第104回天皇杯 1回戦 FC今治戦マッチレポート
宿敵・アトレチコ鈴鹿に3−1で快勝し2年連続で天皇杯三重県代表として本戦の出場権を獲得したヴィアティン三重。しかしその1週間後にはリーグで再びアトレチコ鈴鹿と対戦し逆に1−3で完敗。リーグでは今季三度目の3失点。快勝から1週間で大きな課題を露呈する結果となった。そして迎えたJ3・FC今治との天皇杯1回戦。カテゴリーが上の相手に対しどんな闘いを見せるのか。
目の前の闘いに勝利し、天皇杯を勝ち上がることは重要なことだが、チームは鈴鹿戦での守備の脆さを一番の課題に上げ、ラピスタで連敗しないことを掲げて今治戦に臨んだ。試合は随所にフィジカルの強さやボール運びの上手さを見せる今治が主導権を握る展開になったが、ボールを奪ったあとの縦への速い攻撃でチャンスを作りPKを獲得、その1点を守り切って勝利した。後半は相手に退場者が出たことでもう少し楽な展開になるかと思われたが、先制したあとチャンスは少なく、相手の攻撃を受ける時間が長くなった。しかし失点に繋がるような決定的な場面は一度だけ、あとはしっかりと守り切り勝利を掴んだ。
FC今治戦の勝利は実に2016年11月に行われた地域チャンピオンズリーグ1次ラウンド第3節以来8年ぶりのことだった。
天皇杯1回戦 スターティングメンバー
GK:㉑松本
DF:④饗庭・㉚篠原・②谷奥
MF:㉔池田・⑯稲福・⑱大橋・⑲児玉
FW:㉟寺尾・⑩田村・㉙加倉
SUB:①森・⑰野垣内・㉕藤澤・⑤菅野・⑦森主・⑨大竹・㊶梁
スコア・得点者
ヴィアティン三重 1-0 FC今治(J3)
前半:1-0 後半:0-0
《得点者》
34分:田村翔太(V三重)
ハイライト動画
前半・寺尾の突破でPK獲得、田村が決める
東からの風が吹く中、ヴィアティン三重ボールでキックオフ。試合の入りから風向きと荒れたピッチを考慮したのかロングボールを前線に繰り返し放り込むヴィアティン三重。まずは相手陣地でボールを動かしながら良い流れを掴みたいところ。開始から3分すぎ、相手ゴール前で加倉が最初のシュートを放つが大きく枠を逸れる。そこから10分過ぎまでどちらにもボールは落ち着かず互いの出方を探りつつ時間が過ぎる。
10分過ぎ、高い位置を取るヴィアティン三重のディフェンスラインのスペースを狙って左サイド裏に長いボールが入る。そこから立て続けに三度クロスを入れられるが饗庭をはじめとするヴィアティン三重ディフェンス陣が跳ね返す。しかしセカンドボールをことごとく拾われドリブルで持ち込まれシュート。至近距離からのシュートはクロスバーを越えたが最初の危ない場面を迎える。
14分、自陣でボールを奪ったヴィアティン三重、左サイド裏のスペースを狙って寺尾がパスを出す、走る田村。ワンタッチで折り返そうとするが相手DFがブロック、そこから一気に今治のカウンター。ゴール前右サイドからアーリークロスを入れられるが谷奥が真っ先に反応して頭でクリア。簡単にチャンスは作らせない。その後も相手の攻撃時には最終ラインを5枚で固めるヴィアティン三重、今治はその5枚が整う前に速いクロスを放り込む。そのたびに跳ね返す篠原と谷奥。
じわじわと相手が保持して受ける時間が長くなり始めるが中をしっかり固めて守る。時折ボールを持つ場面を迎えるがピッチコンディションと風の影響を受けパスがズレて簡単に相手に渡してしまう。なかなか相手ゴール前にボールを運べない。相手にチャンスを作らせてはいないが自分たちもチャンスを作れない時間が続く。25分には左サイドからゴール前ファーサイドに長いクロスを入れられるがすんでのところで池田が対応、相手選手と交錯したが松本が落ち着いて処理してしのぐ。
32分、自陣で相手の縦への浮いたパスを篠原がカット、谷奥から前を向いた稲福に預けドリブルで前に運ぶ。後ろからプレッシャーに来た相手選手を手で押さえてかわしスピードを上げる稲福。その前には相手のDFラインと駆け引きをしながら裏を狙う寺尾、その右には田村。そして稲福からのスルーパスが寺尾に出たがタイミングがわずかに合わす引っかかる。しかし持ち前の奪ってから縦に速い攻撃で相手の守備を脅かし攻撃の糸口を掴む。
