【特別対談 #7】Vegetable Record × 流山おおたかの森S・C FLAPS 2022.03.29
写真左よりVegetable RecordのSyotaro HayashiとRyota Mikami、東神開発株式会社の澤田啄冬氏と花田智彬氏。
音楽レーベル「Vegetable Record」の共同代表兼アーティスト、Syotaro HayashiとRyota Mikamiによる「音楽を使った空間デザイン」「サイトスペシフィックミュージック」などについての特別対談。
第7回目は「流山おおたかの森S・C FLAPS」のテラス音楽「Songs for 流山おおたかの森S・C FLAPS」について、東神開発株式会社の澤田啄冬さんと花田智彬さんとお話しました。
三上:今回は流山おおたかの森駅前にある商業施設「流山おおたかの森S・C FLAPS」のテラス音楽「Songs for 流山おおたかの森S・C FLAPS」について、東神開発株式会社の澤田啄冬さんと花田智彬さんとお話しします。本日はありがとうございます。
澤田 / 花田:よろしくお願いいたします。
流山おおたかの森S・C FLAPSについて
三上:東神開発株式会社(以下、東神開発)や流山おおたかの森S・C FLAPS(以下、FLAPS)についてご紹介いただけますでしょうか?
澤田:FLAPSは2021年3月に流山おおたかの森S・Cの別館としてオ ープンした商業施設です。流山おおたかの森エリアは2007年の本館開業以来、段階的にまちづくりを進めてきまして、2022年現在、合計10施設の管理・運営を行っているのですが、中でもFLAPSは駅前の公共広場と一体的に整備され、街の新たなランドマークとなることを目指した特別なプロジェクトでした。 1番の見どころは建物外部に設けられたひな壇状のスキップテラスで、外階段で繋がるテラスを登り降りしながら、さまざまな視点で景色の変化を楽しむことできる施設となっています。
三上:なるほど。
澤田:FLAPSは駅前広場の正面にくる、街のイメージを大きく変えてしまう場所にある施設なんですね。また、東神開発が手がけてきた「駅前広場を中心とした一帯的な街づくり」という観点でも、環境整備が完成する区切りの施設として重要視されていました。そういった経緯があったので、単体の商業施設を作るということではなく、街との関係性を念頭に計画されました。結果として、広場に対して日の光を遮らないようにフロアごとにセットバックした、段々畑のような特徴的な建物形状になったんです。
林:あの独特な形はそういう理由があったんですね。
澤田:施設設計・デザインのマウントフジアーキテクツスタジオさんが、子供たちが走り回っている豊かな広場と建物の関係性から発想されました。建材の素材感を活かしていたり、広場からそのままFLAPSの屋上まで登れる大きな階段があったり、本当に公園のような要素を持つ施設です。
花田:テラスや広場内には、至る所にさまざまな形のベンチを点在させているのですが、そこで食事をしたり、談笑したりというシーンが生まれていて、公園のように親しまれています。
三上:ご飯食べたり、遊んだり、自然と景色に馴染んでますよね。
澤田:広場は流山市の管轄エリアなんですけど、経年劣化も進んでいたので改修計画が行政側でもあったんです。これまで流山市とは良好な関係性を築いていたので、FLAPSとデザインを揃えて同時オープンするご提案をしました。官民連携により広場と周辺環境を一帯的に整備できた点も、他にはないプロジェクトになったと感じています。
林:たしかに、広場の木製ベンチとFLAPSのウッドデッキも一体感がありますよね。
澤田:お客さまの反応も、景色の変化に対する感想を多くいただけて、とても嬉しかったです。
音楽を依頼した経緯
林:それでは、どういった経緯で音楽を依頼することになったんですか?
