【特別対談 #5 みくまり屋台のピクニック】Vegetable Record × ヨネザワエリカ 2021.09.12
写真左よりVegetable RecordのSyotaro HayashiとRyota Mikami、ヨネザワエリカ氏。
音楽レーベル「Vegetable Record」の共同代表兼アーティスト、Syotaro HayashiとRyota Mikamiによる「音楽を使った空間デザイン」「サイトスペシフィックミュージック」などについての特別対談の番外編。
「北斎」と「隅田川」を主なテーマに、すみだの多彩な地域資源を活用するアートプロジェクト「隅田川 森羅万象 墨に夢」(通称すみゆめ)、参加団体やアーティストなどが企画のあれこれや地域の面白いことを移動スタジオからライブ配信する「みくまり屋台のピクニック」。
9/12の第1回にVegetable RecordのSyotaro HayashiとRyota Mikamiが出演。10/18〜10/31に墨田区内の3ヶ所(東京スカイツリー 展望デッキ、すみだ北斎美術館、小梅橋船着場)で発表する「Songs forすみだ名所 〜東京スカイツリーを音楽で表現する〜」について、ヨネザワエリカさんとお話ししました。
Vegetable Recordについて
ヨネザワ:今回はお二人のことや、「Songs forすみだ名所 〜東京スカイツリーを音楽で表現する〜」について、色々とお話を聞かせていただこうと思っています。よろしくお願いいたします。
林 / 三上:よろしくお願いいたします。
ヨネザワ:まずはどんな音楽を作っているのかということをお聞きしたいと思います。
三上:7分ほどのコンセプトビデオがあるので、そちらをご覧いただければと思います。
音楽の新しいメディア
三上:僕らのプロフィールにある「空間やプロダクトを構成する『自立したひとつの要素』として音楽を作る」というのは、「CDやカセット、レコードなどの記録メディアと同じように、建築空間やプロダクトなど、あらゆる対象が『音楽メディア』のひとつになり得るのではないか」という考え方なんです。
ヨネザワ:なるほど、場所や物が記録メディア。
三上:ストリートアートにも近いかなと思います。美術館やギャラリーに作品を発表するのではなく、街の壁面とかを「アートの発表の場」と見立てて作品をリリースされてますよね。
僕らが「回遊式ライブ」と呼んでいる銭湯や広場などのライブも、お客さんと演奏者がステージで隔たれているのではなく、鑑賞者の中に演奏者が入っていく。お客さん自身が演奏者の間をそれぞれ好きなように回遊して、お客さんのいる場所によって聴こえ方が変わったり、色々な捉え方で音楽を楽しんでいただく。
どうやって曲を作るのか
ヨネザワ:「音楽を刻み込む」みたいなイメージなのかなと。聴いてる人の状態をどう作っていくか。発信している音楽を受け取った人がどういう風に聴こえるのか。その人がどういう環境にいるのか。
ちなみにどうやって音楽は作られているんですか?例えば「音楽付きおでん」だと、おでんを食べながらなのかなとか笑、そういったところを聞いてみたいです。
林:「音楽付きおでん」の時は、おでんを食べて、僕らなりにおでんの味わいから着想を得て・・・笑、
ヨネザワ:冗談で言ったんですけど、本当だったんですね笑
林:あとはパッケージデザインとか、そういったものからの総合的なイメージで楽曲を思い浮かべています笑 「味わいに合わせた音楽」というよりも、僕らが感じた雰囲気を音楽で表現しているっていう形ですね。
ヨネザワ:なるほど。そうすると、空間の音楽の場合は、基本的にその場所に行って・・・、
