第104回天皇杯 2回戦 FC東京戦マッチレポート
「勝負の世界で生きている我々が0−3という結果なので、ナイスなものは何も無いです。」試合を終えた間瀬監督は感謝の言葉を最初に述べたあと、公式会見の冒頭でこう言った。
天皇杯二回戦、J1・FC東京との対戦は21分に最初の失点を喫し、さらに2失点を喫し追いかける展開で後半に入る。月並みな言葉で言えばそこからの後半は善戦した。左右サイドから繋いでゴール付近まで何度も運び、ボックス内まで攻め入った回数はほぼ同じ、シュート本数は上回った。守備でもしっかりとブロックを固め、前からの積極的なプレス、中盤でのプレスバックと集中を切らすことなく守り続け、何度かカウンターに遭う場面はあったが、素早く戻りピンチを未然に防いでいた。決定的なピンチは85分・カウンターから#55・尾谷が放ったミドルシュートの場面のみ。
後半にどれだけ善戦しても結果は0-3の完敗。ヴィアティン三重が求めていたのは勝利であって、良い場面、良いプレーではない。しかし現地で観ていた人はもちろん、配信で観ていた人にもわかる通り、後半は得点こそ奪えなかったが随所で良いプレーを見せてチャンスを作ろうとしていた。
当然記者たちはあれだけ良い場面もあったのだからその手応えや何かしらの成果があったのではと聞きたくなる。会見の最後に一人の記者が「評価できるところはないとしても、この試合での収穫はありましたか?」と質問を投げかけた。
「それは最高のサポーターがいるということです。ここの再確認が一番の収穫だと思います。ピッチ上での収穫はなかった、それでも後押ししてくれるサポーターが我々にはいる。その彼らに報いたいという思いでここからまた次のリーグ戦で優勝・昇格を果たすべく向かっていけることが一番の収穫です。」間瀬監督は噛みしめるようにこう答えて会見場をあとにした。
天皇杯2回戦 スターティングメンバー
GK:1 森
DF:3 伊従・17 野垣内・4 饗庭・27 楠本
MF:24 池田・20 金・16 稲福・8 瀬尾
FW:29 加倉・9 大竹
SUB:21 松本・2 谷奥・7 森主・22 川中・28 野口・11 木戸・41 梁
FC東京・スターティングメンバー
スコア
FC東京 3-0 ヴィアティン三重
(前半 3-0 / 後半 0-0)
大幅にメンバーを入れ替えて臨む
この日のスタメンは3日前に行われたJFL第11節・Honda FC戦から大幅に入れ替えてきた間瀬監督。DFの饗庭、池田、FWの加倉以外の8人を入れ替え、サブも含めると18人中10人を入れ替えた。Honda FC戦から中2日で天皇杯、そして天皇杯を挟んで中3日で行われるアウェイ・ヴェルスパ大分戦のことを考えるとターンオーバー(試合ごとに先発メンバーを大きく入れ替えること)した布陣で臨むことにそれほどの驚きはない。また、入れ替えた10人を見ても怪我から復帰の川中以外、全員が一度は公式戦のピッチに立っている。これだけ入れ替えても不安を感じないこの選手層の厚さは今季のヴィアティン三重の強みでもある。
ナイター照明に照らされた味スタのピッチ。FC東京ボールでキックオフ。試合の入りはやや硬さが見られ、簡単なパスがズレて何度かタッチラインを割る。時間とともに落ち着きはじめたヴィアティン三重の選手達だったが21分に最初の失点シーンを迎える。右サイドからのクロスをファーサイドで折り返され中央で完全にフリーになっていたFC東京#10・東慶悟が簡単に合わせて先制。
クロスや折り返しの質は流石にJ1クオリティだったと思うが、明らかに守備のミスが起こっての失点。直後にキャプテンの野垣内がチームメイト全員を集めて輪になった。野垣内は「もう一度、攻撃・守備のときの立ち位置を確認しよう。そして攻守ともにもっと強気で行くぞ。」と声を掛けた。
相手の最初のチャンスで決められてしまったこと、FC東京サポーターが轟かせる応援の音圧にのまれてはいけない、弱腰で受けにまわってはいけない、そう判断した野垣内のナイスな判断だった。
しかし37分、今度はコーナーキックからピンポイントで合わされ、元日本代表、FC東京#3・森重真人に頭で決められてしまう。良い体勢でのシュートではなかったがインパクトの瞬間は誰も身体を当てることさえできていなかった。ここも悔いが残る場面だった。
