見出し画像

ある日の日本(1)

202X年、日本の新しい憲法が国民の無関心のまま発効した。
東京五輪は新型コロナの脅威におののきながらも開催され、なんとか成功裏に終わった。
最近、北朝鮮からの弾道ミサイル実験が日増しに多くなり排他的経済水域(EEZ)を簡単に超えて来る。
その落とし方が、何度もやっているせいか、精度が絶妙に高い。

一方で自衛隊は、いまだ軍隊になれないまま、中途半端な装備で日本海側でのスクランブル発進が増えた。

新憲法のもと、国民の間で、自衛官の予備役に志願する市民が増えた。国民に広く国防に携わってもらえるように、予備役に対するハードルが下げられたのだった。
それも主婦やOLなど女性が目立った。
あたしも京都府宇治市にある大久保駐屯地に、近所のおばさんに交じって「市民国防講座」に出席している。
スタンプラリーみたいになってて、全30もの講義に出ると、毎月、お米が五キロもらえるのだ。
それに、修了試験に及第すると、各地の特産品などがもらえる特典がつく。
実技もあって、「八九式小銃」や「SIGP220拳銃」なんかを試射させてもらえる。

今日は、二時からミサイルの誘導(ホーミング:帰巣本能)技術の講義だった。
「ミサイルの誘導にはそこにありますように、電波を使うものと光を使うものがあります。電波はラジコン、光はテレビのリモコンみたいなものと思っていただいて結構です」
黒板の前で、伊藤三等陸佐が明るい声で語りかけ、受講生から笑いが起こる。
主婦の間では人気の講師だ。
「電波を使う場合、ミサイルが目標から発せられる電波に引き寄せられる方式や、ラジコンのように発射側から誘導電波を発してミサイルで受ける方式をまとめてパッシブといいますよ。いいですか」
新しい言葉がどんどん出てくる。
家庭にいるような平和な主婦にはチンプンカンプンだ。
「そんで、ミサイル自身が電波を発して目標に当て、その反射を受けて誘導されるものをアクティブ方式といいます。ま、そういうものがあるという程度のご理解で結構です」
伊藤三佐は、板書が好きらしく、言いながらつぎつぎに書いていく。
「このようにね、ミサイルが発射されますね。こないだ話した地対地ミサイルの例ですと、このミサイルが慣性航法の時期を脱してですね…こうですね、指令誘導、アクティブまたはパッシブで目標をとらえて…ドカンと命中するわけ」
慣性航法とは、文字通り打ち上げのエネルギーを使って加速度運動の弾道を言う。
この辺りは先週の講義でやったところだった。
「北朝鮮が撃ってくる弾道ミサイルは、ほぼ慣性航法とパッシブ誘導だと考えられますが、ロシアの技術を入れてますんで、アクティブもしくはセミアクティブである可能性も否定できません」
「トマホークなどは衛星航法、つまりGPSですね、これを使っていて、対地ミサイルとしてはかなり優秀なものです。またコンピュータにより地形を照合して目標を補足する装備もあり、狙われたら外しません」
ほお~っと会場がざあわめいた。
「では、動画でご説明いたしましょう。赤井君、部屋を暗くしてください」
これがまた眠たくなるのだ。
あたしは、今晩のおかずを頭の片隅に置きながら、ホーミングシステムの教育映画を観ていた。

こんな毎日がくるのかな?
徴兵制より志願のほうが国民に自己責任を押し付けられるので政府もやりやすいのだ。

まあ、夢に終わってほしいけど。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?