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あの時の北京の空気 ②北京で食べたもの

どこにいっても食事は楽しみの一つ。北京料理なんて一つのカテゴリーになっているんだからなおさら。中国では四つ脚のものは机以外なんでも食べる、赤い犬は美味い、なんていうのは昔の話だろうけれど、出てきたならなんでも食べる所存でござる、どんとこい。くらいの気合。
そんなわけで、本場の北京料理、もちろん食べまくった。
食べたものはみんな口に合って美味しかった。もちろん、美味しいお店を選んで連れて行ってもらったに違いないのだけれど。

北京ダック

きた、きた北京ダック。名前に北京って入ってるんだから、これは間違いなく北京料理の代表。
駐在員Y氏は、北京での仕事の一つは北京ダックを食べることと言ってもいいくらい、日本から人が来るたびに北京ダック屋さんに案内しているそう。

そんなY氏に、門構えも立派な高級店に連れて行ってもらった。中庭に、軽やかに遊ぶような石像が並ぶ、そんなお店。
当たり年のワインが、生産量よりも多いという中国マジックがある店もあるというけれど、ここは当然ワインもちゃんとしていて美味しかった。

内装も素敵。

シェフがテーブルのそばまでやってきて、うやうやしくさばいてくれる。手さばきにうっとりしている間にできあがり、美しく盛り付けられたダックがやってきた。

視線を浴びながら調理するの、緊張するだろうな。


ダックがダックに乗って出てくるというのは、かわいくもあり、洒落がきつくもあり。皮だけじゃなく身の部分も食べるのが、北京の常識。クレープのような薄餅に、甘めのタレを塗り、ぱりぱり照り照りしたダックとネギやキュウリを乗せて、くるくる巻いて食す。いくらでも食べられちゃう。

ダックちゃん、おいしくいただくね。

他のお料理も、盛り付けの美しさにまず目がいく。北京ダックのソースなんて、それぜれに違う模様が描いてあったりして。

こじゃれた前菜。

洗練という言葉がしっくりくるお店で味わう北京ダックは、雰囲気も含め最高だった。


ジャージャー麺


ジャージャー麺が北京生まれだとは知らなかった。わたしは甘辛系に目がないので、ジャージャー麺はかなり好き。中国語だと、炸醤麺。炸醤は肉味噌のこと。

今まで食べてきた日本のジャージャー麺との違いは、器に少し汁が入っていること。湯切りが足りないんじゃない?って思うくらいの微妙な量。ゆで汁なのか、スープなのか、でも、どこでもそういうものみたいなので、これが本場なのだと自分を納得させて食す。
肉味噌は甘くない。挽肉よりも肉が大きめで歯ごたえがある。麺も太目。
全体的に、日本とは似て非なるものという感じ。

北京の”丸の内”にある、おしゃれなお店のジャージャー麺


上にのっている野菜はお店によって違っていた。家庭料理の延長、みたいな位置づけなのかな。山梨のほうとうのような感じかな。

紫禁城近くの、大衆食堂的なお店のジャージャー麺


食べ歩きをすれば、自分の好きなお店に出会えそうな気がする。ジャージャー麺にはそんな可能性を残してきた。


羊肉のしゃぶしゃぶ


羊のしゃぶしゃぶも北京ではよく食べられる料理とのことだ。
わたしは、気取ったお店で出される子羊のなんたらを食べたことがあるくらいでジンギスカンも食べたことがなかった。羊肉は、食べてる間は匂いが気になるものの、翌日にその匂いが恋しくなるという、中毒性のある食材という認識。