その直後の34分、相手GKからのビルドアップに対し田村が前からプレスをかける。パスが出たところを加倉、寺尾が相手を囲い込みボール奪取、ボールを受けた寺尾がフリーでボックスに入る。目の前には今治のCB④市原が対峙する。ステップを踏んで相手をかわしたところで脚をかけられた寺尾が転倒、PK獲得。ファールした相手にはイエローカードが提示される。
PKのキッカーは田村翔太、蹴る前にゴール横にあるボトルを取り水分補給。大きく息をついて呼吸を整える。ボールを置いてゆっくりとさがりゴールを見る。迷わずゴール左を狙ったシュートは相手GKの逆を突きゴールネットを揺らす。先制点を奪い控えめに喜びを表すエース田村、駆け寄るチームメイト。少ないチャンスから貴重な先制点を奪った。
39分、今治陣内でフリーキック獲得、そこからの二次攻撃で右サイドから池田がアーリークロスを入れる。相手DFが跳ね返したボールを大橋が拾って前線の田村に浮かせたボールを入れる。うまく収めた田村、鋭いシュートを放ったが惜しくも枠の外。
41分右サイドから崩され中に切り込む今治の選手。先日の鈴鹿戦の展開が頭をよぎる。ヴィアティン三重の選手たちが中を閉めたことで二列目にボールを下げる今治、そこから強烈なミドルシュート。これを寺尾が脚を伸ばしてブロック。危ない場面をしのいだが寺尾が傷んでしまう。44分、自陣ゴール付近右サイドから今治のフリーキック。インスイングで鋭いボールが入ってくるが饗庭・篠原・児玉・松本が交錯しながらもしっかりと防ぐ。最後は今治の連続攻撃、コーナーキックを浴び続けるが守りきって前半終了。
後半・耐える展開が続いたが守りきる
ハーフタイム、前半終了間際に傷んだ寺尾に変わって梁が入る。かつてFC今治でプロキャリアをスタートさせた梁、古巣対決とあって気合いをみなぎらせてピッチに入る。46分、ヴィアティン三重の最終ラインから前方に大きく蹴り出したクリアボールに梁が反応し全力で駆け出す。相手陣内でワンバウンドして高く上がったボールに対し、先にボールの落下地点にたどり着いた梁に対し一歩遅れた相手DFが脚を出す。これが梁を蹴る形になりファール。ファールをした選手は2枚目のイエローカードを受け退場処分、後半の早い時間に相手は10人に。自信が獲得したフリーキックを梁が自らが蹴ったがここは壁に当たってコーナーキックに。二次攻撃から児玉のシュート、稲福のミドルと続けたがゴール前を固める今治の守備に阻まれる。
今治は前にボールを運ぶと徹底してサイドからゴール前にボールを入れてくる。サイドでの剥がし方、クロスの精度、ゴール前の強さで上回って来るが、質は高くても明らかな狙いに対し集中した守備で対応し決定的なシュートは打たせないヴィアティン三重の守備陣、鈴鹿戦で出た課題にしっかりと取り組んできた成果を見せる。
64分、加倉に代わって大竹が入る。10人になっても数的不利を感じさせない今治の分厚い攻撃にヴィアティン三重は受ける時間が長くなる。68分、相手が最終ラインにボールを下げたところで前からプレッシャーをかける大竹と梁、そしてパスが出たところを狙って左サイドの児玉がインターセプト、そのままスピードを上げてドリブルで一気に運ぶ。進路を中に絞りポケットを取ったところで後ろから駆け上がってきた梁を狙ってマイナスのクロスを入れる。右脚で合わせた梁だったがミートする瞬間にボールがわずかに弾みシュートは大きくクロスバーの上を越えてしまう。
70分、稲福に代わって森主が入る。後半の半分が過ぎ、苦しい時間帯にピッチに立ちチームメイトに喝を入れる燃える闘魂・森主麗司。ここから立て続けにコーナーキックからの波状攻撃を浴びる。全員がゴール前で身体を張って守備にあたるが、密集をかいくぐってゴールを狙う今治の選手たちは少しでも確率の高い決定打を求めてゴール前でも落ち着いてボールを回す。ヴィアティン三重の選手たちが振られたところで反対サイドに出し狙いすましたコントロールショット。しかしここはゴールポストを叩き九死に一生を得る。ハイライト動画には映っていないがこの試合最大のピンチはゴールポストが救ってくれた。
80分、自陣でボールを奪い右サイドで池田が粘ってボールキープ、前から梁が降りてボールを受け再び右に開く。前線には田村、大竹が走りゴール前中央の大竹を狙って梁がアーリークロスを放り込む。大竹が頭で合わせたが枠を捉えられず。しかし前掛かりになる今治の守備陣を脅かし追加点のチャンスを伺う。その後もヴィアティン三重陣内でのプレーが続き少しの時間も気が抜けない守備の時間が続く。繰り返しになるが相手は一人少ないことを感じさせない圧力で攻撃を仕掛けてくる。
