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スーパーノヴァ

車窓の中で知らない街がとおりすぎていく。私はまた大学に向かっている。一学期が終わる。おわって、夏が来て夏を超えて秋になって冬が過ぎてまた一年が回る。今年が終わる。
今年が終わったら、会えなくなる人もいる。二年生までで二外(第二外国語のこと)はおしまいだから、ドイツ語のみんなには会えないね。英語のクラスの友達にも会えないね。
大学を卒業してどれくらいの人がこれから先も友人でいてくれるんだろう。本当に浅い関係値を広く、あまねく作っていて、それはどうしようもなく頼りないのだと知っている。


高校のときのことを思い出す。9時まで部室に篭ってみんなで人狼した。閉校舎に夜遅く侵入してこっぴどく怒られた。女子更衣室のテリトリーはあそこが私のエリアで、先輩から付け継いだジョジョの漫画を詰め込んでた。つめたい床に、だらりと寝転がる。光がまぶたを横切っていく。邪魔だぞと蹴られて、痛いなーと言いながら笑った。痛みでさえも、心地よかった。
廊下を満たす蜂蜜色の陽。薄く伸びた影。放課後という言葉の響きのまろやかさを、忘れかけている。夜の果てしなさも、なんにでもなれるような気持ちも、永遠にこのままでいようぜって雑魚寝したあの日、絶対に絶対に忘れたくないって思ったのに。


五限の途中で、教室を抜けた。二外のドイツ語。教室は5階にあって、大きな窓から東京が見渡せる。
廊下に出たら、視界が一色で埋め尽くされた。純度100%の、澄んだオレンジ。つき当たりの細い窓から、その細さいっぱいに夕陽が体を捩じ込んで、光り輝いている。足元に達する橙のきらめきに、しゃがみこみそうになった。高校のことを思い出した。文化祭で銃をデコったとき、白く塗り込んだリボルバーに夕日が反射してきれいだった。カーテンが揺れてその先に私の街が見えた。よく知った、大好きな街だ。

床にさんざめく、オレンジを踏みながら行く。光と一緒に私の過去が、大事な記憶が、はじけて全身を駆け巡る。
夏がきらめきを帯びて、あのころの匂いをさせて、すぐ後ろまで来ている。息を吸って、トイレ行って、それからちゃんと教室に戻ろう。

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