澤田:会社としては、ネットショッピングの定着や消費の多様化などの影響下で、ショッピングセンターが「お買い物をする場所」という単一機能から脱皮をして、新しい価値を生み出していかなければいけないという課題があり「外部の企業やクリエイターとの共創」を推奨するムードがありました。そうした中、館内放送の計画をすることになり、音楽もFLAPSの特性を活かした取り組みができないかなと思ったんです。
林:なるほど。
澤田:その後はご存知の通りですが笑、「面白い方々がいる」ということで大学時代の後輩を通じてお二人を繋いでもらったんです。最初にベジタブルレコードさんのHPを拝見した時に「サイトスペシフィックミュージック」というコンセプトが個人的にとても共感しました。
「場所からインスピレーションを受けて、その場所にしかない音楽をリリースする」「CDという既存のメディアだけじゃなく、建物や商品をリリースメディアとして楽曲を発表していく」という考え方がまさに自分たちの街づくりの思想と合致しましたし、とても面白いなと。ショッピングセンターにはアーティストやデザイナーなど、色々な人たちが介在する余地があって、少しずつ現場で実現していきたいと思っていたのですが、ベジタブルレコードさんとなにか形にできそうだと予感がしたんです。
三上:不思議なご縁でしたね。たしか2020年10月ごろに最初の打ち合わせをしましたけど、たまたま2週間後くらいに僕らの回遊式ライブが隅田公園であったんですよね。ベジタブルレコードの取り組みが、実際に体験しないと分からない側面が多分にあるので、とてもいいタイミングでした。
澤田:あのライブはとてもよかったですね。子どもたちも自由に歩き回ったり、楽器を触ったり。
三上:あそこまでオープンにできたのはあの時が初めてかなと思います。それまでも銭湯で回遊式ライブはやってましたけど、少し趣きが異なるというか。FLAPSでもライブやインスタレーションを行いましたけど、いま思うと近しい空間でしたね。
Songs for 流山おおたかの森S・C FLAPS
三上:その後、2020年11月と翌年1月に工事中のFLAPSや広場を見学しつつ、楽曲を作っていきました。
最終的には、「オオタカの目線」「広場の賑わい」「ステップ」をコンセプトに、上昇気流に乗ってのびやかに飛ぶオオタカがFLAPSと広場を見下ろしているようなイメージを明るくて健康的な音楽で表現しました。
2021年7月からは、ワークショップ参加者がフィールドレコーディングした様々な音をプラスしてアップデート。
2022年3月からは、各フロアに合わせた6種類の音楽を加えてアップデート。テラス各所の植栽帯に配置された小型スピーカー11台から再生しています。フロアを上がるごとにメインスピーカーの音楽と小型スピーカーの音楽の重なりが段々と変化して、FLAPSならではのユニークな音楽体験を作ることができたかなと思っています。
楽曲の感想
林:FLAPSの楽曲は僕らの音楽の中でもかなりリズミカルで明るい方だと思います。音楽を使った空間デザインではリズムを前面に出さないことが多いんですけど、この曲ではふんだんに使っています笑 お客さんがワークショップで録った音もどんどん取り込んでいったり、進化していく生き物みたいになっていて、音楽ならではの面白いアプローチになっていると思います。
あとは、不特定多数の方々が聴く半公共的な音楽ということで、なるべく多くの人が不快に感じないような音色を選んでいます。経験上、マリンバなどのアコースティック系の楽器は比較的耳障りに思う人が少ないのかなと。
三上:FLAPSが大きな遊具みたいな、みんなの遊び場のような存在でもあると思ったので、遊び心的な面白い音も入れています。注意して聴かないと分からないとは思いますけど、初めて曲に取り入れた楽器もあります。3Fだと民族楽器の口琴、4Fはオタマトーンという不思議な楽器を使いました。
林:屋上はシンセサイザーを使ってるんですけど、ゲームの効果音みたいな音もたまに入れてます。子どもたちも面白がるかなと思って。
澤田:あれだけ色々な音を混ぜているのに、不思議と全体の柔らかい雰囲気は損なわれなかったのが驚きました。2021年3月のオープン前、最初に楽曲が届いて聴いた瞬間、これは現地で聴いたらさらにいいものになるだろう、という確信はありました。ただ、逆に馴染みすぎてお客さまにしっかりと伝わるかなという、期待と不安が入り混じるような気持ちだったのを覚えています。
SNSなどでも、やはり音楽だけにあえて注目している投稿は中々無いなと思っていたのですが、2022年3月のアップデートに合わせてコンセプトボードを設置したところ「〇〇さんが探してたあの音楽、ここにあったよ!」みたいな投稿があって、実はお客さまの中でもそういうコミュニケーションを交わしてた人たちもいたんだなと感じて嬉しかったですね。
三上:広場を中心としたコロッセオみたいなすり鉢状の建築空間によって、音楽の面白い反射が起きてるんですよね。駅の改札を出た時点で微かに聴こえてきたり、FLAPSにいるときは小さいかなと思っていた音が、離れたカフェでは聴こえたり。鳥の声や電車の音とか、色々な音の中に自然物のようにランダムに音楽が混ざってるというか。
流山おおたかの森S・C アートプログラム、音あつめワークショップについて
林:僕らもワークショップとして実施した「流山おおたかの森S・C アートプログラム」とはどういった試みなのでしょうか?