三上:そうですね。例えば、伊勢の音楽(Song for 伊勢市)ですと、その土地に昔からある音楽から着想を得たり、あとは現地で音を録ったり、例えば海の音、玉砂利の音とか。それを音楽の素材として作ったり、それから先ほど林が説明したような抽象的なイメージ、僕らが現地で思い浮かんだフレーズを使いました。
沖縄の音楽(Song for STRATA NAHA)の時は、琉球音楽の構造を分解して、僕らなりの解釈で再構築したり。
銭湯の音楽(Song for 小杉湯、Silent for 小杉湯)の時は、マリンバ奏者の「野木青依」さんとコラボレーションして作ったんですけど、その時はマリンバを銭湯の浴室の中に入れて、銭湯空間の残響を活かして楽曲を作りました。
ヨネザワ:なるほど。
制約を面白がる、楽しむ
林:あとはホテルとかですと、デザインコンセプトだったり、「こういう空間にしたい」などの要素もあるので、そういった意見とか背景とかを汲み取って楽曲を作っています。音楽も、家具や照明と同じように「空間を成立させる重要な要素なんだ」ということをご理解いただける機会も段々と増えてきて、最近は竣工の前から関わせていただくことも多いですね。
ヨネザワ:竣工前はすごいですね。
林:ちょうど先日も別府の建設中の空間で、こういうプランにしましょう、みたいな話をしてきました。そのあたりの仕事のアプローチ的には、建築家やインテリアデザイナーの方に近いのかなって思います。
自分たちでも想像しなかった面白い音楽になることも多くて、最近はそういった様々な制約やルールみたいなものを面白がるというか、楽しんで作曲をしています。
風景を音楽で表現する「名所音楽」
ヨネザワ:今回の企画「Songs forすみだ名所 〜東京スカイツリーを音楽で表現する〜」は、スカイツリーを望む3つの場所(東京スカイツリーの天望デッキ、すみだ北斎美術館、小梅橋船着場)、それぞれから見える景色を音楽で表現する「名所音楽」を作るということですけど、どんな感じで作っていくんですか?
林:今回は、葛飾北斎の代表作「冨嶽三十六景」から着想を得ています。あの作品のポイントというか醍醐味って、富士山を様々な場所から描いて、場所によって富士山の構図や大きさ、距離感が違ったりすることで「富士山の捉え方の面白さ」「構図の面白さ」を表現しているところかなと思ったんですね。ちょうどここからもスカイツリーが見えますけど、僕らの作品も、まさに「この見える風景を音楽で表現する」みたいなニュアンスです。
具体的に言うと、先ず「東京スカイツリーをイメージしたメロディ」のような音楽のモチーフを作って、例えば「小梅橋船着場」の楽曲であれば、スカイツリーの位置がかなり近いので、そのスカイツリーのモチーフが近くに聴こえたり、遠景の「すみだ北斎美術館」の楽曲は、同じモチーフが遠くの方で時おり聴こえたり、「東京スカイツリー 天望デッキ」の楽曲では、「自分がスカイツリーの中にいる」ように感じられるようにモチーフが聴こえる、みたいな笑
ヨネザワ:先ほども言いましたけど、場所に音楽を刻み込んで、聴く人が主体みたいな感じかなと思っているんですけど、風景になってくると、この辺の生活してる人って色々な方がいらっしゃるじゃないですか。それこそ何十年も住まれている方とか、ちょうど後ろで遊んでいるような子どもたちとか。
これまで以上に色々な人が聴く曲を、これまでのやり方で作られるっていうのが、どんな音楽になるのかなって、すごい楽しみだったりしていまして・・・。作っている上で、困っていることだったり、こういうことを挑戦しようみたいな話だったり、裏話的なものがもしあれば笑
三上:そうですね・・・、ただ聴く人は結果的に出来てるっていう感覚が強いです。例えばホテルの楽曲とかも、一番初めに「こういう人が聴くから、こういう曲を作ろう」というよりも、その場所から僕らが面白いと感じるユニークな要素を見つけて、その場所ならではの音楽のアプローチだったり、「その時/その場所/その物でしか成り立たない音楽(サイトスペシフィックミュージック)」を探っていく、創っていくことを先ずは大切にしています。
