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#20 今更だけど、プライスレス
ついに、春休みに入った。自分のペースで動きづらくなるなか、なんと!いつもの喫茶店に行くことができた。
この日はこどもの習い事が40分ある。ということは、ひとりでお茶をする時間が前後引いても30分はある、ということ。この時間で喫茶店に行こう!と狙いを定めた。本とノートをカバンに入れる。優先順位は本がいちばん。あ、でも書き留めておきたいこともあるから、マイノートタイムも数分ほしいところ。
あの喫茶店はサイフォンでコーヒーを淹れてくれるから、少し時間がかかるかもしれない。今日はとにかく時間が限られている。1分でも早く喫茶店のソファーに座ることを考えていた。
こどもを見送りすぐに向かった。マスターにこんにちは、とご挨拶。クールな対応にはもう慣れた。いつもの席が空いているかな、とチラッと横目で確認すると、マスターもその席を確認したように見えた。なんか嬉しい。
わたしのためだけに淹れてくれた、熱々のコーヒー。ジャズの音楽。ああ、美味しい、最高すぎる。読みたかった本を読みながら。あ、そうそう、マイノートにも書きたいことがあるんだった。あれもやりたい、これもやりたい。逆にそわそわしたけれど、気持ちは満ち満ちしていった。
あっという間に帰る時間。レジには、このお店が5周年を迎えたこと、が書いてあった。ほぉ、そうなんだ。どうしよう、マスターにお祝いの言葉を言いたい。けれど、オーダー以外で話しかけたことがない。いつもこういう瞬間を、まあいっか、わざわざ言わなくても、と逃してしまう。よし!この壁を超えてみよう、と勇気を出してクールなマスターに声をかけた。
「5周年おめでとうございます」
ふあー!言っちゃったー!マスターの表情が和らいだのがわかった。
ここでやりとりした温かい気持ちを表現するのはむずかしい。けれど身体は記憶した。角のないまあるいものが言葉を通して触れ合う感覚。いまさらだけど、プライスレスってこういうことだなと思った。