援を通して、⼤丸有エリアにおけるイノベーションを誘発する仕組みの構築を⽬的として2022年2⽉から取り組まれています。
Vegetable Record / ベジタブルレコード
「音楽の新しい楽しみ方・価値観を創る」をコンセプトに掲げた、音楽レーベル。ソロアーティストのSyotaro HayashiとRyota Mikamiにより設立。デジタル/商業空間/プロダクトなどあらゆる対象を、CD/カセット/レコードと同じ音楽のメディアとして捉え、建築空間やプロダクトに対して音楽作品をリリースするように「音楽を使った空間デザイン」「音楽を使ったプロダクトデザイン」などを手がけています。
中森:本日はJDP/GOOD DESIGN Marunouchiの川口真沙美さん、ベジタブルレコードの三上さんと林さんをお迎えしまして「音楽による都市空間デザインの可能性」についてお話しいただきます。よろしくお願いいたします。
川口・林・三上:よろしくお願いいたします。
GOOD DESIGN Marunouchiについて
川口:JDP(日本デザイン振興会)の川口と申します。実はまだベジタブルレコードさんと一緒にお仕事はしたことが無いのですが、私共が運営しているGOOD DESIGN Marunouchiというギャラリースペースの企画展示案の公募企画に、昨年ベジタブルレコードさんからご応募いただいたんですね。残念ながら実現化はしなかったのですが、なにか継続的に街の中で音楽のデザインをインストールしていく可能性がないか、というお話を三菱地所さんも交えてしておりまして、本日はこの場を借りてそのお話の続きができればと思っております。
GOOD DESIGN Marunouchiは2015年10月に新国際ビルの1Fにオープンしました。日本デザイン振興会が主催しているグッドデザイン賞は、おそらくGマークで認識いただいてる方も多いかと思います。ありとあらゆるデザイン、物だけではなくて、取り組みやビジネスモデルなど、様々なデザインの中から審査員が選出して、グッドデザイン賞が決まります。審査で新しいデザインを発見して、それを社会で共有することで新しい次の創造が生まれるようにしていく、世の中をデザインで前進させていくことを目指している活動です。その中でも、共有と創造というのがとても重要で、世の中にいいデザインを共有し、次の新しいデザインを生んでいくということを振興しているのが私共の団体です。
ギャラリーではもちろんグッドデザイン賞を受賞したデザインのご紹介もしますが、それ以外にも「デザインと人」「デザインと社会」を繋ぐような、コミュニケーションハブのような存在になればいいなと考えております。身の回りや社会の問題に対して、デザインを使ってどんな未来が描けるのか、ということを気づいてもらえるような場所にしたいと思っています。
具体的にはグッドデザイン賞の関連展示や、コロナ前はトークイベントなども開催していました。他にも、すみだ水族館の金魚屋台やSONYのMESHを使ったお子様向けのワークショップ、ALSの啓蒙をしている団体とのデッサン会、アンサンブルズ東京さんの大友さんのライブなど、あとは有楽町の夜を街歩きして地図を作るイベント「有楽町夜大学」をエコッツェリアさんと実施していて、今年1月はYAUの関連施設の視察も行いました。
Vegetable Recordについて
三上:ベジタブルレコードは「音楽の新しい楽しみ方・価値観を創る」をコンセプトに掲げた、音楽レーベル(ユニット)です。僕たちは、あらゆる対象をCDなどと同じ音楽のメディアとして捉え、アート・デザイン・エンターテインメントなど、様々な領域を横断しながら音楽作品を発表しています。また、制作テーマとして、現代アートの「サイトスペシフィック・アート」と同じように、その場所ならではのユニークなポイントを活かした音楽「サイトスペシフィック・ミュージック」を目指しています。
その中でも力を入れていることが「音楽を使ったデザイン」です。グラフィック、テキスタイル、ロゴ、建築、照明、ファッション、インテリア、プロダクト、音(サウンド)、Webなど、さまざまなデザインを目にしますが、「音楽(ミュージック)」はデザインの文脈で語られることがまだまだ少ないように感じています。
僕たちは商業空間やプロダクトなど、あらゆる対象を、CDなどと同じ「音楽のメディア」の1つとして捉え、空間やプロダクトに対して音楽作品をリリースするように「音楽を使った空間デザイン」「音楽を使ったプロダクトデザイン」などを手がけています。そして、空間やものを構成する重要なデザイン要素として楽曲を捉えた、機能的で美しい音楽を追求しています。
複数の音楽・スピーカーを使った空間デザイン
Songs for アマネク別府
三上:トークテーマに沿った事例をいくつかご紹介させていただきます。
アマネク別府ゆらりとアマネクイン別府の館内音楽「Songs for アマネク別府」では、別府の竹細工の緻密な組み合わせや、地獄めぐりの色とりどりの湯から立ち上る湯けむりを音楽で表現しました。