その空間における滞在時間に沿った(音楽の)尺とか、そういう数字的な部分は考慮して作ってますけど、「どんな人たちが来て、どういう風に感じるだろう」みたいなことは、作曲の初期段階ではあんまり考えてないですね。
今回も、もちろんスカイツリーの近辺には色々な方が住われていて、色々な想いがスカイツリーに対してあると思いますけど、そういう感じになってくると、キリがなくなってしまうというか、難しくなってしまうので・・・笑
ヨネザワ:そうですよね笑
三上:どちらかというと、北斎が「冨嶽三十六景三十六景」を描いた時の本質的な部分は何だろう。そういうニュアンスが近いのかなと思っています。富士山って、あの時代にも誰しも知ってる対象としてあったと思うんですよね。だけど、北斎が新しい世界の見え方を皆んなに提示したというか。「こういう富士の見え方もあるよね」みたいなことを、あの斬新な構図とか、面白い色合いとかで見せて、それによって当時の人たちが、「風景で、富士山で、こういう世界の捉え方ってあるんだ」って気づかされた。
北斎が「風景画」をひとつのジャンルとして確立したっていうのは、僕らはそういうことかなって思っていて、「風景を描いたこと」が新しかったのではなく、「風景の捉え方」が面白かったんじゃないのかなっていう。
ヨネザワ:なるほど。
三上:僕らも「世界の聴こえ方」っていうと大袈裟ですけど、「スカイツリーを音楽で表現する」っていう、そういう対象の捉え方があってもいいんじゃないか。可能性とか選択肢を出してる感じです。それに対してどう捉えてもらえるかなっていうのは、どうあってもいいかなと。どんな人が聴いてもいいかなと思っています。ただ、普段あんまり音楽を聴かない方が聴いても「なんか面白いね」「かっこいいね」って感じていただけるような楽曲は目指しています。
ヨネザワ:今回は、音楽をその場で流すとかではなくて、QRコードですよね。QRコードを読み取って、景色を見ながら聴くみたいなイメージですか?
林:あとは家に帰ってから聴いて風景を思い出したり、持ち帰れるポストカードも作るので、遠方の友人や家族に送ってもいいかもしれない。色々な楽しみ方があると思っています。
ヨネザワ:聴き手によって色々と楽曲の印象は変わりそうですね。
林:そうですね。音楽によって、いままで見てたスカイツリーの印象も少し変わるかもしれないですし。
ヨネザワ:スカイツリーって見る人によって、色々な想いがあると思うので、音楽きっかけで、「自分はこう思っているんだよね」とか、例えば「この音楽のこのフレーズがあれを思い出すよね」みたいな、そういう対話が生まれたら面白いですね。
一枚絵のような音楽
三上:今回の楽曲のポイントでいうと、これまでに作ってきた空間の音楽もそうなんですけど、音楽って「時間芸術」と言われているように、時間軸に沿っていわゆる「Aメロ〜Bメロ〜サビ」みたいに展開していきますよね。ちょっと説明するのが難しいんですけど、僕らはその「Aメロ」「Bメロ」「サビ」が同じ時間軸に同居しているみたいな曲の作り方をしていまして笑
ヨネザワ:ほう・・・笑
三上:「Aメロをだんだん聴いてて、Bメロになって、サビが来た、バーン」みたいな感じではなくて、5秒くらい聴いても、20秒聴いても、3分聴いても、曲の印象がそんなに変わらないような構造というか。「Aメロ〜Bメロ〜サビ」と展開していく音楽が時間軸のある「映画」に近いとすれば、僕らが空間に対してリリースしている音楽は「一前絵」とかに近いような感じで・・・、
林:その一枚だけで全てを説明(表現)している、同時に色々なことが、その一枚絵の中で起きている、みたいな。
ヨネザワ:私は16世紀くらいの宗教絵画が好きなんですけど、上の方に羊がいる、みたいな・・・、
