大人の夏休み工作 ②ラグマット制作
ラグマットって作れるの?
玄関だったり、ソファの前だったりにおいてあるラグマット。
ちょっと厚みのあるあのマットを、まさか自分で作れると思うだろうか(いや、思わない)。
そもそもどうやって作っているのかもよくわからない。
友人から、ラグマットのワークショップに行ってみない?と誘われて、最初に出た言葉は「ラグマットって作れるの?」だった。
友人によると、ものすごく人気のあるワークショップで、予約を取るのも大変らしい(とテレビでやっていたよ)、とのこと。
それはきっと、面白いに違いない。行く。行こう。
というわけで、頑張って予約を取った(友人が)。
予約を取るのが大変だと、それが目的になってしまって、予約が取れた段階で満足しちゃう、というのは予約取れたぞあるある、だ。
若干そういう部分もあったのは否めない。予約してから、ワークショップの日までかなり間が空いていたのだ。
動きだしたのは、ワークショップの1週間前。
デザインを決める
1週間前までに、自分がどんな絵柄のマットを作るのか、画像を送ることになっていた。
忘れていた。
慌てつつ…悩む。
ワークショップの元締めのサイトを見ると、制作例はバラエティーに富んでいて、とりあえず平面であればどんな絵柄でも可能のようだった。四角い形に幾何学模様のラグがあれば、丸い形のピザの柄のラグもあり、猫ちゃん犬ちゃん魚ちゃんもあり。自分でもこんな本格的なのが作れるとは信じられないほど、ちゃんと立派なラグマットだ。
ラグのデザインには、あまり細い線は入れない方がいいというアドバイスがあったが、縛りはそれだけなので、選択肢は無限大。模様か、絵か。そこからだ。悩ましい。
絵の方が自分だけのオリジナルになるから、せっかくなので絵にしよう。
そう決めたものの、わたしには悲しいほど絵心がないのだった。
どなたかの描いた絵を使わせていただこう。そこだけは即決。
今は便利な世の中で、イラストを使っていいよ、ただで。というサイトがたくさんあるのがありがたい。(作家さんには、ちゃんとサイトからお金が入りますように!)
そこからの逡巡については、略。締め切りがあったから決められたようなもの。
シンプルな線で描かれていながら、深みと暖かさを感じる鹿の絵を使わせてもらうことにした。
まずはタフティングの練習
ラグマットを作る技法をタフティングというそう。
機織りのように織るのでも、ミシンでもなく、タフティングガンという機械で糸をシューティングしていくのががタフティング。
絵を描くキャンバスのように、土台になる布がフレームに入って立ててあり、そこにガンをあててダダダダダダと撃っていく。制作というより攻撃。
なんというか、これは、絶対に日本発祥じゃないな、ということは一目でわかった。どうやら北欧から始まったらしい。
まずは、練習。
布に垂直にガンをあてて左手でガンを押さえる。右手でボタンを押すとガンが勢いよく糸を撃ち出す。意外と振動が大きくてビビる。
最初の恐る恐るは、スムーズにガンが線を描き出すと気持ち良さに変わっていった。ただ、それは一方向での直線限定。カーブや方向転換をしようとすると、ガンが暴走することもわかった。
いざ、本番
自分が作るデザインを拡大して、キャンバスのようなヘッシャンという布にマジックで描く。
その下絵に沿って、タフティングガンで糸を撃っていくという流れだ。
さて、ここで再度、悩ましいことが起こった。
好きな色を選べるのだ。
わたしは、そんなこともあろうかと、きちんと準備をしていた。使う色は二色に限定し、組み合わせも考えた。
好きで集めたけれど、ただ眺めるだけだった色関係の本の出番がようやくやってきた!と念入りにページをめくり、好きな組み合わせを選んでおいた。ばっちりの状態で臨んだのだ。
それが、実際に糸を見た途端にまんまと心が揺らいだ。色の種類の豊富さ、そしてなんとも美しいグラデーション。
ダメダメ、これはダメ。どれも使ってみたくなる。
