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祐奈 (2)

母さんお肩を叩きましょ
タントンタントンタントントン

真っ赤な罌粟(けし)が笑ってる
タントンタントンタントントン
(西条八十 作詞)

祐奈は、お下げ髪を揺らせて、罌粟畑を歩いていた。
戦前から有田郡は罌粟の産地で有名だった。
戦後、あへん法が成立してから、罌粟の栽培は許可制になり、このあたりの農家は政府の許可を得ているという。

赤い花が、風に揺れている様は、まさに笑っているように見えた。

祐奈は数えで十六の生娘になっていた。
隣村の若者からも言い寄られるほどの器量良しだったが、誰の誘いも頑(かたく)なに拒んで、操(みさお)を守っているようにみえた。

学校へは上がらずに、家のみかん畑の手伝いをしながら、祐奈は祖父母を助けていた。
みかん農家は、家族だけでは手が足りないので、大阪や奈良から住み込みの手伝いを雇うことが常態化していた。
初夏の間引きの季節、摘んだ青いみかんは静岡の磐田化学に出荷する。
なんでも工業用クエン酸の製造に使われるそうな。

杉本の家にも、佐野の犬鳴山(いんなきやま)から上田倫太郎という三十くらいの男が毎年、手伝いに来る。
倫太郎は、もとは新堂の出で、湯浅の醤油樽を作っている家の娘を娶(めと)り、水間(みずま)鉄道沿線に引っ越したのだった。
だから、祐奈の祖父とは旧来の知り合いで、祐奈も倫太郎のことは幼い頃から見知っていた。

相変わらず祖父の慶次郎は絶倫で、年頃の祐奈が寝静まるのを待って、毎夜、祖母の幸恵を抱いた。
当の祐奈は、寝たふりを装って、祖父母の交歓に耳をそばだてて、やり場のない情欲を自らの手で慰めていた。
月のものが来そうな時ほど、たまらない気分になり、まだ男を知らない秘穴に指を入れてかき回してしまうほどだった。

月の明るい夜に、厠(かわや)に立った祐奈は、激しい男女の息遣いにはっとさせられた。
祖父母の寝所である床の間の障子は「雪見」の玻璃が中ほどに一枚嵌めこまれていて、そこから中を垣間見ることができた。
月明かりに、祖母が祖父の上に乗り、腰を激しく振っていた。
あんな祖母を見たのは、祐奈も初めてだった。
いつも祖父に後ろから突かれているか、祖父が祖母の足を左右に開いて上から挿しこんでいるかだったから。
祖母の顔は暗くてよく見えないが、大きな乳房が弾み、豊かな腹肉が波打っているのが窺(うかが)えた。
祖父はというと、にやにやしながら、祖母の乱れようを眺め、老いてはいても筋骨たくましい、見事に割れた腹に力をみなぎらせながら、祖母の動きに合わせるように腰を突き上げている。
還暦を過ぎたところの男女とは思えない、若々しさで交わっていた。

ひとしきり夢中になって祐奈は祖父母の交接に見入っていた。
「おい…」
ふいに肩を叩かれて、祐奈はびくっと飛び上がりそうになった。
振り向くと、倫太郎が後ろに立っていた。
「ゆうちゃんも、ああいうの、覗くんやな」
「いや、あの、あたし…」
しどろもどろになって、祐奈は慌てた。
「逃げんでもええやん」
手首を掴まれて、祐奈は身動きが取れなかった。
「濡れてんやろ」
耳元で、倫太郎がイヤらしくつぶやく。
「…」

アアン、アン、アン…
あられもない、祖母の高まった声が、床の間の障子を震わせる。
「しかし、すげぇな」
呆れているのは倫太郎の方だった。
「来いよ」
強引に、手首を引っ張られる祐奈だった。

