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吉田拓郎のメッセージ

私はね、メッセージソングって言うのがあまり好きではないのです。前向きな歌詞で自分を鼓舞するなんてのが、気恥ずかしいし、聴いていられない。

ところが吉田拓郎の『元気です』とかは聴ける。とてもいいと思う。ダメな自分でも、少しは過去の自分よりは「良くなっている」と思わせてくれるからかもしれません。

人の歩みなど蝸牛のごとく、ゆっくりしたものなのかもね。それでいいじゃないかと思えるのです。

もうひとつ、拓郎のメッセージ性の強い歌が『人生を語らず』だと思います。

ライブ盤です。「今は人生を語らず」と歌い上げます。他人に人生を語るほど自分は傲慢ではないと言っている。自分の人生は、どう生きようとそれは自己責任です。大成したからとて、人に押し付けるものでもない。「私はこうやって成功したから、あなたも真似しなさい」なんて言えませんよ。言っている人も多いけれども…

そういう「押し売り」や「押し付け」をしないのが拓郎のいいところなんだなぁ。

もう一曲、『イメージの詩(うた)』をお勧めしたい。長い曲です。6分以上あります。私は知らなかったが、彼のデビューシングルだったそうです。

短いメロディーで綴られる、彼の哲学的な問いかけが延々と続きます。「男はどうして女を求めてさまよっているんだろう。女はどうして男を求めて着飾っているんだろう」といった具合に、とても考えさせられる歌詞が散りばめられているんです。彼は二十代でそういう疑問を投げかけ、自分なりの結論に到達していたのかと思うと、首(こうべ)を垂れずにはおれません。

そうすると『大阪行きは何番ホーム』は拓郎の紆余曲折を切々と吐露しているのではないでしょうか?

これもライブ盤でご紹介しますが、若い拓郎ではなく、人生経験(女性経験?)を積んだからこその歌い上げのような気がします。ごく普通に家庭を持ち、子供も成したけれど、それは自分の考えていた道ではないと、ふと思ってしまう。誰でもあることなんですが、拓郎は旅に出てしまう。釈迦のように出家する(動機が違いますが)のです。そしてまた女と出会う。その人は拓郎より賢いらしい…自分の愚かさに気づいて、男はまた旅に出る。東京駅のホームに佇み、大阪をめざそうとするのだった…

曲調は単調ですが、それは語りに重きを置いた作品だからです。これは琵琶法師が語る「平家物語」のようなものなのです。拓郎が琵琶法師に見えてきますよ。

ますます吉田拓郎が好きになり、また聴きたくなる私でした。

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