84分、田村に代わって菅野、大橋に代わって野垣内が入る。残り10分を切って1点を守りたいヴィアティン三重、最後の交代枠を使う。ゴール前を固めるヴィアティン三重に対しサイドから早めにクロスを入れてくる今治。ゴール前で防ぐとそのままコーナーキックに。上から落ちてくる正確なボールを入れられるが長身の谷奥、饗庭が必死に競って弾き返す。
残り時間が少なくなりゴールが欲しい今治は立て続けにロングボールを前線に放り込みゴールへ迫る。アディショナルタイムは5分。そして90+1分、自陣ゴール前で梁がボールを拾い大きくクリア。落下点には大竹、ボールを収めて時間を使いつつ味方の上がりを待つ。そこへ猛然と走ってきたのは途中出場の森主、ゴール前のスペースを指差し大竹にパスを要求、後ろから相手選手が追いかけてきたところでダイレクトでシュート。しかしわずかに相手選手のブロックに押さえられながら放ったシュートはGKの正面、最後に訪れた決定的な場面をものにできない。
ラストプレーはヴィアティンゴール前左サイドから今治のロングスロー。最後のチカラを振り絞って梁がクリア、セカンドボールを再び今治が拾ってクロスを入れる。中央で谷奥が身体を寄せ自由にやらせない。そのボールがゴールを越えていったところで試合終了のホイッスル。そのままうつ伏せで大の字の谷奥、両手を突き上げる饗庭、出し切ってしゃがみ込む梁、児玉。耐えに耐えて天皇杯1回戦に勝利した。
後半だけでコーナーキック9本、鋭いクロスは10本以上入れられたがそのたびに全員で跳ね返した。10人の相手にスッキリした勝利とはいい難い内容ではあったが、勝つことが最も重要なトーナメント戦らしい、気持ちのこもった試合ぶりで2回戦に駒を進めた。
取り戻した自信、次に繋がる大きな勝利
試合後の間瀬監督はこの試合がもつ3つの意味を挙げた(試合後コメント参照)。その中でも「三重ダービーでの不甲斐ない試合、不甲斐ない守備を払拭するリベンジマッチ」としての比重が大きかったと語り、それをテーマにこの1週間準備したこと、守備戦術、風やレフェリングなどの環境、ひとり少なくてもダイナミックに畳み掛けてくるFC今治の攻撃、それらにしっかりと対応しての勝利は、多くの人の信頼と選手たち自身の確信を取り戻した試合になったと評価した。
リーグの成績や順位に関係がないとはいえ、天皇杯の試合はチームの知名度や存在感を世に知らしめる意味で非常に重要なものである。とはいえ応援するものや観客にとってはどこかお祭りのような一面がある。しかし今回の1回戦は過去に経験したどの天皇杯の試合よりもシリアスな一戦だったと感じる。それはやはり三重ダービーの敗戦を踏まえて、チームはどうやって守備を立て直し、J3のFC今治に対してファイティングポーズを取るのか?そこに注目が集まっていた。そして虎の子の1点を守り切り勝利を掴んだ。
内容的には随所で今治が上回った印象は否めないが、「絶対に失点しない」というチームとしての明確な意思が90分を通して伝わる試合だった。失点しなければ負けることはない。その守備をベースにあとはどれだけ攻撃でチャンスを作りゴールにつなげるか。次は攻撃陣の得点力アップに期待したい。
この一戦で取り戻した自信をベースに次週はアウェイでソニー仙台FCと対戦する。その自信をさらに確固たるものにするためにもクリーンシートで勝利を掴みたいものだ。そして翌週はホーム・四日市でのHonda FC戦、その3日後には天皇杯2回戦、アウェイ・味スタでJ1・FC東京との対戦が待っている。ここからヴィアティン三重はもっともっとエキサイティングで魅力的なチームに進化していく。その背中に遅れることなく追いかけよう。
公式記録
試合後コメント・フォトギャラリー
■天皇杯 JFA 第104回全日本サッカー選手権大会
6月12日(水)2回戦
vs. FC東京
■NEXT GAME
6月1日(土)JFL第10節アウェイ
vs. ソニー仙台FC
■NEXT HOME GAME
6月9日(日)JFL第11節ホーム
vs. Honda FC(四日市開催)
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