1Fの天井スピーカー、屋上スピーカー、小型スピーカー14台と、合計15曲(バリエーションも含めると合計29曲)を使って「アマネク別府ゆらり」「アマネクイン別府」館内全体を音楽メディアと捉えて、デザイン・演出しています。
Songs for 流山おおたかの森S・C FLAPS
流山おおたかの森S・C FLAPSのテラス音楽「Songs for 流山おおたかの森S・C FLAPS」では、シーリングスピーカーからはベースとなる楽曲、テラス各所に設置したスピーカーからは各フロアに合わせた6種類の音楽を再生。フロアを上がるごとに音色の重なりが変化して、テラスを駆け上がるのが楽しくなるような、建物や場所の特性を活かした音楽を作りました。
シーリングスピーカーからは、音あつめワークショップの参加者がフィールドレコーディングした音も散りばめられています。6種類の楽曲は尺や音色が異なりますが、調性(音楽のキー)は合わせているので、不協和音にはなりません。バラバラの楽曲が混ざり合い、空間で1つの音楽が完成します。複数の音楽を使うことで、空間の楽曲は常に変化し、生き物のように有機的になります。
音楽を使ったエリアデザイン
Song for ココHESO
林:台東区松が谷エリアの街歩きイベントの音楽「Song for ココHESO」では、楽曲を14個の楽器フレーズに分解して、1つの楽器音を1つの小型スピーカーに入れ、合計24台の小型スピーカーを参加店舗のトーンに合わせて組み合わせ、10店舗それぞれの店内や店先で再生しました。
楽曲の一部が松が谷エリアに散りばめられ、街歩きイベントの統一感を音楽でも感じられるように演出し、マップのQRコードから楽曲をフリーダウンロードできる仕掛けも施しました。
Song for 伊勢市、Music Tree Project for 外宮参道
伊勢市の音楽「Song for 伊勢市」では、2020年11月24〜30日に伊勢市に滞在しながら楽曲を制作、2021年11月12〜16日に楽曲を複数の場所で展開させていく「音楽を使ったエリアデザイン」としてリリースしました。
2021年11月16日には、音楽を使ったエリアデザインのメインイベントとして、音楽インスタレーション「Music Tree Project for 外宮参道」を実施。参道内にある38基の行灯上に音楽を入れた小型スピーカーを38台設置し、それぞれから「Song for 伊勢市」を38分割した異なる音楽が流れ、互いに常にずれ続けながら調和し合う空間を作りました。
音(サウンド)と音楽(ミュージック)
中森:今回のトークテーマを決める際に「音(サウンド)による都市空間デザインの可能性」ではなく「音楽(ミュージック)による都市空間デザインの可能性」というお話がありました。私もそこがベジタブルレコードさんのポイントなのかなと思っているのですが、その辺りについてお二人はどういった捉え方をされていますか?
林:サウンドもミュージックも、捉え方によっては同じだと思いますが、例えば「机を叩く音」「葉っぱが揺れる音」のような、その音だけでは「楽しい」「嬉しい」といった感情が呼び起こされづらいのがサウンドなのかなと僕は考えています。もちろん、サウンドを使って感動を生むような作品を作られている方々もたくさんいらっしゃいますし、そういった観点では言葉の違いでしか無いと思います。ただ、僕たちが「音楽(ミュージック)」という言葉にこだわっているのは、色々な環境音や様々な生楽器などを使って、施設の背景やコンセプトを汲み取りながら、その空間にいる方が「楽しい」「ちょっと落ち着ける」と感じていただけるような楽曲を作っているので、サウンドというよりはミュージックの方が自分たちの取り組みとしてしっくりくるんです。
三上:僕はいわゆる「音楽(ミュージック)」と言った時に多くの方が思い浮かべるような、普段皆さんが親しんで聴いている音楽と僕らの作っている音楽は同じだと思っています。サウンドも同様に、例えば先ほどご紹介した流山おおたかの森S・C FLAPSで実施した音あつめワークショップでは「ウッドデッキを叩く音」「鳥が鳴く音」「室外機の音」のような音やノイズも音楽要素のひとつと捉えて楽曲に組み込み、ポップなテラス音楽として仕上げました。そう言った意味では、僕もサウンドとミュージックに違いはないと思っています。一般の方々が、都市空間やプロダクトの重要なデザイン要素になっている音楽を「ポピュラーミュージック」としてカジュアルに接する時代が来るかもしれない、音楽の未開拓な可能性を感じているからこそ、垣根のない「音楽(ミュージック)」という呼び方にこだわっているんです。
Songs for 丸の内仲通り
三上:僕らが昨年「企画展公募」に応募したアイデアは「小型スピーカー100台くらいを丸の内仲通りに置いて音楽の通りを出現させて、そのフィードバックや今後の音楽デザインの可能性をGOOD DESIGN Maranouchiのギャラリー内で展示する」といった内容でした。
中森:川口さんはこの案を受け取った時にどう思われましたか?