澤田:私が流山おおたかの森で働き始めた翌年、2019年から「グラフィックアワード」というコンペティションをスタートさせました。これはアート作品を一般公募して、受賞者の作品をショッピングセンターの媒体物などに活用していくことを通じて、クリエイターさんと繋がっていく、というような趣旨です。
「流山おおたかの森S・C アートプログラム」は、この取り組みをさらに発展させて、2021年のFLAPSオープンと合わせてスタートしました。グラフィックアワードのころからプロのデザイナーさんだけではなく、一般のお客さまと一緒にショッピングセンターを創っていくという考えはありましたが、やはりそれを始めるのはFLAPSの開業で街が新たに開かれるタイミングがいいなと思ったんです。それで、ベジタブルレコードさんとはテラス音楽をお客さまと共に創っていけたらいいなと。
林:音あつめワークショップは、FLAPSを大きな楽器と捉えて、参加者が1Fから屋上まで自由に探検しながら、ウッドデッキをこすったり、金属を叩いたりした「お気に入りの音」「変な音」をスマートフォンのボイスメモで録音して、その音を文字やイラストで描いて音あつめシートに貼っていく、ベジタブルレコードがその音を使ってテラス音楽をアップデートする、といった内容です。スタートと同時にみんな壁を叩いたり、自発的に夢中で楽しんでいたのが印象的でしたね。
三上:「お気に入りの音」「変な音」というのはFLAPSで初めてやったんですよね笑
花田:そうなんですか笑
三上:それまでの経験で「それでは好きな音を探してきてください」って言うと、最初は皆さん「?」となることが多かったんです。それで、2人であれこれ考えて、「好きな音」「嫌いな音」はどうかなと。でもネガティブな「嫌いな音」をわざわざ探すかなみたいになって、そこからじゃあ「お気に入りの音」「変な音」ならいいんじゃないか、みたいな。変な音好きの子どもは多いですし笑
林:あとは音を出すヒントとして「叩く」「揺らす」「こする」「踏む」っていう、動作のアドバイスをしたのも大きかったかなと思います。
花田:私はこのワークショップから携わることになったんですけど、親子が楽しくワイワイと話し合いながらFLAPSの柵を揺らしたり、靴でこすったり、色々な環境音を録音している様子を見て、あらためてFLAPSがコミュニティに馴染んでいるのを実感しました。集まった音もイラストも本当に十人十色で、このバラバラの音をどうやったら音楽にできるんだろうと不思議に思いつつ笑、一方でワクワクしながら新しい音楽を心待ちにしてました。
三上:面白いアプローチをこれからもやっていきたいですね。最後に、今後のFLAPSついての情報はどちらを見ればいいですか?
花田:流山おおたかの森S・Cのオフィシャルサイトにて今後のイベントなど、随時発信をしています。あとはInstagramなどのSNSもございますので、気になる方はどんなことを今後やるのかなと、楽しんで見ていただければと思います。
三上:実際に体験するのが一番ですので、ぜひFLAPSにお越しいただければと思います。それでは、本日はありがとうございました。
林 / 澤田 / 花田:ありがとうございました。
<2022年3月29日 流山おおたかの森S・C FLAPSにて>
本インタビューは、Podcastでも配信中です。
撮影:工藤 葵/写真家
https://aoikudoaonisai.wordpress.com