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早春の伊豆2泊3日 その③ -修善寺

誰もが名を知る浄蓮の滝へ

旅先ではどうして早起きができるんでしょうね。
この日は修善寺の観光がメイン。まずは早朝から浄蓮の滝へ。
その名を聞けば、日本人の誰もが♪舞い上がり~揺れ落ちる~
と絶唱してしまう、あの天城越えに出てくる浄蓮の滝です。

こりゃあ帰りは大変だ、と思いながらそれなりに歩き甲斐のある急な階段を下ります。そりゃそうです、水が落ちるのが滝なのだから滝を見上げるには降りるしかないのです。
♪行きはよいよい帰りは怖い~と、♪山が燃える~を交互に口ずさみながら緑の中を歩きます。滝に近づくと水の音が大きくなってくるのは、ゴールがわかってなかなか嬉しい。
そして見えました、浄蓮の滝。清々しい佇まいの美しい滝です。落差25メートル。滝つぼの深い青も、岩の上の苔の緑もきれい。

滝の後ろの岩は柱状節理の不思議な形で、それも面白い


しかしながら滝からは、♪何があってももういいの~、というほどの熱情が感じられない。そんな違和感を覚えたのは、勝手に『浄蓮』を『情念』と結び付けていたからで、まるっきりわたしの思い込みのせいでした。わたしの好きな漫画家の松本英子さんは、『天城越え』を『あまぎ声』という色っぽい声だと思っていたそうで、そのエピソードも関係しているかもしれません。
けれど、よくよく見れば、左側に幾筋もの細い糸のような滝が落ちていて、なんとなく男女の情念を感じなくもない?しつこい??

手前には天城越えの碑がありましたよ

一通り写真を撮ったら、戻ります。そんなに広い場所ではないし、人も増えてきたし、正直ここは滝しかないのでね。あ、釣りはできるようです。
川沿いの目に眩しい緑は、わさび田でした。帰り道の途中にある茶店では、わさびはもちろん、わさびソフトやわさび団子、さわびサイダーなんていうものまであって、徹底的にわさび推し。わさびが苦手で、おすし屋さんでは常に面倒くさい目にあってきたわたしには、ただの植物にしか映らないわけですが、わさび好きな人には天国、なのかな。わたしは茶店の人から「どうぞ」と差し出された試飲のシイタケ茶を飲んで、「茶碗むしにもいいよ」という言葉にそれは美味しそう~と買って帰りました。もちろん、1か月たってまだ作ってはいない。

帰りの階段は約200段。大変と感じるか、大したことないと感じるか、まあほとんどの人にとっては前者でしょう。意外と急。わたしももう、天城越えを歌う元気もなく、よれよれと上りました。
上り下りしたくないという人には朗報。2020年に展望デッキが作られたので、現在は上から滝を見ることができるようになっています。ただ、木の枝が意外とじゃまだし、滝の迫力を味わいたい人は労を惜しまずに下まで行きましょう。それにしてもごく最近まで展望デッキがなかったのが不思議。

もりもりワサビ


旧天城トンネルを歩く

その後は、旧天城トンネルを歩いてみることにしました。
1905年(明治38年)に開通した、国道414号(旧道)のトンネルです。現存する石造トンネルでは国内最長とのこと。
こういった山の観光地では、車をどこに置いていくか問題、というのがあります。遊歩道があって、歩きたい場合は好きなだけ歩ける場合とか。今回は、それに加えて、「トンネル手前まで行けるけれど、悪路なので注意」というネットの口コミを見て、2㎞ほど離れた駐車場に車を停めて歩き始めました。夫、慎重派。

気持ちのいい山道散歩です。途中、川端康成の伊豆の踊子碑があって、踊り子もここを歩いたのかと感慨に浸ります。
途中で、全然悪路にならないことに気づきましたが、口にはしない。けれど、ときたま車に抜かされるので、夫が「車で来れたね」と、ついに言いました。そうだ、そうだよ。まあでも、トンネルを見に来たと思うと時間のロスに感じられるけど、山歩きをしに来たと思えば、単に気持ちがいい。誰だよ、この程度の砂利道を悪路だなんて書いた意気地なしは、なんて言わない。

歩くこと30分、トンネルに着きました。入口のアーチの上の文字が右から刻まれているのを見ただけでも歴史が感じられます。トンネル内の壁面も含めて、すべて切り石でつくられているそう。
入口の左側だけが凍って氷柱になっていました。人工物に自然が手を加えてアートに仕立てている感じ。トンネルは車の通行も可能ですが、狭いのですれ違いは不可です。

全長446m

トンネルを歩きます。抜けるとそこは雪国、というのは同じ康成でも『雪国』。こちらのトンネルは『伊豆の踊子』で、「主人公の私が旅芸人の一行を追いかけて、めぐり逢う」場面に登場するトンネルで、抜けても同じような山の中でした。ちなみに『天城越え』の歌詞の中にも、天城隧道(あまぎずいどう)という名前で登場しています。
そう、暗いトンネルの中は、声が響く。ついつい歌ってみたくもなるってもんです。雰囲気あるし。寒いし。あ~、あ~。響く響く。あまぎ~ご~え~、と調子が出たところで、はるか向こうから歩いてくる人達の話し声が聞こえてきて、慌てて止める。
ただの点だったトンネルの出口の光が、歩いているうちに大きくなってきて、遠くからこちらに向かってくる人達の姿も段々はっきりしてきます。声もだんだん大きく聞こえてくる。けれど、なかなかすれ違わないの。ちょっと怖い。

壁はところどころ凍っていた

トンネルを抜けると、レトロな踊り子ちゃんの看板がありました。ちなみにこのトンネルを含む『踊子歩道』は『文化の道100選』に選ばれているそうで、そう聞くと、なんかいいところ歩いたな、って気がします。実際、気持ちよい場所だったのですが。
トンネル自体は国の登録有形文化財で、それはそう聞かなくても、佇まいの重厚さと、美しさに凄みを感じる場所でした。

この辺りは徹底的に踊り子推し

さて、お昼に向かいます。


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