川口:丸の内仲通りってとても稀有な場所で、東京の中でも一番デザインされている通りのひとつだと思うんです。ただ、音楽に関してはほぼ何もしていなかったなと。「丸の内仲通り」に来たなって感じるような音楽が流れていたら素敵なんじゃないかな、そういう通りを歩いてみたい、そういう試みをやったらどういう事が起きるのか見てみたい、そんな風に思ったんです。もちろんGOOD DESIGN Marunouchiのディレクターが審査員だったので、皆さんとそういう話をしたということなんですけどね。私共だけではできない内容なので、こういう事を面白そうだって思う方々がいらっしゃれば、何かの機会にぜひやりたいですね。
空間をどうやって音楽で表現しているのか
中森:ここで、都市の道路空間の活用などについてずっと一緒にやっていただいている株式会社フロントヤードの長谷川隆三さんからもコメントをいただければと思いますが、いかがでしょうか?
長谷川:とても面白いですね。色々なところでこういった試みをできたらいいなと思いましたし、単純に感動しています。お二人が作曲をする時、エリアの雰囲気であるとか、いわゆるリサーチみたいなことをされると思うのですが、それをどういった過程で音楽にするのか、空間をどうやって音楽で表現しているのか、そのあたりを伺ってみたいと思いました。例えば伊勢の場合はどうだったのでしょうか?
林:伊勢の時はそれぞれが担当するエリアを決めて、別々にリサーチと作曲をして、最後に2曲を合わせて1曲にしました。最近はこの手法を使うことが多いですね、1曲の中でも偶然性が起きるようにしているというか。僕が行った内宮エリアは、すごく悠久な感じというか、空気感がゆったりとしている印象だったので、シンセサイザーの少しSF的なフレーズを使いつつ、悠久な雰囲気に仕上げました。
三上:僕は外宮エリアの中でも地域の方に馴染みがある場所をリサーチしました。伊勢市の試みは、もちろん観光客の方々もそうですが、地元の方々がちょっといつもと違って面白いねとか、日常の延長線上の非日常みたいなものを作りたいと思っていました。音楽なのでどうしても最終的には抽象的になってしまいますが「水琴窟みたい」「涼しげな感じ」「活気が出た」と多様な楽曲の感想をいただけて、人によって自由な解釈ができるという点で、それが音楽のデザインの魅力なのかもしれないとあらためて思いました。
長谷川:空間からお二人が感じるものを一度採取して、それを組み合わせながら抽象化していく、というプロセスなんですね。昨年と一昨年、丸の内仲通りを100日ほど歩行者天国にする社会実験「Marunouchi Street Park」を実施した時に、ゆったりと過ごしていると「こんなに蝉の音がするのか」と色々な意外な発見がありました。
川口:感覚から与えられる気づき、行動を変えたりとか、そういった試みが聴覚情報で出来たら面白いですよね。特定のポイントで共通の音楽が流れていたりして。「あれ、さっきもこれ聴こえたからちょっと入ってみようかな」って新国際ビル裏手の「有楽町 Slit Park」のような隠れ家的な場所に行く、そういうアプローチが音楽だと出来そうです。
三上:「自分だけに聴こえてるのかな」みたいな体験はいいですね。自然や街中では鳥の声がしたり、木々が風で揺れる音がしたり、車や電車の音がしたり、店の音がしたり、話し声がしたり、室外機の音がしたり、かなり色々な音が同時に鳴っていますけど、大体においてはそれが一体となって調和することで、その空間を作っている事が多いと思います。先ほどご紹介したような僕らのアプローチも、それぞれの小型スピーカーを「せーの」で流していないので、常に互いがズレ続けているのですが、それによって僕らの音楽もその自然物や環境音の一つとして参加するというか、音楽が加わることでその場所の新しい発見とか、今まで気づいていなかった魅力に気付けたり、そういった事はあるのかなと思います。
機能的な音楽、公共空間における音楽
長谷川:都市って人の活動が色々ありますよね。丸の内仲通りを見ていても、外で食事している人もいますし、打ち合わせをしている人たちもいる。そういった人の行動が快適になるような音楽の介入みたいな事は意識されていますか?
林:そうですね。僕たちはそういった事を「機能的な音楽」と言っていたりするのですが、例えば院内音楽を作った足立区のリハビリテーション病院では、30mほどある廊下を使って患者さんが歩くリハビリをする際に、やはり廊下をただ行き来するだけだと消極的な方もいるみたいなんですね。それで、その廊下の両端と真ん中3ヶ所に3台の小型スピーカーを置いて、それぞれから違う音楽を流すことで、歩き出すきっかけというか、歩くのが楽しくなるような楽曲のグラデーションを作りました。
中森:そういった形で音楽のデザインを街の中や施設などにインストールする際、視覚情報の景観法や景観条例上の制限のようなものは聴覚分野でもあるのでしょうか?
三上:法律的な観点ではあまり問題に直面したことは無いですが、周りのお店や近隣に住んでいる方への配慮はかなり気をつけてます。公共空間のような不特定多数の方が居る環境では特にそうですね。
中森:なるほど。それではお時間になりましたので、川口さん、林さんと三上さん、本日はありがとうございました。
川口・林・三上:ありがとうございました。
<2022年5月21日 YAU STUDIOにて>
本インタビューは、Podcastでも配信中です。
撮影:hayato itakura
画像提供(グッドデザイン賞、GOOD DESIGN Marunouchi):川口真沙美