悩みに悩んでこれを使おう、と決めた糸は、「ラグマットにすると、見ているよりも暗くなりますよ」と言われて却下。
更に、タフティングガンは糸を5本どりで撃つので、「5本の中の1,2本を違う色にしても雰囲気が変わります」と言われて、更なる混乱。
「好きなだけ、試してください」という言葉に甘えて、試し撃ちを重ねること十数回。糸を替えるというちょっと面倒な作業にも、楽しくなる魔法がかかってしまった。
それにしても、わたしこんなに優柔不断だったっけな。ようやく決めた頃には、周りの人たちからは、もう撃ち込みの音が聞こえてきていた。
撃つべし、撃つべし、撃つべし
結局、元にした絵とも、自分のイメージともまったく違う色合いの糸をセットして、わたしもガンのスイッチを入れることになった。
撃ち込むのは、絵の裏側から。まずは端を四角く縁取り、下絵の線をなぞる。その後、隙間を埋めていく。
同じ向きに撃っていく方が、後ろの仕上がりもきれいになる。
左官で漆喰を塗るのと同様、同じスピードでガンを動かしていくのがきれいな仕上がりのコツ。ゆっくりだと密度が濃くなりすぎ、早いとスカスカになってしまう。
まっすぐな部分はわりといい感じで進んだけれど、細かい部分のカーブや丸にはかなり苦戦。丸をこんなに描くんじゃなかったと後悔した。
ただ、失敗しても糸を抜くことができるので、下地に穴が開くほどでなければやり直しがきく。大雑把なわたしでも不器用なあなたでも大丈夫なので安心して。
時折、糸巻の糸がなくなって、カラカラと糸巻が上がってくるのが面白くもあり、大変でもあり。糸が5本から4本になっても、タフティングガンは教えてくれないのだ。糸が減ったまま撃ち続けてしまう。
同じ色を使い続けるわたしは、糸が無くなるのも早く、糸のセットの仕方だけは完璧にマスターした。
外側部分が終わったので、ひと休み。
他の人達がどういうのを作っているかをチラッと確認してみる。なんと6人中、5人が動物(魚含む)モチーフ。1人は、子ども向けだったのか、働く車・ブルドーザー。
デザインのタッチも様々だし、色使いもモノトーンから蛍光色まで多様。人それぞれの好みが反映されていて面白い。しかもみんな初めてと思えないくらいガン使いが上手い。
さて、作業再開。残った内側に糸を入れていく。
結局わたしが選んだのは、レンガ色にベージュを混ぜたこだわりの色。
撃つ、撃つ、撃つ。ひたすら撃つ、撃つ、撃つ。
無心になれる時間のありがたさよ。その至福の時間は、右腕が疲れるまで続いた。腕とか腰とか疲れやすいお年頃なので、集中できる時間には限度があるのだ。
撃ちまくること3時間で、一通り終了した!
ホッとして見返したら、心の乱れと手の疲れが如実に現れていて笑った。
裏から見ても一目瞭然だったが、表面を触ると、糸の密度の濃い薄いがわかる。薄いところをすべて埋めていったら、おしまいだ。
最後に、スタッフの方に表面を整えてもらう。
わたしの鹿も、友人の文鳥もきれいに姿を現した。
これでワークショップは終了。
正直・・・右手が疲れた。
けれど、またやりたい。すぐにでもやりたい。なんなら色違いで作りたい。次はもっと上手くできると思う。そんな珍しく前向きな気持ちと充実感に満たされて、また来ちゃうかもと思いながら、アトリエを後にした。
夢に見るくらい、本当にわたしはこの体験が楽しかったらしい。夢で、芸人の小峠氏から「こういう絵がいいのではないか」とアドバイスをもらっていた。どんな絵だったかはもう覚えていないけれど。
体験から1週間ほど経って、仕上げに裏を貼り、きれいにカットされたものが送られてきた。
まぎれもないちゃんとしたラグマットに変身していて、いとおしい。
踏みたくはないけど、軽く踏んでみたら、ちょうどよいフカフカ加減だった。夫にも自慢したいのだが、踏ませたくなくて悩んでいる。
お世話になったのは、Tufting Studio KEKEさん。
また作りに行きたいな。