さらには40分、自陣ゴール正面でファール、フリーキックを与えてしまう。キッカーは精密機械のように正確なプレースキックを武器にするFC東京#40・原川力。ゴールまでの距離は25m程度。キッカーから見てゴール左半分を隠すように8人で壁を作った。しかし壁の上を超えたボールは突如モリケンの視界に現れ、その瞬間モリケンはボール方向に跳んだが届かない。斜めに落ちる軌道で飛んできたボールはポストに跳ね返りゴールネットを揺らした。GKはノーチャンス。これで3点のビハインド。FC東京は前半シュート数3本で3ゴール、J1チームを相手に苦しすぎる前半が終わった。
立て直した後半、しかしゴール前は固い
1点目、2点目は特に悔やまれる失点だった。3点目はノーチャンスだったとはいえ、元を辿ればあの位置で安易なファールをするしかなかったのか。後悔先に立たず、切り替えて後半に臨む。実はこの時点で筆者としてはまだまだ期待しかなかった。というのも、昨年の天皇杯二回戦、名古屋グランパス戦も前半に3点のリードを許し、後半に2点返しそこから最後まで名古屋を苦しめた記憶があったからだ。まだまだいける。ハーフタイムには加倉に代えて梁、稲福に代えて森主が入る。後半はこの二人が効いていて攻守ともに良い場面が増える。
54分にはこの試合最大のチャンスを迎える。相手GKからのビルドアップ、前線からプレッシャーを掛けてハメに行く。GKに戻したボールを前にパスしたところを森主がカット、こぼれ球は拾われてしまうがそこへ瀬尾がプレスを掛けて追い込む。深い位置から出た苦し紛れのパスを池田がカット、フリーで運びポケットを獲る。ゴール前には大竹、ファーサイドには梁がフリーで構える。池田はここで切り返しを選択、しかしタッチが大きくなりあえなく刈り取られてクリアされてしまった。今季フル出場を続ける鉄人・池田直樹にも疲労が見え始めた瞬間でもあった。
このあとも左右サイドから良いコンビネーションで運び、何度かチャンスを迎えそうになるが、FC東京のボックス内の守備強度は当然ながらJ1クオリティ、簡単に跳ね返される。シュート体勢に入るのも至難の業で、脚を振れたとしてもシュートコースはなく、ほとんどが正面でブロックされてしまい得点の匂いさえも遠かった。前後半合わせて数字上ではFC東京を上回る9本のシュートを放ったが枠に飛んだのはわずか2本、いずれもGK正面に飛んだシュートだった。
そして試合終了。天皇杯二回戦、首都・東京でのチャレンジだったが、J1クラブを相手に果敢に挑んだ後半も得点を上げることはできず、ヴィアティン三重の天皇杯が終わった。
手応えを得た守備、突きつけられた課題
冒頭に書いた通り、間瀬監督は「ナイスなところは何も無い」と言ったが、会見の後半にはこの試合のために準備し、トライした新しい3つのチャレンジについてポジティブに捉えられる部分があったと語った。具体的には言及されなかったが、後半に3回あったFC東京のカウンターの場面、75分・#23 佐藤龍之介(U-19日本代表メンバーに選ばれていたが急遽チームに合流、なんと17歳)、78分・#9 ディエゴ・オリヴェイラ、82分・#28 野澤零温、この3回を見事に凌いだ(85分のカウンターはポストに助けてもらったが…)。列挙した選手の名前を見てもわかる通り、J1チームの一級品のカウンターを三度も凌いだことについては一定の手応えがあったと言える。
しかし3点目を除いた失点シーンはこれまでにもリーグで同じような失点をした記憶があり、あらためて課題として突きつけられた。これは相手がJ1だからやられたということではなく、ここからのリーグ戦で勝ち続けるために絶対に改善したいところだ。
そして攻撃の部分だけではなく、試合を通して細かなクオリティの差を見せつけられた。格上クラブだからクオリティが高くて当然と言ってしまえばそれまでだが、パスの精度、キックやトラップの質、フィジカルの強さなど、サッカーの基本的なところの差を見せつけられ、試合後の選手たちは口々にそこの差を語った。
楠本の突破、怪我から復帰の瀬尾と川中
試合を終えて映像を見返し、改めて印象に残った選手をあげておきたい。今季はここまでラインメール青森戦の1試合のみで少しピッチに立つにとどまっていた楠本羽翼が前半から縦の突破を何度も見せてチャンスを作った。また、Honda FC戦で復帰を果たしていた瀬尾純基は今回スタメンに名を連ねた。持ち前のクイックネスを活かして前からのプレスを掛け続けた。そしてその瀬尾に代わって57分からピッチに立ったのは怪我で出遅れていた川中健太だ。復帰後最初のゲームとなったこの試合では右サイドで池田と良い連携を見せて崩しにかかる場面があった。彼らの活躍はここから更に厳しくなるリーグ中盤戦の闘いにおいてポジティブな要素ではないだろうか。