林:あ、そういうイメージです笑
ヨネザワ:それでいいんですか笑
三上:日本でいうと、洛中洛外図とか。ああいう、バーンってした一枚絵の中に、色々な要素がありますよね。それで、見る人によって見方が違うと思うんです。例えば、上の羊を見る人もいれば、隅にいるおじさんを見る人もいたり、全体を鳥瞰的に見る人もいるかもしれない。僕らの曲も、ある部分をフォーカスして聴くとAメロみたいだけど、またある部分を聴くとサビっぽいとか笑
ヨネザワ:そういう音楽を作る人って、4次元ぐらいから、時間を俯瞰して、縦・横・斜め、じゃなくて、時間軸を全部頭の中でイメージして曲をデザインしているのかなって思います笑
三上:でも日本の伝統音楽って、結構そういう要素があるなって思います。例えば、お祭りの曲とかってサビとかAメロっていう概念がないですよね。一瞬遠くから聴こえてきた印象と、祭りに参加して何時間か過ごした印象とって、そこまで大きくは変わらない。日本人のかつての音楽観は、いわゆる横軸の時間軸じゃないのかなと思っています。全てを同時に内包しているというか、曼陀羅みたいな笑
音楽の特性を視覚的にも提示する
林:今回、3ヶ所に設置するQRコードのデザインは、絵巻物とか浮世絵などの雰囲気も参照しつつ、僕らのそういった音楽の特性を視覚的にも提示するというか、15分程度の1曲まるまるの譜面を使って、楽曲を1枚の平面に落とし込んだようなデザインにしようと思っています。
ヨネザワ:10月18日〜31日まで、この時だけ、この場所に行かないと聴けないってことですね。体験としてはすごく豊かですよね、きっと。すごい楽しみだなあ。
活動のきっかけ
ヨネザワ:ちなみに、なんでそういった凝った音楽というか、面白い音楽を作ろうと思ったんですか?色々と挑戦されてるなあと思ったので・・・。
林:元々は二人とも普通にバンドやってたんですよ笑
三上:林はガレージロックで、僕はハードロックやってて、ピアスとか開けて金髪でしたし笑
ヨネザワ:え、本当ですか、Slipknotとか、ああいう感じですか?笑
三上:僕はMötley Crüeですね笑 Slipknotも好きでしたけど。18〜20歳とか、そのくらいのころですかね。それで食べることが出来ていたら、いまのような路線に行かなかったのかなとも思うんですけど、色々と従来の音楽の価値観がすごく変わっていた過渡期だったんですよね。
それで、どうしようか、って話していた時に、たまたま林の親父さんが珈琲豆専門店「COZY COFFEE」を始めたり、僕らの古い友人がマイクロブルワリー「VERTERE」を始めたりしたんですよ。それで、雑談の中で「コーヒー豆とかボトルビールを音楽のフォーマットに見立ててリリースしても面白いんじゃない?」って話になったんです。
そういった経緯で「音楽付きコーヒー豆」「音楽付きボトルビール」を2017年1月にリリースしました。
林:その発想の延長線上で色々と活動をしていく中で、僕らが思いもしなかった制約がどんどん出てきたんですね笑 それで、だんだんそういった制約みたいなものを、先ほどお話ししたように、逆に面白がれる、楽しめるようになってきたんです。
ヨネザワ:なるほど。お話を聞いていて、本当に色々な見方というか、豊かな感じ方が出来そうな感じがしました。私もぜひ体験したいと思います。本日はありがとうございました。
林 / 三上:こちらこそ、ありがとうございました。
<2021年9月12日 京島南公園(マンモス公園)にて>
本インタビューは、Podcastでも配信中です。
画像提供:「隅田川 森羅万象 墨に夢」実行委員会
主催:「隅田川 森羅万象 墨に夢」実行委員会、墨田区
特別協賛:YKK株式会社
協賛:株式会社東京鋲兼
メディア・パートナー:J-WAVE 81.3FM