その羊肉とじっくり対峙するときがきた。まさかの北京で。
さて、北京の羊しゃぶしゃぶ店。広いお店は結構お客さんで埋まっていた。

しゃぶしゃぶする用のお鍋がかわいい。

部位によって見た目が違うのが、並べてみるとよくわかる。味わいも食感や脂ののりでかなり異なる。ゴマだれにつけていただく。

4人でたいらげた

ちなみに、日本で食べるしゃぶしゃぶは、この羊肉のしゃぶしゃぶ・シュワンヤンロウが起源とのこと。

さらにこの羊肉のしゃぶしゃぶ自体は、モンゴルの皇帝フビライの食い意地に起源があるとの説が有力らしい。

昔むかし、故郷の羊肉の煮込みが食べたくなったフビライが、部下に作るように命じましたが、敵が迫ってきたため用意はできませんでした。戦闘態勢に入りながらも、お腹が空いたフビライは「羊肉!」と叫びます。困った料理人が慌てて薄切りにして熱湯にくぐらせたものをフビライに食べさせたところ、気に入ってバクバク食べ、戦に勝ち、さらにその後もその料理が気に入って自らシュワンヤンロウ(湯にさっと通す)と名付けたところ、全国に広まったのです。めでたしめでたし。(超訳)

シーザーサラダのような成り立ち。困った料理人はいつも後世に残る料理を編み出すのだ。

そんな歴史のある羊肉しゃぶしゃぶ。やっぱり途中で匂いが気になったけど、翌日にまた食べたくなった。魔性のお肉。


謎のスープ


いろいろと食べた中で、一番、印象に残っているのは、何を隠そうスープだ。
人気店のようで、外でも人が待っている宮廷料理のお店。広い店内は珍しく薄暗いが、レトロなインテリアと合っていて雰囲気がある。
見てもよくわからないメニューから何種類か選んでいるときに、駐在妻Yちゃんが、スープをすすめてくれた。

なんと、このお店ではスープに女性用と男性用とがあるのだ。
この時は女性だけだったので、比較はできなかったけれど、運ばれてきたスープのトロトロ加減から、ただものじゃない感じがむんむんした。

もったりとした黄色いスープは、優しい味だが、ベースが何かさえわからない。ただ、お肌はつるつるになりそうな気がする。おそらく『50の恵』的スープ。そういう漢方っぽいものがギュッと煮出されているに違いない。きっと明日のわたしは、沢口靖子。

いろんなものが入っているのはわかるが、それが何かが一切わからない

ところで、北京では食事のときに一緒に運ばれてくるのは、水ではなくて白湯。お茶で料理の油分を流すのかと思っていたら違った。お茶を入れ忘れられたのかと思ったらそれも違った。

お店によっては、箸や取り皿などが、ビニールでパックされたものが用意されていた。清潔さのアピールのため、ということで、それくらい食器がちゃんと洗われているか信用ならないところが多いとのことだった。

さて、スープを飲んだ翌日。
わたしに沢口靖子は乗りうつらなかったが、なんと、万里の長城などを歩きまくったにもかかわらず、夜まで全然疲れなかったのだ。ほうぼうにガタがきているわたしとしてはかなり珍しい。
このスープ、レトルトで売っていたら買い占めたい。

もちろん、他の食事も美味だった



おまけの話


昔、読んだ遠藤周作の狐狸庵先生シリーズのエッセイに、中国の食事会の話が書いてあったのだが、それがあまりにも衝撃的だったので、わたしは中国出張に行く人には、たびたびその話を披露しては嫌がられていた。

※おいしい食事の話ではないので、ここから先は自己責任でよろしくです。

おそらく、今から50年以上は前の話だと思う。
狐狸庵先生の知人が、中国に行って、現地の人たちとの食事会に招かれたときのこと。豪華な食事が続いた最後に、大きなお皿が出てきて、ふたを取るとそこには小さな生きているネズミがいた。
これはどうするんだろうと、周りを見ると、他の人達は、躊躇なく口に入れている。ここで自分も食べないと失礼になると、真似をして、がんばって食べた(!)
すると、他の人たちは、口から吐き出した。
要するに、口の中や歯を掃除させるためのネズミだった、という話。

中国の食文化、深いですね…。


あの時の北京の空気 ③感じたことに続く


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