倫太郎は部屋を一つあてがわれていて、北向きの湿っぽい四畳半だった。
もともと、使わない電化製品やら、貰い物の花瓶や茶器などを詰め込んでいた部屋だった。
せんべい布団が一揃え、敷かれていて、今まで倫太郎が寝ていたのだろう、蛻(もぬけ)のように掛け布団が膨れている。
常夜灯がそれをぼんやり照らしていた。
「寝ろよ」
「いやよ」
「やりたいんやろ?」
「知らない」
祐奈は、倫太郎に突き飛ばされ、汗臭い布団に転がされた。
寝巻きを脱ぎながら倫太郎が祐奈にかぶさる。
はむ・・・
厚い唇が祐奈の小さな唇を覆った。
べちゃべちゃと、下品な音を立てて、生臭いつばの匂いが祐奈を眩暈させた。
口はこじ開けられ、熱い舌が侵入し、上顎といい、頬の裏といい、むせるような男の匂いで満たされた。
祐奈は濡れていた。
浴衣の合わせ目をはだけて、ズロースの上から、自分の手でさすっていた。
「この男にやられたい・・・」
祐奈の理性は、どこかに吹き飛んでしまったようだった。
倫太郎が、まったく知らない相手ではないことも祐奈に安心感を与えていた。
ただ、彼は妻子持ちで、いわば祐奈とは不倫という世間では許されない関係だということが、祐奈にこれ以上の行為に及ぶことを押しとどめていたのだが。

激しさを増す、倫太郎の愛撫は祐奈のそんな気持ちを押しやり、祐奈を軟化させた。
「あふう・・・」
「いいんか?めっちゃ濡れてるで」
「いや、そんなん、言わんといて」
小さく祐奈が言った。
「おれが、優しいしたるしな」
「うん。でも奥さんが…」
「だまってたら、わからへん。それにあいつ、吉生(よしお)ができてからは、おれとは嫌がるんや」
そんなことを言いながら、倫太郎が祐奈の女陰を舐め回す。
「やっ・・・いやっ」
身をよじって、祐奈はもだえた。
こんな気持ちのいいことは、自分だけでは経験できない。
あれよというまに、祐奈は裸にされ、倫太郎も素っ裸で、隆々と勃起を見せていた。
「暗いな」
倫太郎は電灯の紐を引いて、明かりをつけた。
眩しいサークラインが灯り部屋を一変させた。
裸の男女が裸体を晒している。
祐奈の青いが、しっかりと肉がついた体は、女の香りを芬芬とさせており、倫太郎も男盛りのたくましい裸体を見せていた。
別な生き物のような男根が、血管を浮かせて祐奈の方を向き、透明な液体をその口から滴らせている。
「どうや?見たことあるんか」
「ううん」
「慶次郎さんのを見たことはあるやろ」
「うん」
確かに、祖父のものは見ている。
倫太郎のほうが長いように思えた。
祖父の男根はふしくれだった老松の幹のようで、老練の風情があったが、彼のものは研ぎ澄まされた槍のようだった。
「ゆうちゃんは、おぼこやろ?」
その意味を知らない祐奈ではなかった。
「うん」
「痛いかもしれんな」
男根を自分に入れることを言っていることは、祐奈にもわかっていた。
こういった村では、どこの娘でも十代後半にもなると親戚やら、近所の若衆やらに破瓜を経験させられるものだった。
幸い、祐奈にはそういった相手が現れなかった。
今、倫太郎に自分の操(みさお)を提供するのも運命と感じていた。

祐奈は股を左右に大きく開かされ、倫太郎を受け入れる態勢にさせられた。
赤黒い倫太郎の「男」は祐奈を睨みつけているようだった。
倫太郎が手で、その分身を押さえ、祐奈の谷筋に先を当てる。
そして二三回、こすると、しくっと頭を潜らせてきた。
祐奈は痛みを感じなかった。
自分で慰めるおりに、すでに手指を挿しこんだ経験が、破瓜を楽にしていたのだろう。
「おお・・・」
倫太郎が息を吐き、感嘆の声を上げる。
ずぶずぶと長い性器は祐奈を貫き、根本までしっくりと収まった。
祐奈は目をつむって、倫太郎を感じた。

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