全国にヴィアティン三重の名前を轟かせろ
天皇杯で、東京で、味スタで、J1クラブと、FC東京と対戦。こんなにパンチが効いたフレーズに反応しないサッカーファンがいるだろうか。我々ヴィアティン三重が闘うJFL(日本フットボールリーグ)はアマチュアカテゴリー最高峰の全国リーグではあるが、年30試合行われるリーグ戦の一戦にこのフレーズほどのパンチ力はない。
選手はもちろん、誰よりもこの大会の知名度とこの一戦が持つパンチ力を知っているのはヴィアティン三重のサポーター達だった。コールリーダーを中心に、それぞれがSNSで呼びかけ多くの人の目に留まり、リアクションに対してひとつひとつ丁寧にレスを返し、三重からの応援ツアー組だけでなく、東京在住の三重県出身の方や、同じJFLの他クラブを応援するサポーター、他カテゴリーのサポーターまでが集結し、試合が始まる前にヴィアティン三重のゴール裏にはJFL(+アルファ)連合軍が出来上がっていた。
そして試合が始まる前、いつもいるヴィアティン三重サポーターに、そしてこの日初めてヴィアティン三重を応援してくれる連合軍サポーターに向かってコールリーダーはこう言った「俺達ヴィアティンサポーターはどんな場面でもブーイングはしない!ヴィアティン三重の選手に対してはもちろん、FC東京の選手に対しても絶対にブーイングはしない!ブーイングをする力があるのなら、それは選手を鼓舞する声に変えよう!」この言葉に対して「うぉぉぉぉーーーーー!」と応える仲間たち。サポーター席の士気が一気に高まった瞬間を見て鳥肌が立つのがわかった。これはブーイングの良し悪しを言っているのではない、俺達ヴィアティン三重のサポーターはブーイングをしないという姿勢の表明だった。そして先制されても、3点リードされていてもその姿勢を貫き、最後までヴィアティン三重の選手たちを奮い立たせるべく声を送り続けた。
試合を終えたあと、再び鳥肌が立つ出来事があった。サポーターたちへの挨拶、メインスタンドへの挨拶を終えたヴィアティン三重の選手たちはキャプテン野垣内の一声でFC東京のサポーター席に向かった。拍手に包まれる中、横一列に並んで礼をする選手たち、そして選手等が顔を上げた時、FC東京サポーターからとてつもない音圧でのヴィアティン三重コールが沸き起こった。悔しさをにじませながらも感謝の想いを伝えに来たヴィアティン三重の選手たちは何度も手を上げ、そのコールに応えた。そしてそのコールに呼応するように、ヴィアティン三重サポーター席から東京コールのお返し。最高の光景を目の当たりにして全身にゾワッと鳥肌が立った。
少なくともこの日の味スタに居合わせた人たちの記憶には「ヴィアティン三重」の名前は刻まれたことと思う。
フットボールには夢がある
熱戦から一夜明け、消えない悔しさと目の前で起こった最高の光景を思い返しながらSNSを開くと、そこにたくさんの「ヴィアティン三重」に関する投稿が流れてきた。アイコンにオレンジ色が入ったアカウントだけでなく、青と赤の入った様々なアカウントからもたくさんの感想や激励の投稿がされているのがいくつも流れてきた。
あの日、味スタに居合わせた両チームの選手・スタッフ、両チームのサポーター、運営の皆さんやその他の観客、配信で声援を送ってくれた人たちも含めて、試合の勝敗を超えたスポーツの夢を体感した。あの日の味スタにはフットボールの夢がキラキラと輝いていた。勝負の世界に生きるチームは「試合に勝つ」という目的においての成果を得られなかったかもしれないが、フットボールの夢の世界に生きる僕たちには多くの成果があった。私はそう思う。
Jクラブがない我が三重県の人たちに、同じようなキラキラを見せてあげたい、三重県の子どもたちにも同じような夢の舞台を経験させてあげたい。いつかFC東京と三重で、同じ舞台で闘うその日のために。そのためにもここからいかにして前に進んでいくかが問われているように思う。大きな夢に近づくための歩みを止めることなく、そして目の前の闘いに勝ち続けるために、次はヴェルスパ大分が待つ大分に向かう。
三重の勇者よ、恐れず進め
俺らの声を、闘志に変えろ。